寄付 問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています

農薬に関するデマで打線組んでみた!〈パート12〉【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】

農家の声

このシリーズもいよいよパート12。
ついに2リーグ分のチームが完成しました。
ということで今回も、
「農薬に関するデマで打線組んでみた!〈パート12〉」
をテーマに、農家の私ナス男が紹介します。

1.(左)韓国のオーガニック給食を見習え!

「韓国はオーガニック給食を導入しているのに、日本は遅れている!」

という主張は根強くあります。
たしかに韓国のソウルは、学校給食を有機栽培の野菜で提供しており、慣行栽培に比べて割高な有機栽培の野菜を買う差額は、政府と各自治体が補助を出しています。
詳しくはこちらの記事で。

● 国が主導で有機栽培の野菜を推し進め
● 有機栽培野菜の市場を広げ
● 有機栽培の農地が5パーセントと日本よりも多い

これらは素直に評価すべき点だと思います。
しかし、日本の市民グループが主張する、「慣行栽培野菜のせいで子どもの発達障害が増えている!」といった科学的根拠のない話で危機感を煽って無理を通したわけではないようです。
慣行栽培の野菜が十分に安全であるのに、なぜ補助金を出してまで有機栽培野菜の給食を日本で導入したいのか。
話題先行ではなく、理論的に多くの方にも納得できるような議論を進めていただきたいです。

2.(中)中国は日本よりオーガニックが進んでいる!

「実は中国はオーガニック大国! 日本は遅れている!」

というツイートが話題になりました。
これは、事実の部分もあります。
農業面積に対しての比較は、2018年の時点で、
中国は農業面積の約0.6%、約310万haがオーガニック農業の農地面積で、
これに対して日本は約0.2%、約2万3700haが有機栽培の農地面積です。
中国の富裕層は、農薬に限らず食の安全意識が高いとされており、多少高くてもきちんとした認証のある野菜を好む傾向にあります。
富裕層の人口も日本に比べて多く、有機栽培の野菜の需要はその分多いと考えられます。

では日本の慣行栽培の野菜は危険かと言うと、このシリーズで何度も言っている通り危険ではありません。
そして、日本の慣行栽培の野菜より、中国から輸入したオーガニック野菜を食べたいと思うかどうか。
これは消費者によって意見が分かれるでしょう。
事実をしっかりと捉えて、問題を切り分けて考える必要がありますね。

3.(一)カリフォルニア州は農薬を危険だとしている!

「アメリカのカリフォルニア州は、グリホサートの裁判でも原告側が勝訴している!」
「カリフォルニア州が認めているのだからアメリカが認めている! だから農薬は危険だ!」

たしかに、カリフォルニア州は農薬や発がん性物質に対して厳しい判決を出すことはよく知られています。
カリフォルニア州には通称「プロポジション65」という法律があります。
名目上は州知事ですが実質的にはIARCが「発がん性がありそう」と判断した化学物質を危険リストに追加して発がん性の警告表示義務を課す州の法律です。
グリホサートについても、IARCのリストに則るような流れで発がん性の表示義務を課したのは周知の事実です。
詳しくはこちらの記事で。

「プロポジション65」には問題点もあります。
この法律の1986年の制定当時は農薬や飲料水資源などの危険表示だけに留まらず、財布や靴、ティファニーのランプ、鳥の餌箱、ホテルの部屋、遊園地などの無害な製品について「警告」しなかった企業を訴えることによって「公衆を保護する」目標を掲げているため、今日ではもっぱら、金儲け主義の弁護士たちが大小の企業を相手に訴訟を起こす口実に使われてしまっていました。

プロポジション65を悪法と呼ぶ声もあるのは、このためです。
そして、アメリカは州ごとに独自の法律州法があり、それぞれの州で全く異なる項目があることも念頭に置く必要があります。
カリフォルニア州の判決=アメリカ全体の意見とはならないのです。
グリホサートの発がん性に関して、EPA(米国環境保護庁)をはじめ、世界の研究機関はIARCとカリフォルニア州政府のようには考えていません。

反グリホサートの表層

アメリカの他の州や世界に比べて、危険だとされる物質への規制がいき過ぎているのです。
某人気遊園地のアトラクションにまで、「警告」表示があったら、せっかくのワクワクが萎えてしまうのは私だけでしょうか。
正しく危険を認識することと同じくらい、バランスの取れた価値観を持つことも大事だと私は思います。

4.(三)スリランカは有機栽培を国を挙げて推進している!

