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他人事じゃない、秋田県のお米をターゲットにしたいじめ問題:49杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

秋田県で新しく開発された「あきたこまちR」という品種のお米があります。「あきたこまちR」は従来の「あきたこまち」と比べてカドミウムの吸収を抑える特性があり、安全なお米をより安定的に供給できると期待されていました。元々鉱山が多かった秋田県では、田んぼに重金属のカドミウムが含まれているところがありました。そのため、生産の現場ではお米がカドミウムを吸わないように栽培管理や検査などで長年苦労してきました。「あきたこまちR」はその苦労を減らすことができるという意味で秋田県の悲願でもあったのです。ところが、その「あきたこまちR」がおかしな活動家グループのターゲットにされ、いじめ問題のようになっています。今回はそのことについて感じたことを述べたいと思います。

いじめのターゲットにされた「あきたこまちR」

「あきたこまちR」をターゲットに騒ぎ出したのはいろいろな団体や活動家です。例を挙げると「ホメオパシー」と呼ばれる謎めいた健康法を勧める団体、「食の安全を!」と掲げる団体、そしてお馴染みの「オーガニック給食運動」を勧める団体など様々です。
中でも目立つのが「OKシードプロジェクト」という、こちらも「オーガニック給食」を勧める団体です。
「OKシードプロジェクト」は「あきたこまちR」について品種改良で放射線を使うからと、あたかも危険であるかのように主張していました。
前から思っていたのですが、オーガニック給食運動ってトンデモとセットじゃないといけないものなんですかね?

育種に放射線を使っても危険ではない

もちろん、「あきたこまちR」は危険ではありません。
放射線を使うと言っても食べるお米に当てるわけではなく、品種改良で使う祖先の品種に放射線の技術を使うだけです。
しかも、この技術は「あきたこまちR」に限ったものではなく、50年以上前からお米や果物などにずっと使われてきた技術なのです。
なので、今さら「あきたこまちR」だけをターゲットに騒ぐのもおかしな話なのです。
どうしても騒ぎたいなら「あきたこまちR」だけでなく放射線の技術を使ったありとあらゆる品種に対して「あきたこまちRも問題だ! あと、昔から作られているレイメイも問題だ! お米以外ではゴールド二十世紀ナシも問題だ! そのほか放射線を使うもの全部だ!」と騒げばいいのに、どういうわけかこれらの団体は「あきたこまちR」だけをターゲットにするのです。
まあ、みんなを平等にターゲットを設定していては効果? がないからだと思いますが、徒党を組んでひとりをターゲットにする行為がまさにいじめですからね。
「OKシードプロジェクト」はご丁寧にホームページで「こんなにたくさんの団体があきたこまちRを問題視しています」のようなことを誇らしげに書いていますが、卑劣な行為は自慢にならないのでやめたほうがいいと思います。

秋田県が安全性を説明する事態に

お米をいじめるのは、人をいじめるのと同様に決して軽いものではありません。
現に、団体の呼びかけを真に受けた人から秋田県にクレームが殺到したり、お米農家が誹謗中傷のメッセージで傷つけられるなど深刻な事態に発展しているからです。
問題がエスカレートする中、秋田県は“安全性に問題は全くない”と説明するとともに、公式サイトで誹謗中傷をやめるよう“お願い”を掲載するなどの異例の事態となりました。
また、NHKなどのメディアでも「あきたこまちR」が安全であることを説明し、「不安情報を安易に拡散しないよう」呼びかけています。
こうした努力のおかげか、「あきたこまちR」はこんなにも危険! という主張は徐々に無理があるものになっていきました。

終わらないいじめ問題

しかし、いじめ問題が深刻なのは、原因がなくなっても終わらないところにあります。
実際、「あきたこまちR」をターゲットに活動する団体は、「表示の仕方に問題があるんだ」「品種の切り替えのやり方がよくない」「消費者の権利はどうなる」と趣向を切り替えて攻撃を続けました。
(そんなに表示の仕方が気になるなら「OKシードプロジェクト」も「インチキ健康ビジネスとつながっています」と表示しなければならないのでは? と思いますけどね)

