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トンデモに自由と光を:20杯目【渕上桂樹の“農家BAR NaYa”カウンタートーク】
農業トンデモを追っていると、たまに「トンデモを規制する決まりがあればいいですよね?」と聞かれることがあります。確かに、根拠なく農業の不安を煽るトンデモは迷惑な存在です。消費者に無用な心配を植え付け、農業界に風評被害をもたらすだけではなく、医療トンデモの入口にもなっており、到底看過できるものではありません。現に、私は一定のリスクを負って(時に容赦なく)トンデモの発信源を追っています。ですが、新たな枠組みでトンデモを規制したいかと問われれば答えはNOです。トンデモ講演会や書籍の出版に抗議したいと考えたこともありません。事実に反する情報や、根拠のない情報を流すことを禁止する決まりはもうすでにあるから、というのも理由ですが、もっと大きな理由は2つあるのです。
トンデモを規制したいわけではない
1つ目の理由は、あまり表(おもて)で制限しすぎると地下に潜ってしまう恐れがあるからです。
「○○はこんなにも危険!」「農業が支配される!」といった典型的な農業トンデモ発信者は、顧客を世間の情報と分断し、村のようなものを作って囲い込むことがあります。
そうなると、世間と隔絶した環境でカルト化・先鋭化してしまう可能性があり、問題の解決をより困難にさせる恐れがあるのです。
2つ目の理由は、個人の自由を制限することに抵抗があるからです。
私は、自由に考えを話せるこの社会が好きです。
自由な社会を作るために多くの犠牲が払われたことも知っています。
たしかに、農業トンデモは農業関係者にとっては迷惑ですし、消費者にもプラスにはなりません。
しかし、もしも誰かの自由を奪おうと考えたとしたら、これまで自由のために世界が払った犠牲に誠実であるとは言えません。
私は、自分の自由と同じように、他の誰かの自由も守りたいと思っています。
たとえそれがトンデモであっても、誰もが自由に発言して、その責任を自らが負う方が良いと思うのです。
内容をチェックしたうえで紹介したい
では、誤った情報によって農業の不安を煽るトンデモは放置して良いのでしょうか?
私はそうは思いません。
冒頭で述べたように、誤った言説によって本来必要のない不安に惑わされる消費者、不当に尊厳を傷つけられる農業・食品事業者が存在する以上、見て見ぬふりをしたくはありません。
ではどうするか?
私は「発信しないで」と訴えるよりも、むしろその内容をチェックし、広く紹介するようにしています。
たとえば、「種子法廃止で農業が壊滅する!」という講演会に行ってみたら、講師の国会議員(当時は候補者)は法律の条文を読んですらいなかったこと。
「子供たちに安全な食を!学校給食を有機に!」という一見良さげな運動、内容を見てみたら事実に反するばかりか差別を助長するもので、しかも反医療ビジネスが関係していたこと。
「循環型農業の村を作りたい」というスローガンで作られた農場に行ってみたら、マルチ商法とインチキ医療の巣窟だったこと。
こうした出来事を(時にユーモアを交えながら)紹介していくのが、私の得意とするやり方です。
タイトルに込めた期待
農業トンデモの発信者の多くは、農業の現場をあまりよく知らない層を主なターゲットにしているからか、意外なことに広く知られるのを嫌う傾向にあります。
事実、トンデモの発信源の人をラジオ番組に招待しても大抵返事がありません。
せっかく「メディアが報じない真実」を報じるチャンスなのにです。
トンデモに光を当て広く知らしめることで期待できることはたくさんあります。
誰かが同じような言説に出会ったとき、「あれ? これってAGRI FACTで見たやつに似ているぞ」と立ち止まって警戒できるかもしれません。
事前にトンデモを知っていた方が真に受けずに済むからです。
また、プロの農業関係者や専門家の目に留まる機会が増えれば、ツッコミも増えるかもしれません。
発信元にとって「詳しい人に突っ込まれるかもしれないな」という注意は、不確かな情報で不安を煽りたい衝動を抑える良い助けになります。
そして何より、閉じた空間よりも明るいところで自由に意見が交わされた方がずっと健全だと思うのです。
トンデモに自由と光を!いう願いには、こうした期待が込められています。
【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧
筆者渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ) |