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Part3 商業栽培開始への道筋その2 座談会:日本で遺伝子組換え作物を栽培するにはどうすればいいか【遺伝子組換え作物の生産とその未来 】
【座談会】日本で遺伝子組換え作物を栽培するにはどうすればいいか
西南農場有限会社(北海道長沼町)
代表取締役
宮井能雅
1998年と99年に遺伝子組換え大豆を栽培。「ヒール・ミヤイの憎まれ口通信」を連載中。
トゥリーアンドノーフ株式会社(鳥取県鳥取市)
代表取締役
徳本修一
2012年に営農を開始。自社のYouTubeチャンネル「農業法人トゥリーアンドノーフ」の登録者数は3万9,500人に上る。
科学ジャーナリスト
小島正美
元・毎日新聞社勤務。著書に『誤解だらけの遺伝子組み換え作物』(エネルギーフォーラム)などがある。
昆吉則(『農業経営者』編集長)
国産のGM品種開発
昆 それから20年近く経って今改めて取り組もうと思う、一方では農研機構がやめてしまうというような状況を小島さんはどう思います?
小島 私はやっぱり反対運動に対する対抗運動がなかったということですね。農研機構がまだ研究段階の栽培でも、裁判を起こされてもうヘトヘトになって、研究者がかわいそうでした。そんな中で歌手の加藤登紀子さんまでが賛同して、「GM作物の研究をやめろ」といった裁判が起きたわけですけど、孤立無援の状態でした。市民運動の反対に対しては、やはり国や研究者を支援するカウンター運動が必要だとつくづく感じました。
宮井 たぶん国産じゃもうできないのよ。負け決定だから。機能性にしても特定除草剤耐性にしてもアメリカを超えるものを作りたいじゃない。勝つんだったらアメリカを超える品質、収量のものを作らなければ生産者も興味を持たない。
昆 そうかな。農水省には穀物育種は国産であるべきだって意識が非常に強いと思うけど。育種のナショナリズムみたいなやつがあると思うけど。
宮井 1945年に戦争に負けて、実はドイツも日本も飛行機の製造と飛行自体が禁止されたんですよ、アメリカに。ところが、ドイツ人が賢かったのはそれでグライダーを作ったんですよ。グライダーだとエンジンが付いていないから戦争では使えない。実際はイギリス軍がフランスに1944年(ノルマンディー上陸)にグライダーで飛ばして落下傘部隊が降り立った実例はあるんですけど。グライダーだとそんな戦闘能力ないってGHQも言っちゃったの、アメリカがドイツに。そうしたらドイツが何をやったかというとモーターグライダーを作った。つまり、エンジンを付けたのよ。プロペラを付けたの。アメリカもGHQ怒るじゃない。お前、約束しただろ、飛行機だめだよって。いやこれはグライダーにエンジンを付けただけって。何が言いたいかというと、ドイツ人は結局5年間で知恵を絞ってモーターグライダーを作った。そんな人が移民でブラジルに行ってエンブラエルっていう世界3位の飛行機製造会社を作ったのよ。話を戻すと、日本はもうだめ。負け戦決定だから。1995年に決まって30年経とうっていったときに、日本独自のものなんて、たった5年間で戦後失敗したのに飛行機(三菱も)。30年近く経ってうまくいくはずがない。
徳本 例えば今、乾田直播をやっても芽が出る直前にラウンドアップを撒くでしょ。どうしてもタイミングがピンポイントになる。ラウンドアップ耐性なら、草も稲も生えてから、一番効率が良いタイミングで散布できるので、結果的に除草剤の使用量も抑えられる。この約20年というのは取り返しのつかない時間ですよ。湿害耐性っていうのは特に難しいらしいんですよね、技術的にも。
小島 干ばつと逆ですね。
徳本 僕ら飼料を作りたいんで、WCSとかでも飼料イネなんか特定除草剤耐性のもので全部直播にする。あるいは窒素固定のレベルがすごい緑肥とか。それで化成肥料をドーンと減らすとか、そういうのをGMで作るとかいろんな品種改良の可能性があると思う。農業者の多くは品種改良の可能性をもっと貪欲に求めていいと思うんですよね。今はとん挫しているみたいだけど、東大がアルツハイマーの予防をするタンパクを含有するGM米を作っていた。主食を食べるだけでアルツハイマーを抑制するなんてインパクトがありますよ。それも水田でできるわけですから。
小島 民間企業が興味を示さないと無理ですね。スギ花粉の場合はほんと有望だったんですよ。農研機構としては絶対これでいけると思ったんだけど、厚生労働省が医薬品だって言っちゃったので、ものすごくハードルが上がっちゃった。何百億円かけてやってもほんとに売れるかどうかわかんないので暗礁に乗り上げている。やっぱり民間企業を最初からうまく取り入れながらやっていくことがいかに大事かってことですね。
宮井 低タンパク米、腎臓病患者に優しいってあるでしょ。各県に1種類くらいあるんですよ。だいたい昔の品種だからまずいんだ。それを医者に持っていったんだけど、何て言ったと思う。「患者が減るからやめてくれ。そんなことしたら俺たちの仕事減っちゃうじゃねえか」って。
昆 敵を作るような話ばっかりする。
徳本 日本で以前、BT(害虫抵抗性)キャベツだか、実際に開発ができていたって聞いたことがあるけど。
宮井 そう。三重県で20年前に日本モンサント時代の山根精一郎さんがキャベツとレタスにBTの遺伝子を入れて、どれだけ農薬が少なくて済むかってやってもらったの。そうしたら3分の1~4分の1で済んだ。ああいいですね、これやっていただけますか、わかりました検討しますってとこまでで終わり。
小島 それで終わっちゃったの?
