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農水省の検討資料を読まずに農水関連法案を批判する人

コラム・マンガ

AGRI FACTは「特集 鈴木宣弘氏の食品・農業言説を検証する」など、これまでも鈴木氏の言説を数多くファクトチェックしてきた。それでも農と食の分野でいたずらに不安を煽る彼の言説に変化や反省はみられない。自らのがん公表後ベストセラーを連発している森永卓郎氏との共著『国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係 (講談社+α新書2024年2月発行)』内の記述を晴川雨読氏の協力を得て検証する。

食料供給困難事態対策法案の検討資料と違う発言

第一章 世界経済はあと数年で崩壊する、に以下のような記述がある。

森永 2023年だったかな、農水省が有事の対策を発表しましたよね。いざとなれば食料は配給制にして、みんなでイモを植えてしのごうという。
鈴木 ええ。有事に食料危機が起きた場合、花農家などに強制的にイモや米を作るよう命令するための法律を用意すると報じられました。
森永 あれを見て、農水省の人間って農業をやったことがないんじゃないかと強く思いましたね。
たとえば、米を作る場合は、米を作る基盤が必要なんです。水田を作り、毎年維持しているから米を作れるんです。一度水田を潰してしまえば、そう簡単に復活させられない。
イモだって同じです。まずは畑を耕さなきゃいけない。連作障害の対策もしなければならない。同じ場所で同じ作物を作り続けると生育が悪くなったりしますが、これを「連作障害」と言います。米以外の作物は基本的に連作障害がありますから。

農水省は本当に「花農家などに強制的にイモや米を作るよう命令するための法律を用意」していたのだろうか。

不測時における食料安全保障に関する検討会:農林水産省」にある「不測時における食料安全保障に関する検討会 取りまとめ」を見ると、

「熱量を重視した品目への生産の転換を図る場合、その要請等の対象者については、対象品目を現に生産している者に加えて、より広範な生産者を確保する観点から、現に生産していないが生産能力を持つ者も対象とすることが妥当と考えられる。」とある。もちろん花農家に「イモや米」の「生産能力」はないので、この時点で増産の対象となることは想定されていない。同資料は2023年12月6日付で、遅くとも2024年1月4日には公開されている。

その後、2024年1月に召集された通常国会に「食料供給困難事態対策法案」(2024年5月5日時点で継続審議中)として2月27日に閣議決定ののち提出された。法案の条文も、(農林水産物の生産に関する要請等)の第十七条は

主務大臣は、本部設置期間において、食料供給困難事態の発生を未然に防止し、又は食料供給困難事態を解消するため、措置対象特定食料等(特定食料及び特定資材のうち農林水産物に限る。以下この条において同じ。)の生産を促進することが必要であると認めるときは、当該措置対象特定食料等の生産の事業を行う者(以下この条において「農林水産物生産業者」という。)に対し当該措置対象特定食料等の生産を促進するよう要請し、又は農林水産物生産業者以外の者であって当該措置対象特定食料等の生産をすることができる見込みがあるものとして主務省令で定める要件に該当するもの(次項及び第二十一条第一項において「農林水産物生産可能業者」という。)に対し当該措置対象特定食料等の生産に協力するよう要請することができる。

とあり、検討会の資料を踏襲している。

この共著の発売は2月下旬と法案提出前だが、農水省の資料をきちんと見ていれば、鈴木氏からこうした発言は出てこないか、少なくとも不正確な報道を鵜呑みにせず、発言を取り消したり訂正することはできたはずだ。

森永氏の「米(実際は稲)に連作障害がない」という発言にも触れておくと、米には連作障害がある。水稲にはないが、陸稲では連作障害が起きるのだ。詳細は農林省農事試験場畑作部の西尾道徳氏「陸稲の連作障害の原因をめぐって」を参照されたい。そして緊急時の増産という事態を想定すれば、畑で米を栽培する陸稲は大いにありうる。軽々な発言は止めてほしい。

インドの小麦輸出禁止を強調して無用の不安を煽る

第一章には下記のような発言もあった。

鈴木 ・・・インドは世界二位の小麦生産国ですが、ウクライナ戦争の影響で、小麦価格が上昇したことで、国内の安定供給のため小麦の輸出を禁止しました。

インドは確かに年間生産量が1億トンを超える「世界二位の小麦生産国」である。そのインドが小麦の輸出制限を行ったことで、世界の食料危機はいつ起こるかわからない、だから自給率を上げて備えよというのが鈴木氏のかねてからの主張だ。

しかし、インドは小麦の国際貿易プレイヤーではない。FAOSTATによると、2021年の輸出量は2020年93万トン、21年は609万トンと増加して世界10位だった。インドの小麦輸出事情については、「『論点3(後編)世界と日本の食料安全保障~なぜインドが行う輸出制限をアメリカは行わないのか?』/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下 一仁【おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する】で山下氏が解説している。

インドは人口が多く国内消費が多いため、輸出向けは少ない。また、生産量の変化が大きいため、少しでも豊作になると輸出が大きく増加し、不作になると大きく減少する。不安定な輸出国なのである。これに対して、世界全体の貿易量は約2億トン、アメリカやカナダ、オーストラリアの輸出量は、2千〜3千万トン規模である。インドが輸出を禁止しても、世界の小麦需給に大きな影響はなく、世界食料危機の引き金となることはないのだ。

なお世界一位の小麦生産国は中国の1億4千万トンだが、2021年の輸出量はわずか4千トンである。

 

本記事は晴川雨読氏のブログ 国民は知らないトンデモ教授×2の不適切な関係?をAGRI FACT編集部が再構成した。

協力

晴川雨読(せいせんうどく)

編集

AGRI FACT編集部

 

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