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給食をオーガニックにしたら、子どもたちは本当に笑顔になるの?:44杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

先日、「オーガニック・無添加にこだわった食生活をしていた」という女性のお話を聞く機会がありました。豊かで健康的な暮らしのためにそうしていたらしいのですが、実際はどうも違ったそうです。しばし耳を傾けていると、巷で話題の「オーガニック給食運動」とも似ているところがあるように思いました。今回はその女性のお話を聞いて感じたことを述べます。

有機食品に走っていたとある女性

その女性は旅行で長崎を訪れていた方でした。

たまたまその場には農業関係者の男性もいて、私たちは3人で話していました。

会話の中で男性が「“有機だから安全”ってよく誤解されますけど、安全性と有機栽培は関係ないですもんね」と言うと、女性は「ええ⁉ そうなんですか⁉」と驚いて詳しく尋ねてきました。

私と男性が「そうですよ。有機野菜はもちろん安全ですけど、そうじゃない野菜も安全です」と説明すると、「ああ、もっと早く知りたかったなあ。あの数年は何だったんだろう……」とため息をついて、過去の体験を話してくれました。

体調が優れないときに誤情報と出会う

女性は一時期、体調が優れなかったそうです。

そのときに「身体の不調は食べ物(農薬や添加物など)のせい」という類の記事を読んで、オーガニックと無添加にこだわった食生活を送っていたとのことでした。

振り返りながら「オーガニックじゃない野菜は良くないと思っていて、買い物するのも大変だったんですよ」と呟いていました。

私が「それでも、ちょっとでも楽しく買い物して、美味しく食べていたなら良いんじゃないですか? オーガニックが良くないわけじゃないですし」と言ったところ、女性は「いや、それが、全然良いことなかったんですよ」と首を横に振りました。

辛かった有機生活

オーガニック生活時代のことを詳しく話してくれました。

その内容は

    • 買い物の選択肢が極端に減った
    • 食べる野菜の品目と量が減った
    • 鮮度や味が悪くて値段が高いものでも“有機”とついているものを我慢して買っていた
    • オーガニックや無添加じゃないものを悪い物だと思っていた
    • 食事の豊かさが減ったので、生活が楽しくなかった

など、辛い思い出がいっぱいでした。

そして、「今はそういう生活はやめて、何でも好きなものを買うようにしています」「ずいぶん気持ちが楽になった」と今の心境を語り、「今日の話を聞いて、スーパーで買っている野菜も安全だと知れてよかった」と喜んでいました。

本来笑顔で美味しく食べて良いはずなのに、誤情報一つでこんなに人を苦しめてしまうのかと思い、私は言葉を失いました。

慣行農家はもちろん、有機農家だってこんなことは望んでいないはずです。

慣行を貶めての有機推奨は逆効果

私は一連の話を聞いて、巷で目にする「給食の野菜をオーガニックに!」という運動のことを思い出しました。

もちろん、オーガニック野菜自体は悪い物ではないので、給食で使う分には大いに結構だと思います。

有機農家や事業者が、慣行農業を貶めることなく、「このオーガニック野菜をぜひ給食に!」と売り込むのも良いと思います。

ですが、実際は違います。

有機農家でもなければ事業者でもない人たちが(多くは謎の健康ビジネスなどに関係)、変なトンデモ情報で給食の不安を煽りながら進めているのが「オーガニック給食運動」なんです。

オーガニック給食運動を勧めるチラシやSNSを見ると、「汚染」や「健康被害」など事実とはかけ離れた恐ろしいキーワードがずらりと並び、これでもかというほどに食べ物の不安を煽っています。

ここまで言われると、安全だとわかって食べている私でもちょっと食欲がなくなってしまいます。

情報一つで食事の楽しさも美味しさも変わってしまうものです。

今回聞いた女性の話は、何も特別な例ではなく、誰にでも当てはまるものではないでしょうか。

長崎にも「オーガニック給食運動」を推進する政治家や活動家がいます。

彼らは「給食をオーガニックにしなければ子供たちの笑顔は守れない」といった趣旨のスローガンを掲げています。

農家と、納入業者と、給食関係者と、たくさんの人たちが一生懸命作っている今の給食は、笑顔で食べてもらえないのでしょうか?

私は尋ねたい。
「子どもたちから笑顔を奪っているのは、いったい誰なんだ?」と。

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

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