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第2回 なぜ米価は暴騰したのか?――隠された“作況指数の嘘”【浅川芳裕の農業note】

浅川芳裕の農業note

日本人の主食をめぐる市場が、静かに崩れ始めている。背景にあるのは、農林水産省が発表する「作況指数」の制度的欠陥だ。2023・24年の2年連続の不作を「平年並み」と過大評価し、供給不足を隠蔽。結果として市場を混乱させ、米価の高騰を招いた。時代遅れの統計手法、調査精度の低さ、透明性の欠如──。農水省の「統計神話」が崩れた今、求められるのは、科学的な作況調査と、生産者主導の制度改革である。

作況指数の欺瞞がコメ市場を壊した

コメ高騰の真犯人は農水省だ。作況指数の2年連続ミスで不作を隠し、「消えた21万トン」などと供給不足を誤魔化してきた。時代遅れの収穫量予想が市場を混乱させ、価格高騰を招いた。国民の主食が危機に瀕する中、一切責任を取らない。解決策は農水省の統計部解体と、科学的な統計手法導入しかない。

農水省の作況調査は8,000圃場(ほじょう)を道府県別の無作為抽出で実施。分散が大きい(品種・地域・微気象・技術差)母集団で代表性が低く、異常気象も反映しない。2023・24年ともに不作だが101(平年並み)と過大評価し、農家・コメ業界を混乱させた。統計学的欠陥で、今もなお市場の信頼性を損なった状態である。

農水省は層別に水田サンプルを抽出するというが、基準が曖昧で、品種差・地域差を十分補正できていない。また、水田農家の観察眼を反映せず、坪刈り調査(1坪の収穫量を測定して全体の収穫量を推定する)に過大に依存する。微気象や生育の変動を捕捉できず、サンプル配分の不均衡で信頼区間が広い。その結果、不作を見逃し、市場からの信頼は失墜している。

言い換えれば、農水省はバラツキが多い田んぼをきっちりグループ分けせずランダムに選ぶから、収量のバラツキが大きく予想がアバウトになる。たとえば、多収品種と一般品種、水不足のあった地域となかった地域などのズレが混ざり、平均収量が実態からズレる。どのくらいズレるかわからないままである。

農水省のランダム標本の選び方自体も、統計学上、怪しい。たとえば、コメ生産量日本一の新潟県で370筆に対し、石川県185筆。新潟は石川の5.5倍の面積なのに標本は2倍。農水省にその理由を聞くと「昔からそうしてる」と埒が明かない。新潟予想が外れると全国への影響は多大だが、改善されないままである。

さらにコメ生産量1位の新潟県と2位北海道の統計問題が全国値を歪める。新潟(370筆)と北海道(600筆)は面積比1.07倍なのにサンプル数は1.62倍。分け方が曖昧でサンプルが偏り、精度が落ちる。異常気象も補正せず、両地域の収量誤差が増えた場合、広大な面積ゆえ全国値に影響するリスクが極めて高い。

品質差が作況指数に反映されない問題も大きい。たとえば、新潟の2023年作況指数は98だが、猛暑で品質が低下。コシヒカリの一等米比率は5%未満と過去最低で、例年80%から激減。白濁や胴割れが増え、歩留まりが低下し、食用米が減少した。農水省は品質低下を反映せず、供給量を過大評価したままである。

調査手法のズレと制度疲労が生む統計不信

そのうえ現場調査が欠陥だらけなのだ。水田の借地増加で耕作者不明の場合、代替圃場選びが現場に任され、農水省調査の要であるランダム性が損なわれる。計測後、水田農家からの確認サインが不要なルールで、まともに調査したか疑わしい。適当に選んだ田んぼデータが大量に混入しても、まかり通るリスクが高い。

農業評論家の土門剛氏は「農家のサインなしで調査費用を税金から計上するのか」と統計部に問うが、一向に返答がない。農水省の作況調査では「カラ出張」疑惑が浮上している。カラ出張とは実態のない出張で経費を請求する行為。農水省は不正経費や統計不備で追及された過去もあり、調査への不信感は高まるばかりである。

加えてデータの非公開性が信頼を低下させている。農水省は作況指数のもととなるデータの外部検証を拒み、統計的改善が進まない。アメリカ農務省の場合、データを公開し、民間の専門家検証により精度向上を促進。競合する民間サービスもあり、国と切磋琢磨している。農水省は閉鎖性が杜撰さを隠し、さらなる不信を招いている。

長年、現場から指摘されるふるい目問題も深刻。農家は1.8~2.0mmのふるいで小粒やくず米を除くが、「平年収穫量」の基準は1.70mmのまま固定され、問題を放置したままである。農家の実態とズレた基準で、収量誤差を助長している。農水省の硬直的な統計により、市場の信頼性は下がるばかりだ。

この平年収穫量は「栽培前に気象や低温・日照不足などの被害を平年並みとみなし、直近30年の実収量から10a当たり収量を予想し、作況指数の基準とする」と定義されているが、統計学的に時代遅れである。異常気象が常態化する中、平年並み仮定は非現実的で、実際の収量との間に誤差を生む。仮定と実態が乖離している。

