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グリホサートの安全性評価を巡るIARCの不正問題を追及したジャーナリストの話を聞きに行ってみた(後編):53杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】
世の中に存在する多種多様な農薬・除草剤の中でなぜかきまって不安ビジネスのターゲットにされるラウンドアップ(有効成分グリホサート)。
日本の食品安全委員会を含む世界の多くの安全評価機関では特に問題視されている様子がないのですが、IARC(国際がん研究機関)だけが“人に対しておそらく発がん性がある”と評価したことで、反対運動の格好のネタ元になってしまいました。
前回のコラムでは、IARCの評価プロセスの問題点を取材し、国際報道教会メディア賞を受賞した元ロイター通信記者ケイト・ケランドさんの講演の内容をまとめました。
今回のコラムでは、なぜIARCはグリホサートの評価プロセスを各方面から疑問視され、ツッコまれても全く反応しないのか?
その理由についてと、IARCのグリホサート評価と関係の深い訴訟ビジネスについてまとめたいと思います。
巨大訴訟ビジネスに狙われたラウンドアップ
実は、各方面からツッコまれても答えられないのには理由がありました。
その理由は、IARC評価のわずか数日後、米国の法律事務所が突如起こした巨大訴訟キャンペーンです。
その訴訟とは、「ラウンドアップを使っていた人で癌になった人はいませんか? 一緒に訴えましょう」というもの。
高速道路に大型看板を設置したり、TVCMを駆使したりと大きなおカネが動く巨大キャンペーンとなりました。
評価発表の数日後にここまで大々的に動けるとは、用意周到にもほどがあるように思えますよね。
それもそのはず。
この訴訟には、IARC招待委員の一人がその法律事務所のコンサルタントに就任していたのです(訴訟コンサルであることを外部に漏らさないのがコンサル料の支払い条件だったそうです)。
ちなみにこの人物、反農薬団体に所属していたことも判明しています。
こうなると、もはやラウンドアップは巨大訴訟ビジネスに狙われてしまったとしか思えません。
米国では、活動家と裁判弁護士による複合ビジネスを「アクティビスト・リーガル・コンプレックス」と呼ぶそうで、「名前がついているくらい一般的なビジネスなんだなあ」と思ってしまうのですが、そこに安全評価機関の中の人も加わってしまうとある意味、鬼に金棒というわけですね。
感心している場合ではないですけど。
懲罰的損害賠償を課すのに都合が良いラウンドアップ
私は以前から「ラウンドアップは米国で裁判になっています!」という文言を見るたびに「なぜいつもラウンドアップ? 毒性の強い除草剤なら他にもあるのに」「なぜ日本では裁判にならないの?」と思っていましたが、この訴訟キャンペーンの仕組みを知ってわかりました。
巨大広告で原告をとにかく大勢集めて懲罰的損害賠償を課せるのは、多く売れているラウンドアップでないといけないのです。
また、ラウンドアップは日本でも販売されているので、同じような裁判をやろうと思えばできなくはないですが、日本の裁判では巨大キャンペーンでいくら原告を増やしても懲罰的損害賠償を課すことができないので、米国と同じような訴訟ビジネスは成り立ちにくいのです。
なので、訴えられる対象はいつもラウンドアップですし、同じ除草剤なのに日本で同じ訴訟が起きにくいのです。
もはや安全評価というよりも訴訟ビジネスのためとなってしまったIARCのグリホサート評価。
他の機関からいくらツッコまれても、訂正することも答えることもできなかったことは、理由としてはわかります。
素直に訂正してしまっては、肝心の訴訟ビジネスが成り立たないからです。
しかし、訴訟キャンペーンのために拡散された誤情報が活動家たちに利用され、消費者に本来必要ない不安を広げ、厳格に安全基準を守って働くプロフェッショナルたちの尊厳を不当に傷つけたことは、看過できない問題だと私は思います。
初めて根拠を示して追及したケイト・ケランドさん
ラウンドアップに限らず、反農薬活動家はよく「農薬の安全評価には裏があるはずだ」「おカネによって危険なものが安全だと評価されているに違いない」的なことを口にしますが、その根拠を示して追及した人はいませんでした。
ケイト・ケランドさんは、初めてそれをしましたが、皮肉なことに証拠を突き付けられたのは全く逆で、「おカネのために安全なものをあたかも危険であるかのように評価」した機関でした。
とほほ……。
しかし、ケイト・ケランドさんのスクープは彼らにとって朗報でもあります。
日本や世界の農薬の安全評価を疑問に思うなら、彼女のように調査して突き止めれば良いのですから。
【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧
筆者渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ) |