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農薬に関するデマで打線組んでみた!〈パート6〉【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】

農家の声

とうとうこのシリーズもパート6、リーグ戦ができるほどの記事数になりました。
これだけシリーズが続いているのは、記事を読んでくれる消費者の皆さんのおかげでもあり、未だに無数の農薬デマをネットやSNSで流す悪意ある人たちのせいでもあります。
ということで今回も、
「農薬に関するデマで打線組んでみた!〈パート6〉」
をテーマに、農家の私ナス男が農薬デマをぶった切ります!

1.(一)農薬の価格が急激に上がっている!

「ウクライナ侵攻以降、農薬の価格は爆上がりしている!」
というツイートがありましたが、現場の農家としては疑問です。
たしかに農業以外でも様々なものが急激に値上がりしましたが、農薬の値上がり幅はそれらに比べれば微々たるものだからです。
しかし肥料はとんでもなく値上がりしたので、おそらく肥料の高騰と混同しているのではないかと推測します。
肥料と農薬では全く違うので、しっかりと調べてから発信してほしいです。

2.(三)野菜にもグリホサートを使っている!

「トマトを○○パウダーの液に漬けたら、農薬(グリホサート)が浮き出てきた!」
「玉ねぎも枯れてから収穫している! グリホサートだ!」
という、グリホサートを野菜に使っているというとんでもないツイートを見かけました。

いやいや、除草剤のグリホサートを野菜に撒いたら枯れるに決まってるでしょう。
アメリカ産の小麦ではグリホサートを使ったプレハーベストが行われていますが、それとごっちゃになってますよ?
○○パウダーのデマはパート3でも紹介しましたが、浮き出てくるのはブルームでしょうし、農薬と断定するのも検査を通してからにしないと誤解を生みます。

3.(中)化学農薬は簡単に登録が通ってしまう!

現在は化学農薬の種類が増えているので、農薬登録は簡単に通ってしまう印象を持つ消費者の方もいるかもしれません。
しかし実際はその逆で、農薬登録に関する国の認可制度は厳しいですし、時間的にも開発コスト的にも相当かかります。
科学ジャーナリスト松永和紀さんの著書『踊る「食の安全」: 農薬から見える日本の食卓』によると、農薬登録のざっくりとした流れは、

1. 有効成分を研究して発見してから、既存の農薬や天然にある病害虫に効く成分、多くの情報を参考にして実験を繰り返し、化合物を見つける
2. 生態系や持続性、環境への影響を地道の試験で繰り返し、
3. 工業化して生産する方法を確立して
4. やっと登録までこぎつける

という長き道のり。
農薬は安全性に対する責任が重く、補償問題にも発展しやすいので、とことん試験や議論を繰り返す必要があるのです。
当然開発途中でも、登録までいけない成分もあるそう。
農薬業界の方が言うには、「農薬開発は宝くじを当てるようなもの」。
開発費は一般的に約50億円、化合物を見つけてから登録にこぎつけるまでは6~10年もかかるそうです。
とてもとても、農薬が簡単にできてしまうとは言えないですよね。
農薬メーカーの努力に感服します!

4.(左)ジャップが食べる分は、農薬まみれでいいんだ!

「アメリカ国民の小麦にはグリホサートは使わない!」
「ジャップ(日本人の蔑称)が食べる小麦だから、グリホサートを使ってもいいんだ!」
というショッキングな内容が、某教授が書かれた本には載っていました。
もしこの内容が本当であれば国際問題ですが、後に事実誤認? だったと某教授自らが認めて該当部分の記述を修正しています。
「アメリカが憎い、モンサントが憎い!」という方の意見に対して、農家の私の立場で言えることは多くはありませんが……
だからといって、事実でないことを本に掲載するのはダメでしょう。
アグリファクトでは、この内容のファクトチェックをしている記事がありますので、詳しくはこちらをご覧ください!

5.(右)有名な議員や教授が言っている!

