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第48回「オーガニック給食実現に向けてみんなでワクチン反対の映画を観よう」みたいな話は全然有機農業のためにならない【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

お笑い芸人とごみ清掃員の仕事を兼業するマシンガンズ滝沢氏が、ある日SNSで、農業の被覆肥料による環境汚染を憂慮する投稿をおこなった。

滝沢氏は「被覆肥料とはプラスチックに覆われた肥料で利便性は抜群だが、田んぼから出れば、全てマイクロプラスチックになる」「その量は想像を絶する」として、肥料の殻が川べりに大量に残留している写真を載せ、「まずはこの問題を知ってほしい」と訴えている。

このような光景を不快に感じ、なんとか解決できないかと感じるのは、誰にでもある自然な感情だと思う。
滝沢氏は日頃からごみ収集の現場事情やごみの分別についてわかりやすく発信をおこない、子ども向けも含め著書も多数出版している。
その影響力で、被覆肥料殻が川や海に流出している実態を多くの人が知るのは意味のあることだ。

被覆肥料由来のマイクロプラスチックはごくわずか

被覆肥料殻は大きくて目立つので、汚染の現場がわかりやすい。
一方で、リスク学研究者の永井孝志氏によれば、被覆肥料由来のマイクロプラスチック排出量自体は、全排出量のうち1%以下と目されている。

逆にドイツの研究では、目に見えにくいタイヤやアスファルトなどの摩耗が排出源として圧倒的に多い割合を占めていることが明らかになっているという。

割合が僅かなのだから無視すれば良い、という意味ではない。
永井氏はこうした事実を踏まえた上で、少量のプラよりは肥料自体の流出の方が環境負荷が大きく、水管理などの見直しでどちらも流出防止を図ることが重要だと提言する。

また、プラスチックを使用しない被覆肥料の開発なども進められており、業界として無策なわけではない。

永井氏の視点が重要なのは、被覆肥料の流出について、「目の前の光景から感じる不快感」とは切り分けて、マイクロプラスチック問題の全体像のなかでそのリスクの大きさと種類を位置付けようと試みていることだ。

ともすればわかりやすい、直感的に不快と感じるものに非難を集中させることで、当事者は「やってる感」を得られるかもしれないが、その裏に本当に向き合わなければいけない問題が覆い隠されてしまう場合がある。

「学校給食に有機食材を取り入れるために、ワクチン反対の映画を観てもらおう」の謎

本連載で度々言及してきたオーガニック給食に当てはめて考えてみよう。

オーガニックビレッジに取り組む自治体数がバブル的に増え続けるなか、オーガニック給食は有機面積拡大の手法として、もはや「定番」と化しつつある様相だ。

その一方で、かねてから指摘してきたように、括弧付きの「オーガニック給食運動」の政治利用や、反医療・陰謀論・マルチビジネス等の接続といった懸念材料は少しも払拭されていない。

ここ最近でも、埼玉県の桶川市で市民団体らが主催する『食・農・給食の映画祭』では、なぜか最初のプログラムで小児科医の真弓定夫氏(故人)を題材としたドキュメンタリー映画が上映されることになっている。

真弓氏は生前、「薬を出さない・注射をしない自然派小児科医」として知られ、妊婦や母親層に向けて多数の講演活動や執筆をおこなってきたが、その主張は「母子手帳は乳業会社が販促のために作った」「砂糖は悪魔」「ワクチンは絶対に打つな」など、明らかな嘘や誇張、陰謀論を大量に含んでおり、悪質性が高い。

「学校給食に有機食材を取り入れるために、ワクチン反対の映画を広く観てもらおう」という理路は、おそらく一般的な市民生活の感覚からは激しく乖離している。
だが、それに気がつかないか、気づいても無視している人たちが、オーガニック給食を推進している。

このような仕方に目を瞑って拡大された有機農業は、本当に何らかの社会課題の解決に資するだろうか。
これまでに触れたような参政党の登場や、内海聡氏の都知事選出馬といった現象もその副作用のひとつだとすれば、将来私たちが支払う代償の大きさは、どれほどの規模になるだろうか。

