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「農薬に不安だった人が、農薬メーカーのファンになったのを見て思ったこと」:28杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

少し前ですが、「無農薬の農園を始めたい!」という女子大生さんと、農薬メーカーの社員さんがたまたまお店で出会ったことがありました。今回はそのときに思ったことを述べたいと思います。※写真はイメージです。

無農薬農園を始めたい女子大生

その学生さんは県外から長崎へ旅行に来たヨガが大好きという方です。
話した感じは明るくて活動的で、美人で素敵な女性でした。
彼女は、「古民家を改装してヨガや農業ができるような場所を作りたい」という夢を語ってくれました。
農業については「自分たちの農園を持って農業に挑戦したいんです」「農薬はやっぱりよくないのかな? 無農薬じゃないといけないかなと思っています」「自分でなんだってできる!と実感してみたいです」と意気込んでいました。
私は、こうしてわざわざ遠くから訪ねてきて夢を語ってくれるのを嬉しく思って聞いていました。

私たちが話をしていると、農薬メーカーの社員さんが来店しました。
メーカーさんは学生さんの隣でしばらく飲んでいました。
お話の中で学生さんは「やっぱり農薬って危ないんですか? 実際はどうなんですか?」と聞いてきました。
私は「それなら、実際にメーカーさんと話してみませんか? たまたまいらっしゃっているんですよ」と隣に座っていたメーカーさんを紹介しました。

居合わせた農薬メーカー社員と話すと……

メーカーさんは学生さんの疑問や質問に一つひとつ丁寧に答えていました。
そうしているうちに、学生さんの「農薬ってよくわからないけどこわいなあ」という印象も少しずつ変わったようで、「農薬メーカーさんってすごいんですね!」「私たち、たくさんの人のおかげで生きているんですね」とリスペクトする様子を見せていました。

農薬メーカーさんは、安全性を求める取り組みや厳しい基準の仕組みなど、専門的な説明はそれほどしませんでした。
どの仕事でもあてはまるようなごく普通の内容です。

普通に暮らしていると農薬メーカーを身近に感じる機会は少ないと思います。
しかし、実際に顔を見て話をすると「農薬メーカーといっても、自分の家族や友だちと同じで、お仕事をがんばる普通の人なんだな」と身近に思えるのでしょう。
そして、まじめに仕事をする姿勢や誠実な人柄が伝わると信頼感も生まれるのだと思います。
当たり前と言えば当たり前なのですが、私のお店ではたびたびこうした光景を目にしてきました。

学生さんは「一緒に写真を撮ってください!」と、最後はメーカーさんのファンになっていました。
はじめに抱いていた農薬への不安は消え去り、リスペクトが生まれていたのです。

私は学生さんに「農園がんばってくださいね。自分でもできる!と、実感することはたくさんあると思いますよ。そして、難しい! できない!と実感することもたくさんあると思います。でも、OKだと思います。無農薬でも、そうじゃなくてもOKです。いつでも自分にOKを出してあげてください。そして、他のみんなにもたくさんOKを出してあげてください」と応援の気持ちを伝えました。
すると「自分にOKを出せたら他人にもOKが出せる」という考えはヨガの世界にも同じものがあると教えてくれました。
その夜、学生さんはSNSに「一瞬でファンになりました!」「絶対また会いに来ます!」と投稿してくれました。

良い印象を与えてファンになってもらう

私は「ファンっていい言葉だな」と思いました。
農業と食について伝えるとき、データやファクトはもちろんいちばん大切です。
トンデモな風評を放置していいとも思いません。
ですが、熱心に知識を披露するだけでは、こわい顔をしてトンデモを追及するだけでは充分とは言えません。
良い印象でファンになってもらうことも大切なのです。

この日体験したのは、「まじめに働くあらゆる仕事の人がファンを作れるのではないか」と可能性を感じる出来事でした。
そして、この出来事は「農業と食を支えるあらゆるプロフェッショナルたちのファンを増やしたい」と志すきっかけになりました。

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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