「あのメディアにも出ている議員や教授が農薬は危険だと言っているから、間違いない!」
と考える消費者がいるのであれば、ちょっと危険です。
非常に厄介なことに、農薬の危険性を主張している方が権威性のある肩書の人だとしても、その主張は正しくないということもあるのです。
先述した通り、有名大学の教授でさえ、農業の現場や情報を正しく認識していませんでした。
某議員は、自身の農薬に関する主張への反論に、明確に答えられていません。
権威性のある人の発信する農薬の情報は正しいと思いがちでしょうが、誤っていることもあるので注意しましょう。

6.(遊)農薬について農家が黙っているのは、危険性を認識しているからだ!

「農薬の危険性を身をもって知っているから、農家は農薬について語りたくないんだろう!」
と邪推しているSNSアカウントもあります。
農家が農薬について情報を発信しない理由は、危険性を認識しながら隠ぺいしているからではありません。
「過剰に農薬の危険を煽るような人と関わりたくないから。」
「言いたいことはあるけど、不毛なレスバトルに巻き込まれたくないから。」
という理由が大きいのではないでしょうか。
消費者の農薬への不安は人それぞれですので、それを否定することはしません。
私としては、消費者の質問にはなるべく丁寧に回答したい気持ちもあります。
しかし農薬の使用に対して拒絶的、攻撃的な方との議論は、はっきり言って時間がもったいないのです。
確かに、農薬には100%の安全性はありません。
だからこそほとんどの農家は、農薬のリスクを理解した上で取り扱いや希釈倍率には十分に注意をはらっています。
農家の立場で情報発信をしている私としても、消費者に農薬の危険性に対する正しい理解をしてもらえるように努力していきます。

7.(二)有機栽培野菜が広まって困るのは、農業利権に巣食う闇の連中だ!

「農薬には利権がある! 農薬肯定派の団体は金を貰っている!」
農薬の危険性で盛り上がっているツイートには、必ずと言っていいほどセットでこのようなコメントがあります。
農薬に関する記事を発信している私も、
「JAの信者だ! モンサントからお金を貰っている!」
というコメントをいただくこともあります。
いやいや、農家も経費を減らしたいので、なるべく農薬減らしてますよ?
農薬メーカーも現在では、より安全性の高い農薬を開発していますよ?
有機栽培野菜を取り扱っているJAもありますし、オーガニックが広まったとしても既存の農業関係者が困ることはほぼないと思いますが。
農薬を肯定してお金を受け取れる請求先があるなら、ぜひ教えてください!

8.(捕)グリホサートを撒くバイトがある!

「危険だから絶対やらないけど、グリホサートを撒いて除草するバイトがある! 日当3万円くらい!」
という噂をツイートしている方がいました。
たしかに除草剤を撒くバイトは探せばあるのかもしれませんが、日当3万円ももらえる除草のバイトは聞いたことがありません!
そのグリホサートを撒くバイト、ぜひ教えてください!
グリホサートはきちんと使用すれば安全なのは、農業の現場で身をもって実証済みですので、ぜひやりたいです!

9.(投)○○農法が安全だ!

有機栽培、慣行栽培、自然栽培……
農業の栽培方法は複数ありますが、中には農家の私も知らないような○○農法もたくさんあります。
「じゃあ結局どの農法が安全安心なの?」
と混乱されている方もいるかもしれませんが、最後はその農家や出荷団体を信用できるか、が大事だと私は考えています。
ただし、他の農法を攻撃して自身の○○農法をアピールしているような方は、疑ってかかるべき!
みんな違って、みんないい。
農法はそれ自体を目的にするのにするのではなく、手段として見ると、農業の視野が広がるはずです。

まとめ

このシリーズでは6チーム分、45の農薬に関するデマや誤解を紹介してきました。
しかし残念ながら、まだまだ巷では農薬に関する間違った情報が溢れています。
これからもなるべく分かりやすく、農薬の情報をお伝えしていきます。

【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】記事一覧

筆者

ナス男(ハイパーナスクリエイター「いわゆるナス農家」)

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