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公立小学校で配布された食の不安を煽るチラシを検証する
埼玉県川越市の公立小学校で事実と異なる情報に基づいて、除草剤(グリホサート)の危険をいたずらに煽るチラシが児童に配布されていた。川越市・川越市教育委員会が後援に名を連ねるテンプレ批判満載のチラシの内容をAGRI FACT編集部が検証する。
反グリホサートあるあるをクイズに
川越市の公立小学校の教室で2022年11月中旬に配られたチラシは、NPO法人Peaceやまぶき、生活クラブ生協川越支部、子どもたちの健康を考える市民の会が共催する、つむぎCafe学びのプロジェクトVol.3「身近にある除草剤と子どもたちの健康」と題する講演会のお知らせだ。2022年11月19日に川越市内の会場で開催され、ジャーナリストの天笠啓祐氏が講師を務めることになっている。
チラシの裏面に〇×式のクイズがあり、
1. 海外から輸入している小麦からは、除草剤の成分がほぼ検出される。
2. 除草剤(グリホサート)の使用が、禁止されている国がたくさんある。
3. 除草剤(グリホサート)には、発ガン性がある。
4. 日本の農薬散布(使用量)はとても多い。
5. 農薬は、もともと戦争で使われた化学兵器が転用された。
という5問が出題され、
1. アメリカ・カナダの輸入小麦からは、農水省の検査で、グリホサートがほぼ検出されています。子どもたちが食べるお菓子や給食のパンからも検出されています。国産小麦からは検出されていません。
2. 海外では、使用が規制されています(図参照)。
3. WHOの機関は、グリホサートの発がん性を発表しています。日本人の髪の毛や尿からも多く検出されています。
4. 単位面積あたりの農薬使用料(原文ママ)が多いのは、日本です。
5. 第二次世界大戦で使われた毒ガスなどの兵器を農薬に転用しました。つまり、もともとは毒です。
を答えとしている。
不正確か完全なデマ情報ばかり
いずれもラウンドアップ系除草剤の有効成分グリホサートの不安を煽るテンプレの批判であり、当サイトで検証済みのものばかりだ。
1. 輸入小麦から検出されたグリホサートの残留量はごく微量で、健康に影響することはない。化学物質の毒性(人体への影響)は量に比例し、多量なら毒性が高く、少量なら無害という特性がある。「量」の規制について触れない残留農薬批判はすべて信用に値しない。
2. グリホサートは世界150カ国以上で安全性が認められている。農薬としての使用が世界で禁止されているという事実はない。
3. グリホサートの発がん性は世界の規制機関により否定されている。もちろん日本の食品安全委員会も認めていない。
4. 耕地面積1haあたりの農薬使用量は2010年版の統計では11位。2016年版では16位である。
5. 「第二次世界大戦で使われた毒ガス」という批判は目新しいともいえるが、まったくのデマである。「毒ガスなど」のテンプレ批判として、グリホサートはベトナム戦争で使用された枯葉剤(エージェントオレンジ)を転用したというデマがあるが、成分がまったく異なる。エージェントオレンジに含まれていたダイオキシンは主成分の製造過程で発生する副産物だが、グリホサートの製造工程でダイオキシンが生成されることはなく、製品にダイオキシンが含まれることもない。根も葉もない完全なデマであるため当サイトでは検証すらしていない。デマを報じた琉球新報は製造メーカーから謝罪訂正に追い込まれた。
チラシの内容はもちろん日本の食にとって有害だが、さらに問題なのは不正確で不適切な情報、完全なデマ情報が記載されたチラシが公立の小学校という公の施設で配布されてしまったことだ。後援に名を連ねた川越市・川越市教育委員会の責任は重い。
筆者AGRIFACT編集部 |