「やってる感」が覆い隠してしまう、本当に向き合うべき問題

オーガニック給食という施策が「地域の有機農業面積をある程度まで増やす上では」ひとまず有効であると仮定して、その動機をあえて純粋に「有機就農/転換期間中の販路支援」に絞ってみてはどうだろうか。

なぜそれが有機なのか? と問われれば、「高単価で売れる有機栽培を経営の選択肢に取り入れてもらうことで、地域の農業経営の持続可能性を高める。そのための試行的な施策のひとつである」と答えれば良い。

有機農業があらゆる社会問題に対する万能の処方箋であるかのような誇大妄想は、本当の問題を見えなくして先送りにしてしまう。

安全性や栄養価は言うまでもなく、環境負荷低減・生物多様性向上に寄与できる取り組みも、今や有機農業の専売特許ではない。

例えば水稲における生物多様性保全効果について、令和3年度に農水省が36道府県で調査した結果、有機農業は総合評価で慣行農業よりは高いが、IPM(総合的病害虫・雑草管理)よりは下回っており、冬期湛水管理ともほぼ同等で、突出した優位性は認められていない。

農林水産省 令和3年度12月 環境保全効果の調査・評価 及び中間年評価の構成について(案)より

農林水産省 令和3年度12月 環境保全効果の調査・評価 及び中間年評価の構成について(案)より

この結果自体は何ら有機農業の価値を損なうものではない。
単にそれ以外にも有効な幾つかの選択肢、取り組み方があるということが示されているだけだ。

その全体像を示した上で、俯瞰的に有機を位置付けることが重要になっていくだろう。

被覆肥料だけにフォーカスしてもマイクロプラスチック問題の解決にはほぼ影響しないのと同様に、有機農業だけを強引な施策で(多大な代償を支払って)推進しても、農業の構造的な課題解決にはほとんど寄与しない。
そのことは有機農家の久松達央さんが著書『農家はもっと減っていい』でも喝破している通りだ。

一方、世界的に有機食品のマーケットが拡大しているのは(その内実についての是非はいったん脇に置くとしても)事実なので、需要に応じた経営判断として有機の選択肢は当然あっていい。

仮に将来的に価格が下落し、経営的メリットが薄くなったことで規格としての有機を手放した場合でも、別のインセンティブが残されていればただちに環境負荷低減の取り組みが後退することは考えにくい。

有機農業から余計な情報を削ぎ落とす

これらを踏まえた上で話を戻そう。
重要なのは、有機農産物のプロモーションをおこなう際に、不要な下駄を履かせないことだ。

例えば給食に使用することで販路を確保したいのであれば、栄養士や調理師、教師や子ども達にも、その内情を包み隠さず、実直に伝えれば良いと思う。

有機だからおいしい、農薬を使っているから危ない、栄養が足りない、病気が増える、子供達のためにとかは、言う必要がない。
いつだって、それで話がおかしくなる。
有機に注目を集めたいばかりに、高く売りたいばかりに、問題へのフォーカスの仕方がずれてしまう。
できあがった農産物に自信があれば、そのような言葉は自然に手放すことができる。

給食を食べる子どもにマイクを向けて「有機はおいしい」と言わせるような光景は、一見「子ども達のため」に見えても、その実、子どもの知性と主体性を相当に低く見積もっているように思う。

大人に都合の良い筋書きを押し付けるのではなく、農業にまつわる問題の全体像と、考えられる対策のメニューをテーブルに広げて共有した上で、地域の当事者としてともに悩み考え、手を動かすようなアプローチだって、そろそろ出てきても良いのではないだろうか。
その過程では自ずと有機農業にも、地道で確固たる役割が与えられるはずだ。

※記事内容は全て筆者個人の見解です。筆者が所属する組織・団体等の見解を示すものでは一切ありません。

 

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