寄付 問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています
「SNSでこんな話を見たんだけど……」子育てママの質問に答えます:35杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】
コラムの仕事をしていると、「こんな話を聞いたんだけど、これってどうなの?」という質問をいただくことがあります。質問を下さる方の多くは、子育て中の母親たちです。私も育児して感じるのが、子育ての場面では本当かウソかわからない健康情報に遭遇しやすいということです。そして、母親たちは(イベントやママ友の勧誘などで)父親以上にそうした情報に出会っているようです。そういうわけで、私はこれから子育てママの質問に答えたり、参考にしてもらえるようなコラムを書いていこうと思います。
子育て中の母親からの質問
今回いただいた質問はこちら。
「SNSで“最近の野菜は栄養が少ない! スーパーの野菜は良くない! 現代型栄養失調になっているかも!”というのを見かけたんだけど、これって本当?」
今回のコラムでは、質問者の方に見せていただいたこの記事を例に挙げたいと思います。
記事では、現代の野菜の栄養が昔のものよりも少ないデータを集めて紹介され、「論文が示している」という体で書かれています。
そして、原因として「土壌へのダメージ」を挙げ、最後に「女性は貧血を引き起こす可能性」が指摘されています。
たしかに、これを読めば不安になるのもわかります。
読んでみて「そもそも比較ができるものでもないのに、都合のいいデータだけ集めて結論付けるのは乱暴じゃないかな?」「よりによって1950年、日本で言ったら闇市とかがあった時代と比べるなんて」「そもそもそんなに昔のデータ使えるの?」というのが私の素直な感想です。
すこし詳しく述べておきますと、野菜の栄養は品種や収穫時期など様々な条件で変わります。
また、今と昔で分析方法も精度も異なります。
ですので、単純に「今と昔でこう違う」とは比べられないものなのです。
このあたりについては、詳しくは専門家による記事が参考になります。
また、これは書き方の問題ですが、「論文」から自分の結論に近いデータだけを拾い集めるやり方は誠実とは思えません。
同じやり方を使えば「最近の野菜は栄養が多い!」という真逆の記事を書くことだってできてしまいます。
まあ、私はそういうことはしませんけど。
土が劣化したから野菜の栄養が落ちた?
次に、「土壌へのダメージが原因」という部分。
土壌を変えるだけで栄養素を大幅に減らしたり増やしたりできるなら、ものすごい発明だと思います。
特定の栄養素を増やしたり、逆に取り除いたりする技術は、企業がおカネをかけて研究しているからです。
もし、そんなことが可能で再現性があるならたくさんの会社がやるはずです。
とはいえ、私はこの記事を「トンデモだ!」と批判するつもりはありません。
結論を急ぐやり方は強引だと思いますが、最後には「一般の消費者にできる最も健康に資する行動といえば、今後もさまざまな種類の農作物を食べ続けることだ」「いろいろな種類の野菜や果物を食べることによって、そうした栄養分の損失分を相殺することができるでしょう」と、冷静な結論に導いているからです。
気をつけたいのは、この記事の「使われ方」です。
この記事を引用して「だからたくさん野菜を食べよう!」という使われ方をするなら、「まあ、いいかな?」と思います。
ですが、実際は違います。
寄せられた事例では「でも、これを飲めば(使えば)安心!」「たくさんの野菜を食べるのは大変ですよね? でもこの商品なら簡単!」と活用され、サプリメントやマルチ商法のアロマなど勧誘に使われていました。
そうした商品はたいてい高額で、効果があるか怪しいモノばかりです。
このほか、「現代型栄養失調になるかも?」「スーパーの野菜、大丈夫?」と不安を煽るケースもありました。
一応突っ込んでおきますと「現代型栄養失調」とはスーパーの野菜の栄養不足が原因ではなく、極端なダイエットやバランスの悪い食生活が原因とされているものです。
また、スーパーの野菜を買わないのは自由ですが、選択肢が狭まって食べる量や品目が減ってはかえって摂取する栄養が減って本末転倒です。
こうした記事には、ミスリードさせやすい仕掛けがあちこちに施されているので、引用されたときには注意が必要だと思います。
情報に左右されず、もう1品、野菜を買って食べて
というわけで、今回は私の感想を述べてみました。
質問をお寄せいただいた方、いかがでしたでしょうか?
最後に、私がいちばん言いたいことを述べます。
ぜひ、お近くのお店で、スーパーで、野菜をもう1品買ってください。
高額で効果の不明なサプリメントやマルチ商法のアロマを買うくらいならそのお金で野菜をもう一品買えるはずです。
そして、家族で一緒においしく食べてください。
その方が食卓も豊かになってみんなが幸せになれます。
農業は不安の材料のためにあるのではなく、私たちの豊かで幸せなくらしのためにあるのですから。
【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧
筆者渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ) |