そしてついに、「OKシードプロジェクト」は「私はあきたこまちRを食べたくありません!」という“お気持ち”を根拠にした署名活動を始めてしまったのです。
いやいや、ここまでいくともはや「もうみんなであの子無視しよ!」というのと同レベルですよ。
「危険性・安全性」の話はどうなったんだ? 思いますが、もはや理由なんて何でもいいという潔さというか開き直りというかそういうものを感じます。
一度ターゲットにされてしまうと、理由がなくてもいじめが続くのはよくある話です。
たとえば、暗いからという理由でいじめられた子がクラス替えを機に明るく振舞うようになっても、別の理由を見つけていじめられるというのはよくある問題だと思います。
今回はたまたま秋田県のお米がターゲットになりましたが、このやり方を使えば何でもターゲットにされる恐れがあります。
恐れなくていいのは、いじめの首謀者だけです。

このいじめ問題、「先生に助けてもらえない」というのも学校のいじめ問題に似ています。
参議院議員の福島みずほ氏はSNS上で「こんな署名活動があります」としてこの署名を紹介してしまいました。
こんなの、担任の先生がいじめに遭っている子をホームルームで吊るし上げるのと同じじゃないですか。
学校の先生も政治家の先生も問題が起こったときには真っ先に頼りたい存在なのに、本人が率先していじめに加担してしまうなんて、これ以上救いようのない話があるでしょうか。

「あきたこまちR」いじめ問題に似た事例も

私はこの問題を、全く他人事とは思えませんでした。
私の住む長崎県にも「にこまる」というお米があり、品種改良の際に放射線の技術を使っています。
お米以外にも探せばいろいろあると思います。
もしこうした団体のターゲットにされてしまったらたまったものじゃありません。
たとえ長崎県が丁寧に説明しても、焚きつけられた人たちから見当外れのクレームが殺到するでしょう。
農家や店舗のSNSに誹謗中傷が書き込まれるかもしれません。
本来必要ないストレスにさらされる県の職員さん、無駄に使われる税金、一生懸命働いているのに尊厳を傷つけられる事業者、これらは全て秋田県で実際に起こっていることなのです。

立ち向かう全国の農家や消費者

ですが、見て見ぬふりをせず、いじめに立ち向かう人もいます。
「OKシードプロジェクト」のSNSには、全国の農家や消費者から、根拠のない風評加害をやめてほしいとの声が多く書き込まれていました。
秋田県以外の農家や事業者の中には、私と同じように「他人事ではない」と思った人がたくさんいたのです。
そして秋田県には真剣にこの問題に向き合っている県議会議員さんもいます。
せまい教室の中では、なかなか助けてくれる人はいないかもしれませんが、広い社会には仲間がたくさんいるのです。

では、いじめという卑劣な行為に打ち克つにはどうすればいいのでしょうか?
首謀者をこらしめるべきでしょうか?
いいえ、私はそうは思いません。
もっと違うやり方が良いと思います。
いじめに克ついちばんの方法は、自分が幸せになることです。
私は今回の問題を考えるうちに、「あきたこまちR」を早く食べたいと思うようになりました。
秋田県を身近に感じるようになりました。
そして、秋田の果物や海産物を食べたい、秋田のお酒を飲んでみたい、秋田に行ってみたいと思うようになりました。
秋田の人たちとの繋がりも深まりました。
不安情報を吹聴している者たちも、価値のないことはやめて私たちの輪に加わればいい。
「お米を食べたくありません!」と虚しい署名をするよりも、美味いお米を食べて、美味いお酒を飲んで、きれいな景色を見た方が楽しいに決まっている。
こうしてみんなで盛り上がれば、つまらないいじめはますます虚しくなるでしょう。
風評の闇には暖かい光で立ち向かう。
これが私たちのやり方だ。

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

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