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Vol.39 シレっと復活 コンブチャ a.k.a 紅茶キノコの転生劇【不思議食品・観察記】
科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、かつての「紅茶キノコ」が現在に蘇った発酵飲料の「コンブチャ」。一度消えかけたトンデモ健康法が、海外セレブ御用達という化粧を施されてアップデート、「再輸入」という名のロンダリングを経て復活したのです。昭和世代もビックリの転生ストーリーとは──。
転生モノならぬ転生食品の代表格
「コンブチャって、紅茶キノコのことだったん!?」
この「答え合わせ」を耳にするたび、「転生」という言葉が頭に浮かびます。
エンタメ界ですっかり定番となりすぎた「転生モノ」。不慮の事故で唐突に生涯を終えるが、目覚めれば異世界。なぜか謎能力が付与されていて、本人もよく分からぬまま無双の快進撃を始めるのがお約束。最近ではマツケンに小林幸子、ひろゆき、島耕作、果てはマツコ・デラックスまで異世界送りになっています(存命の場合、厳密には「異世界トリップ」だろうが、広義の転生ものでOKなんだそう)。その節操のなさ、やりたい放題な感じ、大好物です。
さてこの「一度消え、謎装備でカムバックする」というシステム、フィクションだけの特権ではないらしい。世のトレンドは循環するものです。オカルトや都市伝説が時代ごとに衣替えを繰り返すように、健康食品や医療デマの世界にも、抗えないループの引力が働いているのです。
かつて日本で一世を風靡し、熱狂が冷めると同時に姿を消した、あの愛すべき怪しげな食品たち。しかし、いつの間にか海外セレブの手に渡ってハイカラな化粧を施され、「再輸入」という名のロンダリングを経て、シレッと現世に戻ってきます。新たなバリューを身にまとって帰還した、なんとも憎めないサバイバーたち。筆者はこれらを勝手に「転生食品」と呼んでいます。その中から今回は、代表格である「コンブチャ」です。
おさらいしよう! 「紅茶キノコ」とは
我が家に数年放置されているコンブチャ
まずは基本情報をおさらいしておきましょう。「コンブチャ」の前世は、泣く子も黙る昭和の「紅茶キノコ」です。発祥は、中国東北部とされる、歴史ある発酵飲料。日本には70年代後半に襲来し、『紅茶キノコ健康法』(地産出版 )という1冊の本を起爆剤に爆発的なブームとなりました。
家庭で手軽に培養できるうえ、お得な効果効能がたくさん。一家の家計と健康を担う主婦層の需要にばっちりハマり、その熱狂は「万病に効く」「ガンが治る」という領域まで一気にエスカレート。国会で議論の対象になり、衛生当局が「きのこ狩り」さながらに巷の自家製ボトルを回収して大規模調査に乗り出す事態へ発展。結果は、当然ながら「謳われているような医療的効果はナシ」。それどころか、素人の野良発酵ゆえの雑菌混入(コンタミ)による健康被害も相次ぎ、ブームは一気に冷え込みました。
しかし、80年代のアメリカ西海岸でまた、バズり散らかします。当時まだ治療法のなかったHIVに対し「発酵成分が免疫を高める奇跡のドリンク!」と期待されたのです。嗚呼、耳にタコの全能ロジック。こちらも後に危険性が指摘され、何よりHIVの特効薬が登場したことよって沈静化。死亡例が報告されたことも決定打となり、ブームは再び消滅……と思いきや、ここからが転生モノの真骨頂。なんと15歳の少年がビジネスチャンスを見出し、商品化へ舵を切ったのです。不衛生で怪しげな野良発酵から、徹底管理されたモダンなプロダクトへと変身し、ハリウッドセレブたちの手に渡ります。
ハリウッドセレブの手におさまり、華麗なる転生
このときのハリウッドセレブとは、トンデモ健康法の御三家と言えるレディー・ガガ、マドンナ、グウィネス・パルトロウです。また、お姉さま方ですか……。折しも2000年代、米国は「LOHAS(ロハス)」や「ウェルネス」の大波が押し寄せていた時代(日本ではマクロビブームがありましたね)。
