会員募集 ご寄付 お問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています
Vol.41 令和に帰ってきた昭和の健康狂騒食品クロレラ【不思議食品・観察記】
科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、1970年代にブームとなった健康食品のクロレラ。昭和世代ならお茶の間で異質な存在感を放っていたであろう、深緑色の錠剤に見覚えのある方も多いはず。違法な「誇大広告」が問題となり、姿を消したと思いきや、令和にしれっと転生。山田ノジルさんが昭和から現在まで同じやり方で成長する健康不思議食品ビジネスの構造を読み解きます。
「一家に一瓶」の緑色が令和に帰ってきた
「野菜嫌いの子でも続けやすい!」 。子どもの食事に悪戦苦闘する親の不安を煽る定番のフレーズ。これが出てくる投稿は、十中八九粉末状サプリの広告です。青汁だったり野菜パウダーだったり自然派マルチだったり。多種多様ですが、その中で思わず「懐かし!」と声が出たものがありました。その名はクロレラ。
昭和のお茶の間で異質な存在感を放っていたであろう、深緑色の錠剤。自分は見たことはありませんが、ヤクルトが販売していた「クロレララーメン」「クロレラヤクルト」なる珍品も、かつてはあったそうです。
クロレラとは、淡水に生息する単細胞の微細藻類です。光合成で増殖し、タンパク質やビタミン・ミネラルをバランスよく含むため、健康食品等に広く利用されています。これが世に広まったきっかけは戦後の食糧難。国を挙げて研究されていましたが、食糧危機の解決に伴い、ターゲットは「健康食品」へとシフトしていきました。
1970年代に入ると、公害や食品添加物への不安を背景に、その「解毒(デトックス)効果」を謳った緑の錠剤が大ブームを巻き起こします。社会の不安や人々の防衛本能と結びついて成長する健康食品ビジネスの構造は、令和の今も全く変わっていませんね……。
序盤から少々余談ですが、あのザ・工業製品といった趣の「グリーンの粒」を見るたびに、ディストピア映画『ソイレントグリーン』を思わずにはいられません。人口爆発! 食糧危機! からの食品生産にまつわる陰謀……! そんな怪しげな連想が生まれるのは、それほどに、きな臭い歴史を背負ってきた食品だからです。クロレラを巡る歴史には、日本の健康食品ビジネスにおける「誇大広告」の教訓がこれでもかと詰め込まれています。
やらかしの筆頭は、お約束の「ガンが消える!」。続いて糖尿病、高血圧、肺気腫、神経痛、パーキンソン病……。「何にでも効く万病の薬」として売りまくり、景品表示法違反でアウトとなりました。
裁かれた健康食品の「誇大広告」
比較的最近まで世間をにぎわせたのは(と言ってももう10年以上前ですが)、最高裁まで争われた「サン・クロレラ広告差し止め控訴審」です。日本の消費者保護の歴史において有名なこの裁判。「研究会商法」という手口は許されるのか?と問われました。体験談を掲載したチラシを新聞折り込みで配布し、そこからアクセスしてきた人に商品のカタログを送るという、この手法。メーカー側は「商品そのものを宣伝したんじゃないもんね!」と主張したものの、裁判所からは「実質的な購入の勧誘に当たる」と判断され、広告の差し止め請求が認められました。そして、歴史的な勝訴判決となったのでした(冒頭で「昭和のノスタルジー健康食品」呼ばわりしたものの、平成の終わり頃まで法廷闘争が続いていたとは驚きです)。
さらにクロレラにとってもうひとつ痛手だったのは、下痢や腹痛などの消化器トラブルに加え、重篤な肝障害やアレルギー反応(光線過敏症、アナフィラキシーなど)を引き起こした事例の数々でしょう。ここでひとまず、「万病に効く夢の健康食品!」というステージは幕を閉じたかに見えたのでした。
「治す」から「支える」に巧妙にシフト
さて、「転生」です。令和の現在は、栄養! デトックス! サステナブル!と、クリーンな自然食品の装いで元気に再起動しています。それはやはり、クロレラは栄養食品としてのポテンシャル自体は、ガチであったからでしょう。しかし無難なことばかり謳っていては売れません。再び「体質改善」「免疫向上」「デトックス」といった、看板を背負わされています。そうそう、トンデモ栄養学である分子栄養学でも、度々クロレラ推しを見かけます。はー、懲りねえ!
「○○に効く!」という直球の時代は終わり、転生したクロレラが覚えた新しい言葉は、「サポート」「コンディション」「腸内環境」「栄養」「スーパーフード」「藻活」。標榜するワードも「治す」から「支える」へと巧みにシフトしています。
歴史の教訓を得て無難な方向で再出発しただけ……という見方もできますが、そうはいかないのがインフルエンサーの時代です。かつて中立を装い、売り手の気配を消すために行われていた「研究会商法」のバトンは、いまやインフルエンサーたちがしっかりと引き継いでいるのですから。
あいもかわらず、「現代は毒だらけだからデトックスが必要!」「子どもの困った〇〇は栄養不足が原因……」などと、不安を煽る手口は健在です。昭和の「万病に勝つ!」「免疫アップ!」といったど直球なアピールに比べると、若干遠回りで上品になった分、かえってうさん臭さが増したように思えるのは私だけでしょうか。
穏やかに、しかしより怪しく転生を果たしたように見えるクロレラは、まさに「謎食品」。そして健康をめぐる人間の果てしない欲望がある限り、この手の食品は何度でも華麗に転生を繰り返すのでしょう。
筆者 |