平年収穫量は検討会委員の口頭意見をもとに、官僚が決める旧態依然の体制で、主観的かつ不透明。技術進歩の反映も定量基準がなく、異常気象の評価も不足。統計学的にデータの客観性や再現性が損なわれ、バイアス混入のリスクが高い。農水省の閉鎖的な手法では、政治的な意図で介入が自由自在である。

アメリカの場合、農水省と同様の実測に加え、衛星データ(気象・土壌・葉緑素)、農家報告を統合し、週次更新で生育状況を検証している。広大な面積に対し2000サンプルで効率的に予想。層別サンプリングで高い精度を実現。農水省は坪刈り調査依存がゆえ、動的要因を反映できず、誤っても原因特定が困難である。

アメリカは当年の収量予測だけでなく、線形トレンドモデルで将来の収量トレンドも予測する。過去100年の収量データや技術進歩を基に、コメは年約70ポンド/エーカー増、2034/35年度生産量は252百万cwtと推定されている。日本でも将来のコメ生産量は国民にとって大きな関心事であり、科学的予測で透明なコメ業界を目指すべきである。

科学的な作況へ――農家主導の未来へ向けて

コメの作況調査・改善案①は層別分析の導入。品種・地域で分散を層化し、特に面積に応じサンプル数を割り当て、層内のバラツキも補正する。恣意的なサンプル数の決定を改め、アメリカの手法に倣い効率性と精度を高め、科学的な収穫量予想の基盤を構築する。異常気象下でも信頼性の高い推定が可能になる。

コメの作況調査・改善案②は農家報告の追加。地域別に代表的な農家を抽出し、異常気象や生育状況、直播普及など技術変化や報告を受け、分散の変動要因を補完する。アメリカのように実測と連携し、無作為サンプルでの坪刈り調査依存を脱却する。①の層別分析と統合し、予測の現実性と正確性を向上させる。

コメの作況調査・改善案③は速報性と透明性の向上である。現状の年3回(夏1回・収穫前1回・収穫時1回)公開では少なすぎる。生育の初期から予測を開始し、誤差を修正・更新しながら、データ公開で外部検証を促進する。アメリカから生育進捗報告と統計データ公開手法を学び、精度向上と信頼回復につなげるべきである。

コメの作況調査・改善案④は飼料用米混入の防止強化。調査対象外かつ多収品種が多い飼料用米が混入すると、平均が過大となり不作が隠れる。調査前に圃場の用途を厳格に定義し、農地台帳と衛星データを連携させて飼料用米圃場を事前除外する仕組みを構築する。調査対象を明確化し、統計の信頼性を高める必要がある。

コメの作況調査・改善案⑤はふるい目幅と品質基準の改定である。平年収穫量の基準を1.70mmから農家の1.8~2.0mmに合わせ、一等米比率や歩留まり低下まで予想に反映させる。目的である食用米供給量を正確に把握し、農家やコメ事業者の現場感覚との乖離を減らす。過大・過小評価を防ぎ、信頼性を高める。

コメの作況調査・改善案⑥は品質データを加味した総合的な予測モデルの導入。収穫量(kg/ha)に一等米比率と歩留まり率を乗じた「食用米供給量=収穫量 × 一等米比率 × 歩留まり率」を予測する。品質を説明変数に追加し、統計モデルを向上させることで、過大評価のバイアスを補正し、供給予測の精度を高める。

コメの作況調査・改善案⑦は将来トレンドの予測と公表である。アメリカの線形トレンドモデルなどを参考に、過去の収量データや農家の技術進歩を基にして長期予測を構築し、毎年公表する。異常気象や需要変化にも対応し、国民がコメ生産の将来像を把握できるようにする。持続可能でオープンな農業政策の基盤を築くべきである。

ただ、いくら農家やコメ業者が誤りを指摘しても、一切認めない“無謬性”体制の農水省には自己改革は期待できない。志ある稲作農家とコメ業者が協業し、科学的な作況指数を構築する時である。自ら資金を出し、収穫量予想システムを整え、不足時・過剰時の説明責任を負う。生産者主導で高騰危機を解決せよ。

最終的に全ての責任の所在は農水省ではなく、コメ供給者である稲作農家に帰する。コメの量・質・価格、そして将来に対し責任を負い、国民から広く信頼を得る必要がある。高騰危機の解決には農家主導でコメの安定供給を果たし、供給責任を全うする他ない。国民から見放されれば、米産業の未来はない。

初出:2025年3月22日
https://x.com/yoshiasakawa/status/1903406495070568514

編集部註:この記事は、浅川芳裕氏のnote 2025年5月16日の記事を許可を得て、一部編集の上、転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は浅川芳裕氏のnoteをご覧ください。

 

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筆者

浅川芳裕(農業ジャーナリスト、農業技術通信社顧問)

 

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