こうして、怪しげなエリクサー(万能薬)だった民間発酵ドリンクは、「腸内環境を整え、デトックスを促す自然派プロバイオティクス飲料」という現代的なインテリワードを身にまとい、華麗な転生を遂げたのです。パパラッチの写真に写るセレブの手にあるドリンクは、スタバのラテからコンブチャへ。一躍、意識の高い最先端ドリンクに君臨しました。そして、満を持しての日本凱旋──。
2014年に発売されたコンブチャ本のタイトルが味わい深かった。
『Kombucha Recipes Book 頑張り女子をケアする究極の発酵飲料「紅茶キノコ」レッスン』(グラフィック社)。
帯には「甘い紅茶の発酵飲料で女子がキラキライキイキするっ!」の文字。どこか平成の空気感を残したハイテンションな煽り文句は、ジワる。要するに「あの紅茶キノコが、死ぬほどオシャレになって戻ってきた」というわけです。
“異常性”アイコンと化したコンブチャ愛用者
そして、現在地。
転生を果たしたコンブチャは、世界規模で市場を広げ続ける一大発酵カルチャーとなっています。同じ発酵飲料でもヨーグルト系のような脂質がなく、近年のノンアルコールブームや「腸活」の波も、強烈な追い風になっているでしょう。昔ながらの手作り派も健在であるものの、現在のメインストリームは圧倒的に、徹底した生産管理のもとでボトル詰めされた工業製品(プロダクツ)です。
ここで最高に興味深いのが、エンタメ界においてコンブチャが「病的にめんどくさい人」のアイコンとして重宝されている点です。人気者は、忙しい!
たとえば、AIホラー映画『M3GAN ミーガン』(2022年)。おもちゃ会社の傲慢なCEOが「コンブチャを買ってこい!」と部下にキレ散らかす描写があります。自分の健康には異常にこだわるくせに、パワハラで他人のメンタルを削る「中身ペラペラの意識高い系エリート」を象徴する小道具となってるじゃないですか。
M・ナイト・シャマラン監督の『トラップ』(2024年)でも、ステージ裏のアーティストが「俺が頼んだのは●●のコンブチャだ!」とスタッフに高圧的に当たっている。
あるいは、漫画『タコピーの原罪』(2022年)。ネグレクト家庭の母親が、楽天で購入しているコンブチャを切らしたことに激昂し、「ママには紅茶キノコのきれいなアルコールが必要なの」と子どもに詰め寄る狂気のシーンがネットを震撼させました。
昨年には、そのものズバリ『KOMBUCHA』(2025年)というホラー映画まで制作されたようです(日本公開時の邦題が今から待ち遠しい)。ネットのあらすじを見る限り、「健康系スタートアップに就職したら、特製コンブチャの飲用を義務づけられ……」という不穏なストーリー。おそらく、スコビー(株菌)が自我を持って大暴れする気がしますね。令和版『マタンゴ』のような展開を期待しています。
どの作品でもコンブチャは「一見スタイリッシュだが、その裏にある人間の虚栄心や盲信、あるいは異常性を覆い隠す煙幕」として扱われています。リアルでも、少なからずそうした要素はあるでしょう(ただしコンブチャで大成功を収めたコンブチャの帝王GTDAVEは、ユーチューバーにいじられても、寛大な態度でコラボもキメるという心の広さを見せていたし、言わずもがなコンブチャ飲んでるヤツ皆どうかしている! というつもりは一切ありません)。
どんなにおめかしして転生を遂げようとも、単なる発酵食品の枠を超えた「得体の知れなさ」をはらむ本質は、昭和の紅茶キノコ時代から何一つ変わっていないように思えました。
伝統飲料から始まり、エイズパニックという切実な代替医療の現場を経て、アメリカで衛生的な商業化 。オーガニックスーパーでの流通を経て、セレブによるファッション化。さらにコロナ禍の健康不安を追い風に、韓国のトレンド市場をも呑み込んでさらなる高みへ──。見事にロンダリングを果たした転生食品、コンブチャの話でした。
実はこうした「転生食品」を一挙に並べるつもりでしたが、コンブチャについて書きすぎました。転生シリーズ、しばらく続けようと思います。
筆者 |



