会員募集 ご寄付 お問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています
「ものすごく草生える農園を見た」:24杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】
私は仕事柄、無農薬や自然志向の農園と知り合うことがあります。その多くはまじめで信頼できる農園ですが、中には収穫もままならない“なんちゃって農園”もありました。そういう農園は技術や経営よりも思想の発信を重視しているところが多いのですが、畑の見た目でも共通する特徴がありした。それは「草が生えまくっていること」です。
草が伸び放題
たしかに、草の管理は本当に大変で、たまに追いつかないこともあります。
私も農場の開拓で仲間と共に草を刈っているので、草刈りの大変さを実感しています。
ですが、こうした草生えまくり農園は、「そもそも草の管理をしようとしていないのではないか?」と思えるくらい草が伸び放題なのです。
草刈りが大切である理由としては、草に栄養を取られないようにするため、病気や害虫の発生源になって自分や周りの畑に被害を及ぼさないようにするため、など様々です。
そのため、草生えまくり農園は他の農家からたびたび突っ込まれることがあります。
農家は草の管理が大変なことをよく知っているので、とやかく言いたいわけではないのですが、近くに自分の畑があれば虫や病気が気になって、どうしてもハラハラしてしまうのです。
しかも本人が「農薬なんていらないんだ。うちは儲けが出なくたって(作物が収穫できなくても)気にしない!」のようなことを言っている場合ならなおさらです。
「除草剤を使わないから大変」
私が知り合った農園も草の背丈が野菜よりも高く伸びて、周りの農家から「草をどうにかしてくれ」と言われていましたし、SNSで写真を見た農家からは「草、大丈夫?」とコメントをもらっていました。
もちろん、注意されて良い気持ちはしないわけで、農園のオーナーは「うちは除草剤を使わないから大変なんです」と反発していました。
補足しておきますと、草の管理は除草剤以外にも方法がある上、作物の近くでは除草剤を使わないことが多いので、除草剤使用の有無にかかわらずみんな大変です。
草刈りの手伝いを申し出るも歓迎されず
そういうことなら、と私は草刈りの手伝いや機械の貸し出しなど協力を申し出ましたが、どういうわけかそれはそれであまり歓迎されませんでした。
もちろん、相手の意向を無視して申し出たわけではありません。
私は以前から出資や宣伝など協力を頼まれていましたし、農園のSNSでは「機械さえあれば草刈りもどんどんできるのに」「もっと支援があれば、仲間がいればうまくいくのに」と言っていたからです。
もちろん、家庭菜園をエンジョイするだけなら私も周りもただ見ていたかもしれません。
ですが、「○○農法で農業を変える!」「農薬を使う農業は殺す農業!」と大きな理想を掲げていたので、(自分たち慣行農業が批判されていることが多少は引っかかりつつも)「まあ、こうして農業に参加しようとしているんだからいいか」と好意的にとらえて協力しようとしていたのです。
機械を入手するも使わず、ジャングルのまま
そんなある日、農園は近所の農家から中古の機械を譲り受けました。
ついに草刈りを阻むものはなくなったのです。
しかし、どうも使っている様子は見られず、畑はその後も草が生えまくりのままでした。
もちろん、なかなか収穫まではたどり着かず、私の店にも仕入れができないことが何度か続き、そのうち「草と共存したい」と言い出したあたりから農園には行かなくなりました。
たしかに、草刈りは地味で厳しい仕事です。
危険を伴うこともありますし、終わりがありません。
しかし、草が生えまくりの農園から他者批判を発信するよりも、今ある道具を手に草を刈りまくった方がずっと有意義です。
近所の人たちにも喜んでもらえます(ただし無理はせず、安全には充分気をつけましょう)。
農村での生活は押し寄せる草の軍勢との闘いでもあります。
暮らしを守っているのは、目立つ発信をしている人ではなく、ひるむことなく草に立ち向かう目立たない人たちなのです。
【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧
筆者渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ) |