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どうしてラウンドアップが裁判の標的にされているのでしょうか。反GM運動と関係ありますか?

食の疑問答えます

A 大いに関係があります。除草剤ラウンドアップの発売は1974年。主成分グリホサートはほとんどの種類の雑草を除草でき、散布すると短時間で土壌に吸着され、微生物により分解されて消失するので、環境汚染の可能性が少なく、適切に使用する限り人の健康被害もありません。

ラウンドアップの運命が激変するきっかけは1996年

発売から約20年間、ラウンドアップは世界150カ国以上で広く使われ、その安全性が問題にされることは一切ありませんでした。しかしその後、ラウンドアップの運命が激変するきっかけは1996年に始まったGM(遺伝子組換え作物)の商業栽培でした。

最初に栽培されたGM作物はモンサントが開発した「ラウンドアップレディー」(ラウンドアップ耐性)と呼ばれるもので、ラウンドアップを散布しても枯れない性質を持った大豆やトウモロコシでした。農業労働の大きな部分を占める除草が簡単になるため、ラウンドアップレディーは世界中に広がり、GM作物の多くを占めるようになりました。

ところが、GM技術には当初から反対運動がありました。そもそも「遺伝子は神の領域であり、人間がこれに手を付けることは許されない」という神学的な反対、「自然ではない遺伝子が入っているものなんか食べたくない」という感情的な反対です。

反GM団体の標的になったのはラウンドアップレディーでしたが、これは厳しい審査を経て承認されたもので、安全性に疑問を持たせる材料に乏しかった。そこで目をつけられたのがラウンドアップだったのです。これを潰せばラウンドアップレディーも潰せるだろうという目論見があり、「発がん性がある」、「ラウンドアップレディーは危険」といったプロパガンダ映画が次々作られました。同様の内容の単行本も多数出版され、さらにそれがSNSなどを通じて拡散し、多くの人の“間違った認識”が形成されてしまったのです。

ジル・セラリーニ教授の2012年2月の発表

それに一役買ったのが、フランスのジル・セラリーニ教授の2012年2月の発表です。

「GMO(ラウンドアップ耐性トウモロコシ)と、ラウンドアップによりラットの乳がんが増加した」という発表は、乳がんを患ったラットの衝撃的な写真で関心をひき、論文発表と記者会見を同日に行う計画的なものでした。さらに図ったように、同月に宣伝映画である「世界が食べられなくなる日」の上映が開始されました。

セラリーニ論文はその後、実験例数の不足と、不適切な実験動物を使用したと判断され、ジャーナルへの掲載が撤回され、科学的には否定されましたが、メディアはそれを報じませんでした。別のジャーナルがこの論文を掲載し、今でもインターネット上ではセラリーニ論文が読め、反GM、反ラウンドアップ派の材料や引用元に使用されています。

反GM団体の活動やセラリーニ論文の影響はしかし、そこまで大きくはありませんでした。やはり2015年に国際がん研究機関(IARC)が、ラウンドアップを「おそらく発がん性あり」のグループ2Aに分類したことをきっかけに、世界規模での風評が加速し、訴訟ビジネスの種となるラウンドアップ裁判の増加を招くことになるのです。IARCの責任は大きいと言わざるを得ません。

回答者

唐木英明(公益財団法人食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授)
浅川芳裕(農業ジャーナリスト、農業技術通信社顧問)

編集者担当

清水泰(有限会社ハッピー・ビジネス代表取締役 ライター)

回答日

2020年1月16日

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