「国を挙げて有機栽培を推し進めてくれれば……」

と思う方もいるかもしれませんが、最近、国の農業全体を有機栽培に強制的に切り替えて、食料危機を起こしてしまった国があります。
最近ニュースでも取り上げられていたのでご存じの方も多いかもしれませんが、スリランカです。

「国内の農業を全て有機農業にする」という公約を掲げて当選したラジャパクサ大統領は、その後有機農業への移行に否定的な国内の農業専門家や科学者らを有機農業への移行に関する農業セクションから遠ざけ、その代わりに有機農業推進派の市民団体のメンバーを任命しました。
2021年、世界各国と同じように新型コロナで税収が激減したスリランカ。
2021年4月に「化学肥料や農薬を禁止する」と発表しました。これは自身の選挙公約を実現することに加え、肥料購入費や補助金のカットによる支出を減らす目的もあったのですが、
これが食料危機が起こる引き金になりました。

● 主食の米の生産量が激減し、国内価格は50%も高騰
● セイロンティー(茶)や天然ゴム、ココナッツなどの輸出作物も生産量が減少

推定によると、茶の生産量減少だけでも経済的損失は4億2500万ドル(約580億円)に達するそうです。
その他の失政も相まって、食料・経済危機が起こってしまった。
「化学肥料や農薬の使用を禁止する」と発表してから一年経たずに、化学肥料の使用を部分的に認め、2022年2月には主要輸出物について有機農業への移行を停止せざるを得ませんでした。
国主導の極端な有機栽培の推進は、食料危機を招く。
日本も教訓にしなければならないことだと思います。

5.(捕)キューバも有機栽培が盛んだ!

「キューバは有機栽培が盛んだから真似すべきだ!」

という意見もあります。
たしかにキューバは有機栽培が盛んです。
キューバ首都のハバナ市域でも、都市部に農場や小さな菜園があり、有機栽培の野菜を作っているようです。
ただし、キューバは健康意識が高いという理由で有機栽培が広まったわけではありません。
1959年以降のアメリカからの経済制裁や1991年のソビエト崩壊で経済危機に陥ってしまったため、物資が乏しく食料やエネルギー(主に石油)を輸入に頼っていたキューバは、食料自給率を上げるため有機農業を選ばざるをえなかったのです。

そして社会主義国である点や、GDP(国内総生産)も日本とは大きく差がついていることも考慮しないといけません。
キューバの農業を参考にするところももちろんあると思いますが、国を挙げてキューバの真似をする必要まではないと思います。

6.(右)インドの綿農家は、遺伝子組換え種子によって借金が増えた!

「遺伝子組換え綿とセットで農薬を買わざるを得ない農家は、借金苦で自殺が増えている!」

これは農薬の話ではありませんが、インドの遺伝子組換えの綿をめぐるデマは未だに続いています。
その界隈では悪名名高いアメリカの企業の種子ですから、そのようなデマが起こるのでしょう。
遺伝子組換えの綿が導入され始める前から、一定数農家の自殺者はいますし、むしろ遺伝子組換えの綿が導入されてから自殺者は減少傾向です。

インドは遺伝子組換えの綿が導入されてから自殺者は減少傾向

  • 従来の綿と比べて31%の高い収量と、151%の高い順利益を得られている。
  • 従来の綿は化学肥料、有機肥料、および人手がかかるため結果として収益率は低下する。
  • 遺伝子組換えの綿はインドの農家の収益を改善させ、雇用、教育、生活水準も向上。健康上のリスクも低減させた。

という調査結果も報告されています。事実は全く逆ですね。
陰で闇の企業が世界を牛耳っているなどという陰謀論で楽しむのは、中学生くらいまでにしておきたいところですね。

7.(二)毒イチゴを台湾に輸出するな!

