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Q グリホサートは環境中に残留するのではないですか?

A 農地に散布されたグリホサートの分解については多数のデータがあります。

除草剤のグリホサートは土壌中の微生物と光によって分解され、条件によって違いますが、早ければ2、3日、遅くとも60日ごとに半分に減っていきます。

詳しいデータは「食品安全委員会の『農薬評価書 グリホサート』2016年7月にありますので、ぜひ参照してください。
http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya0100622449b

実際、農業の現場では、雑草が生えた畑にグリホサートを散布し、雑草が除去されたあとで農作物の種をまきます。発芽するころにはグリホサートは分解して土壌中からなくなっているので、発芽した作物は成長することができます。だから、農家は安心して使用できるということです。

Q パンの成分分析でグリホサートが検出されました。これは大変な問題ではないですか?

A 安心してください。化学物質の毒性(人体への影響)は量に比例し、多量なら毒性が高く、少量なら無害という特性があります。この特性を利用して化学物質の安全性は量の規制で守られているのです。

日本の食品安全委員会はグリホサートの一日摂取許容量(ADI)を1mg/kg体重/日と設定しています。一日摂取許容量というのは、ある物質を毎日一生涯にわたって摂取しても健康に悪影響がないと判断される量のことです。

一日摂取許容量の設定に当たっては、子供など影響を受けやすい人と、そうでない人との個人差もしっかりと考慮されています。ADIは体重当たりの量で決めているので、摂取しても安全な量は体重によって違い、体重50kgの大人なら一日50㎎、体重15kgの子供(約4歳)なら1日15㎎までなら害はないといった具合です。

ご質問にあった市民団体の調査では、市販のパンから0.1~1.1ppm(0.1~1.1㎎/kg)程度の量が検出されたようです(http://www.zyr.co.jp/komugi/glyphosate.html)。

最も多い1kg当たり1.1㎎のグリホサートが残留したパンの摂取量に換算すると、大人なら1日で約50kg、4歳児は1日で約15kg以上食べ続けないと一日摂取許容量に達することはありません。摂取不可能な量だと理解できるはずです。

グリホサートは土壌中で短時間で分解され、環境中や農作物にほぼ残留しませんが、分析法が進歩して、これまでは測定できなかったような微量の化学物質も測定できるようになっただけなのです。微量の化学物質は数多くの食品に含まれていますが、ごく微量であれば健康に影響することはありません。

そろそろ「グリホサートが農作物に残留していた」ことだけをもって危険視するのはやめましょう。同様のニュースが流れてきても「どれだけの量が残留していたのか。どれだけの量を食べたら一日摂取許容量を超えるのか。どの量までなら人体に無害なのか」を見極め、冷静に判断してください。

Q ラウンドアップの農畜水産物への残留基準を緩和した理由は何ですか?

A たしかに2018年12月に穀物、野菜、果物、肉、魚などの食品の残留基準が一部変更されました。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/1225-2.pdf

その変更内容を見ると、残留基準が緩和されたものはそば、小麦、なたねなど33品目。逆に厳格化されたものはえんどう、いんげん、きのこ、肉類など35品目で、その他の102品目は変更されていません。

残留基準値は、毎日の食生活でこれらの食品を食べても一日摂取許容量を超えないように、食品ごとの値を決めたもので、安全な食生活を守るための一日摂取許容量の内訳に当たります。

いい方を変えると、一日摂取許容量はコップであり、作物ごとの残留基準はコップに水を入れる小さなスプーンのようなものです。すべての作物のスプーンでコップに水を入れても、絶対にあふれ出ないように、スプーンの大きさを決めています。一部の作物のスプーンの大きさを変更しても、コップの容量を超えない限り、健康に影響はないのです。

今回の変更では一日摂取許容量は変えていないので、「安全基準の緩和」ではなく、安全基準の範囲内で内訳を変更したにすぎません。心配は不要です。

Q グリホサートには遺伝毒性(遺伝子に障害を与えてがんを引き起こす毒性)があるのではないですか?

A 日本の食品安全委員会は遺伝毒性に関して次のように評価(※)しています。

『各種毒性試験結果から、グリホサート投与による影響は、主に体重(増加抑制) 及び肝臓(ALT、ALP 増加等)に認められた。神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響及び遺伝毒性は認められなかった。』

『グリホサート(原体)の細菌を用いたDNA修復試験及び復帰突然変異試験、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHO 細胞)を用いた遺伝子突然変異試験、ラット肝細胞を用いた UDS 試験、ヒト末梢血リンパ球を用いた染色体異常試験、ラットを用いた in vivo 染色体異常試験並びにマウスを用いたin vivo 優性致死試験が実施された。結果は全て陰性であり、グリホサートに遺伝毒性はないものと考えられた。』

難しい表現が並んでいますがつまりは、多量のグリホサートを摂取すると体重減少や肝機能に影響があるものの、遺伝毒性はないと結論付けられということです。

(※)農薬評価書「グリホサート」 2016年7月 食品安全委員会

Q グリホサートは発達障害を引き起こすと聞いたことがあるのですが本当ですか?

