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収穫前にラウンドアップを撒いて小麦を枯らし、それから収穫すると、効率がよくて収量がいい。これをプレハーベスト(収穫前)と言うそうですが、カナダやアメリカの小麦のほぼすべてからグリホサートが出ると聞きました。プレハーベストはやめた方がよいのではないですか。

食の疑問答えます

そんなことはありません。このプレハーベストに関する記述には間違いが多々あり、正確とはいえません。

まず、「収穫前にラウンドアップを撒いて小麦を枯らす」との記述がありますが、これは完全に間違いです。

小麦は、「出穂期」後、「登熟期」を経て「成熟期」へ進行していきます。この「登熟期」の初期から、小麦の葉は株から黄化していきます。そして「成熟期」を迎えると、外観上は茎葉の穂首が黄化して、穂が枯れ、黄緑色を消失して褐色になります。また粒は緑が抜けて、のり状の硬さに達します。粒重量の増加もこの期に完了します。プレハーベストで、ラウンドアップなどが散布されるのはこの「成熟期」を迎えた後です。

つまり、すでに黄化した状態の小麦に散布するため、「小麦を枯らす」という記述は正しくありません。

小麦は成熟期の後に、穂軸が折れやすく脱粒が多くなり、粒が硬くなる「枯熟期」に入り、そこで、収穫適期が決められます。成熟期での穀粒の水分量は40〜50%ですが、それが12~13.5%以下になると収穫します。ただし、成熟後の降雨や収穫の適期前後に降雨が予想される場合などには、水分量が十分下がらない上、収穫作業もできません。かといって水分量が高い時期に前倒しで収穫すると、小麦の品質が大幅に低下してしまいます。そこで、天候の都合を考慮しながら、穀粒乾燥を促し、収穫できる水分量まで低下させる必要がある場合にのみ、小麦農家はプレハーベストを行います。もちろん、プレハーベストは残留農薬試験等をクリアして認可された散布法です。また、散布時期は「枯熟期後期」以降と定められています。

また、「プレハーベスト後に収穫をすると、効率がよくて収量がいい」との記述も正確ではありません。収穫量に関していうと、成熟期つまり小麦の粒重量の増加が完了したあとで除草剤を散布するプレハーベストにより、収穫量が増えることはありません。ただし小麦は生育しなくても、雑草が増え続けることで、土壌の肥料分を吸い取ってしまい、また雑草の種子が収穫物に混じることで品質が低下しまいかねません。その点においては「収量がいい」と言えるかもしれませんが、完全に説明不足です。

ではなぜ、雑草管理のためにプレハーベストを行なっているのでしょうか。近年、米国やカナダの多くの小麦生産者は、環境保全や土壌保全のために農地を耕さずに作物を栽培する「不耕起栽培」や「耕起を最小限にする栽培」(※)を採用しています。この不耕起栽培の大きな課題が「雑草」なのです。このエコと生産の省力化を両立させた、より高度な栽培技術を実現するために、グリホサートなどの除草剤が使われるわけです。

※不耕起栽培は、土壌を耕さないので、作物残さ、さらには土壌有機物の分解が遅れること、土壌侵食が抑制されること等から、表層土壌中の炭素の貯留に効果が高いと言われています。また、表層土壌における有機物増加に伴う生物多様性の保全効果に加え、生産の省力化、燃料の節減等を通じた生産コストの低減等にも一定の効果を有しています。

この栽培技術は、注意深く、正確なタイミングで除草等が実施される必要があるため、科学的な見地から規制機関により厳密に管理されます。例えばカナダの場合、作物保護(農薬)に関するガイドの推奨事項に応じてプレハーベストが行われています。その中には、「グリホサートは植物から種子に移動しないように散布する。生産者は対象となる雑草の種類など目的により、最適量のうち最も少ない量を散布する」という項目があります。また散布後、除草剤が土壌で分解される期間等を考慮して最低7日間は収穫することができません。使用する量に関しても、1エーカーあたりわずか約12オンス(=約40aあたり約30gつまり10aあたり約7.5g)程度のごくごく少量です。プレハーベストの様子として、水浸し、畑(圃場)がベタベタの写真が紹介されていることがありますが、あれはほとんどが希釈用の水だということが使用量からわかります。

それでも米国やカナダの小麦生産者は、効率化と収穫量増加のためだけに、技術や知識が必要なプレハーベストを行なっているといえるでしょうか。

全米小麦協会は、「米国においてグリホサート(ラウンドアップ主成分)によるプレハーベストは、小麦栽培面積の3%未満のみ適用されているめずらしい栽培技術」だとしています。つまり日本に輸入される海外産小麦のほとんどはプレハーベストされていないのです。

しかし実際に、海外産の小麦粉製品(パン、天ぷら粉、スパゲッティ)からグリホサートが検出されたとの記述がありました。とはいえ検出率のみで検出量の記載はありません。実際に検出された量をみても、ADI(一日摂取量)のわずか0.0029%~0.163%とごく微量で、ヒトの健康に何の害も及ぼさない量です。読者を不安にさせるだけで、まったく意味のない記述です。

詳細

この筆者はプレハーベストについても、他国の栽培状況についても、まるで理解していない、もしくはあえて読者のミスリードを誘おうとしていることがわかります。

参考

https://wheatfoundation.org/the-truth-about-glyphosate-part-1-how-do-wheat-growers-use-glyphosate/?fbclid=IwAR0ZlIz3NwWBeRnXuY8WU7O8Jx6M_mLCfD2JNP5HSIKuNxRCnmJVgmf2nJ8

https://www.maff.go.jp/j/study/kankyo_hozen/08/pdf/data1.pdf

※(5月27日追加)週刊新潮ファクトチェックより抜粋(元記事がついておりませんでした。大変分かりにくくて申し訳ございません)

『週刊新潮』(2020年4月16日号)掲載 グリホサート/ラウンドアップに関する記述を徹底検証1

 

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