「台湾で日本のイチゴが検疫で引っかかった!」
「台湾では使用を禁止している農薬を、日本の農家は使っているからだ!」

これは、事実です。
しかし、日本の残留農薬基準が特別緩いわけではなく、国ごとに残留農薬基準が違うのです。

これは残留農薬基準が問題ではなく、何度も同じように台湾で禁止されている農薬を使っているイチゴを輸出しようとしているのが問題なのです。
出荷団体は台湾の輸出向けのイチゴに関しては厳しく農薬使用の指導しているはず。
それなのに何度も検疫に引っかかるのは、その国の農薬基準に対応した農作物でないとダメだということを理解していない業者だからではないか? 日本向けのイチゴを業者が買い集めて、台湾に売りさばいている可能性が考えられます。
真実は分かりませんが、デマと事実を見極めて判断したいところです。

8.(遊)EUでは、日本への渡航者に日本の野菜の危険性を知らせている!

「EUのある国の旅行会社では日本旅行をする方に、日本の野菜は農薬がたくさん使われているから食べない方がいいという、パンフレットが配られている!」

こう主張する方のネット記事があり、このフレーズは今日まで使われています。
これが正確な情報かどうか、どこの国のどこの旅行会社なのか、私には分かりません。
というのも、この発言をしている方のサイトに問い合わせてみましたが、1か月以上経っても未だに連絡がないからです。
この件に関して、誰か明確な資料や根拠があればぜひ教えてください!

9.(投)国営のオーガニック農場を作れ!

「農家を公務員にして農業をさせろ!」
「国営のオーガニック農場を作れ!」

これらの意見を持つ方もいるようですが、まずは実際に国営農場というシステムを採っていた中国(人民公社)やソ連(コルホーズ、ソフホーズ)が失敗した歴史から学ぶべきです。
国営農場が失敗した要因は色々挙げられていますが、一番の失敗要因は農民の労働意欲が上がらなかったことです。

● 収穫しても農民の利益にならなかった。
● ノルマだけを果たしていれば賃金は支給されるから、ノルマ以上の仕事に農民は応じなくなった。
● 飢饉に陥った年は農民が反乱を起こし、軍の鎮圧によって多数の死者を出した。

今の日本の環境で国営農場をしても、管理も行き届かなくなれば病害虫の被害が多発して、結局農薬を使わざるを得なくなる可能性も想像できますね。
農業も歴史から学ぶことはたくさんあるということは、忘れてはならないことですね。

まとめ

記念すべき12回目は、世界の農業情勢や農薬デマについて多く紹介しました。
ここまで来られたのも、読んでくださる消費者の方と、絶えず農薬デマを生み出してくれる方のおかげです。
これからも消費者の方に分かりやすく、農業についての話題を紹介していきます。

 

【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】記事一覧

筆者

ナス男(ハイパーナスクリエイター「いわゆるナス農家」)

 

関連記事

検索

Facebook

ランキング(月間)

  1. 1

    他人事じゃない、秋田県のお米をターゲットにしたいじめ問題:49杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

  2. 2

    日本の農薬使用に関して言われていることの嘘 – 本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する

  3. 3

    VOL.22 マルチ食品の「ミネラル豚汁」が被災地にやって来た!【不思議食品・観察記】

  4. 4

    第50回 有機農業と排外主義①【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

  5. 5

    Vol.6 養鶏農家が「国産鶏肉と外国産鶏肉」問題を語る【農家の本音 〇〇(問題)を語る】

提携サイト

くらしとバイオプラザ21
食の安全と安心を科学する会
FSIN

TOP
CLOSE