A 一部で指摘されている新説の仮説ですね。しかし、グリホサートと発達障害の因果関係を証明した科学論文は存在しません。その仮説は間違いと考えられます。

おなじような間違いは過去にもありました。1998年に英国のウエイクフィールド医師が、子どもに三種混合ワクチンを接種すると消化管が炎症を起こして「リーキーガット」という状態になり、そこから体内に有毒たんぱく質が侵入して脳の障害が起こり、自閉症が起こるという論文を発表しました。これがメディアで大きく取り上げられて、三種混合ワクチンの接種が大きく低下しました。しかし、後日、この論文はインチキであったことが発覚して取り下げになり、ウエイクフィールド医師は医師免許をはく奪されましたが、いまだにそのような作りごとを信じている人もいます。

科学的な根拠がはっきりしない話は信用しないこと、たとえ論文になっても、その論文の内容が別の論文で確認するまでは注意深く取り扱うことが大事です。

Q 国際がん研究機関(IARC)の判断に対して世界中の科学者から批判が出ていると聞きましたが、何が問題とされているのですか?

A 世界の食品安全関連機関はグリホサートに発がん性がないと報告しているにもかかわらず、IARCが独自に「おそらく発がん性がある」と判断したことです。判断が分かれた最大の理由は、どのような科学論文に基づく判断だったのかという点です。実は、IARCが参考にした論文の選び方、選んだ論文の重要性の評価に問題があり、そのため他の機関とは異なる結論になったと考えられています。詳細は次の論文をご覧ください。

D Brusick, M Aardema, L Kier, D Kirkland,G Williams. Genotoxicity Expert Panel review: weight of evidence evaluation of the genotoxicity of glyphosate, glyphosate-based formulations, and aminomethylphosphonic acid. Crit Rev Toxicol. 2016 Sep;46(sup1):56-74. doi: 10.1080/10408444.2016.1214680.

さらに重要な点は、IARCで評価を担当した委員会のブレア委員長が重要な調査結果を無視したことです。それは米国ノースカロライナ州とアイオワ州でラウンドアップ関連製品を散布していた農業者約4万5000人を1993年から2005年の長期にわたって調査した結果、がんになる割合が増えることはなかったという内容です。2017年7月14日配信のロイターの記事によれば、この調査結果を論文として発表する立場にあったブレア委員長自身が論文発表を故意に遅らせ、IARCの評価に間に合わせないようにした疑惑がもたれています。

この「グリホサートに発がん性はない」とする調査論文がIARCの評価に間に合えば「IARCの判断は変わっていた」と、ブレア委員長自身が認めています。その詳細は以下のWebサイトで見ることができます。

Q 「ラウンドアップはがんを引き起こす」という論文を発表し、その後、論文が取り下げ処分になったセラリーニ教授が、昨年末の来日講演で「ラウンドアップは安全」と話したというのは本当ですか?

A ラウンドアップは特許が切れたので、多くの企業がほぼ同じ成分の製品を違った名前で販売しています。それらを「ラウンドアップ類似製品」と呼ぶことにします。ラウンドアップ類似製品には除草作用があるグリホサートと、その働きを助ける界面活性剤などが入っています。そして、界面活性剤の種類は製品により違います。セラリーニ教授は来日講演で、「グリホサートではなく、一部の界面活性剤などが危険」という話をしたのです。その内容は次の論文で発表されているので、その概要を紹介します。

N. Defargea, J. Spiroux de Vendômoisb, G.E. Séralinia:Toxicity of formulants and heavy metals in glyphosate-based herbicides and other pesticides.
https://doi.org/10.1016/j.toxrep.2017.12.025実験1:トマトの苗にグリホサートを散布しても枯れないが、各種のラウンドアップ類似製品あるいは界面活性剤を散布すると枯れた。
実験2:実験が簡単にできる人由来の培養細胞HEK293を使って試験管内での試験を行ったところ、グリホサートの毒性は低かったが、界面活性剤の毒性は種類によって大きく異なり、POEAと呼ばれる界面活性剤の毒性が最も強かった。
実験結果の解釈:ラウンドアップ類似製品の毒性は、その主成分のグリホサートの毒性を調べるだけでは不十分で、各種の界面活性剤と組み合わせた時の毒性を調べるべきである。世界の食品規制機関は「グリホサートに発がん性はない」と言い、国際がん研究機関IARCは「グリホサートにはおそらく発がん性がある」と言っている。その違いの原因は、規制機関はグリホサートの試験結果を使い、IARCはグリホサートと界面活性剤を含むラウンドアップ類似製品の疫学調査の結果を使ったという違いがあるからではないか。

この実験にはおかしなところがあります。そもそもグリホサートに除草作用があることは多くの実験で証明されているのですが、この実験1で「トマトの苗にグリホサートを散布しても枯れない」のは理解できません。次におかしな点は、実験1より界面活性剤が強い除草作用を持つことです。世界で栽培されている遺伝子組換え作物の8割は、ラウンドアップを散布しても枯れない「ラウンドアップ耐性」ですが、それはラウンドアップの主成分であるグリホサートの除草作用に耐性を持つ仕組みを持っているからです。もしラウンドアップに含まれている界面活性剤が強い除草作用を持っていたとしたら、界面活性剤には耐性を持たない「ラウンドアップ耐性」作物まで枯らしてしまうはずです。しかし、現実にはそのようなことは起こっていません。

ただし、この論文で一つだけ評価できるのは、実験2で示されたように「グリホサートの毒性は弱い」という科学界で一般的に認められている事実を、セラリーニ教授も認めたことです。

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