宮井 終わり。
小島 もったいないですね。
宮井 三重の農政部の成績は良かったですよ。
宮井 それから9月14日の映画上映時のシンポジウムでゲノム編集で穂発芽耐性という話が出ていたでしょ。でも、北海道の農家はたぶん興味を持たない。なぜかというと亜リン酸ていう肥料がある。それに穀類の穂発芽防止効果がある。売り方としてはあくまでも肥料なんだけど、僕たちの周りで肥料だと思って使う人は1人もいない。みんな穂発芽防止。
昆 府県ではあまり知られていない。
宮井 3回かけるとだいたい発芽が1カ月ぴたっと止まる。
小島 農研機構ももうちょっとマーケティングのことを最初から考えて研究してほしいよね。
昆 機能性のことをうまくいかないよって宮井さんが言ったけど、機能性でこういうのあり得るかなというようなものって他にありますか?
小島 機能性で成功しているものはあまりないんじゃないですか。
徳本 機能性がとっかかりで作りやすいですよね、やるならね。
小島 それで消費者が魅力を感じて飛びついてくれるなら成り立ちますよ。
宮井 糖分がないだとか、糖質ゼロ。
小島 血圧の上昇を下げる成分を含んだイネをゲノム編集で農研機構が研究しています。同じ機能を持ったトマトはすでに実際流通しているんだけど、苦戦している。血圧上昇の抑制という機能性でほんとにみんなが買うかどうかですね。同様の効果を持つ食品は他にもいっぱいあるんですよ。どういう売り方をするかが課題ですね。
宮井 国産優位っていうのも嘘だと思うよ。例えば僕、「ゆめちから」ってパン用小麦あるでしょ。大量に余っている。過去2年間、北海道の小麦そのものの動きが悪く、売れずに在庫になっている。
昆 品質が悪いから。みんなが作るようになってから品質が下がっているの?
宮井 そのとおり。やっぱり輸入には敵わない。
小島 そんなに余っているの?
宮井 でも、餌にすればいい。10年前にある飼料会社と話したことがあったんですよ。例えば僕のGMの飼料用大豆で買ってもらえますかって言ったら、いいですよ。ただし、価格はアメリカのFOB(本船渡し)の価格ですと。当時で3000円くらいかな。マチュリティが自分の地域に合うアメリカの種を持ってきて、それで国産の飼料用米に代わり得る。調べたらGM大豆は交付金の対象内ですよ。
昆 要するに作ってエサ用にしようと。アメリカの種で飼料用大豆を作ってエサにすればいいと。飼料用米であれだけ税金を使っているわけだから、それと同じにすれば農家も見合う。
宮井 成り立ちますよ、草取りをやらなくていいんだもん。
小島 でも、価格だけで勝負したら大規模にやってもアメリカには勝てない。
宮井 ありがたいことに日本は豊かな国なんで、1俵何がしのベースを支えていただけるお金があるんで。そこでやる。
昆 GMをやめてゲノム編集だけにするというようなことによるマイナスってなんでしょう、小島さん。
小島 やっぱゲノム編集は自分の持っている遺伝子を変えるだけなので、害虫を殺すといったGMに見られるような形質は生まれず、限界があります。ゲノム編集はむしろ有害な遺伝子をつぶすという点で医療の面では大きな貢献が期待できますが、植物や動物ではやはり外部の遺伝子を持ってくるほうがすごいのができる。
徳本 選択肢がね、そうですよね。
小島 GMで普及している特定除草剤耐性もゲノム編集技術で実際できていますが、これは例外的なケースかもしれません。
宮井 ゲノム編集の特定除草剤抵抗性ってそろそろ出てくる。でも、STS系(スルホニルウレア系)だったら。早い話、水田除草剤で1年目OKだけど、2年3年作ると抵抗性が出やすいというのがあるでしょ。ラウンドアップ・レディーより何倍も出現しやすいの。中途半端なんだよ、ゲノム編集の特定除草剤耐性っていうのは。アメリカじゃたぶん売れないよ。一部の農家がローテーションの中で使ってみるかって程度だよ。
昆 北海道でビートに使おうという話があるでしょ。
宮井 あれもSU耐性系かな。僕がさっき言ったのはアメリカの話で。ただ、畑でビートをやる場合の雑草の量だとたぶんうまくいく。でも、長沼の水田の後にビートをやったらだめでしょうね。
小島 アメリカのビートは今、どのくらいGMになっているの?
宮井 ほぼ100%。9割。まあラウンドアップ・レディーよりリバティリンク(バスタ)の方が良いという生産者もいるかな。アメリカの僕の知り合いの農家が昔ビートを作っていたんですよ。アメリカでビートを作った歴史っていうのは、ケネディ政権のときにキューバの砂糖が入らなくなったので代わりにビートを増やしたっていうのがあるんだけど、ご存知のとおり今トウモロコシから砂糖も作れるから国もあまり力を入れない。
小島 確かにそうでしょうね。アメリカでトウモロコシからバイオエタノールを取っていますよね。それをもっと日本に輸入したり、日本でも栽培・抽出ができないかということで今、報告書をまとめる作業に加わっています。
宮井 北海道でも2カ所でやったの。10年以上前、清水町で小麦の二番とビートを使って、糖からだと一段階工程が少なくて済むから、ビート使ってそれからエタノールを作ろうって。そうしたらその次の年からビートの生産量は減り、小麦の二番はエタノールにするより鶏のエサにしたほうが農家は金になる。それで工場に物が集まらなくなって5年で閉鎖。あと、苫小牧で焼酎メーカーもやったんだけど閉鎖。
小島 そうなの。
〜その3へ続く〜
※『農業経営者』2022年12月号特集「日本でいよいよ始まるか! 遺伝子組換え作物の生産とその未来Part3 商業栽培開始への道筋」を転載