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Vol.10 反グリホサート運動の歴史的潮流 敗北から“敵対的規制”への戦略変更【日本・世界の「反グリホサート運動」の真相】

食と農のウワサ

AGRI FACT執筆者でもある農業ジャーナリストの浅川芳裕氏が「日本・世界の反グリホサート運動の真相」と題し、オンライン講演を行った(2021年6月20日「食のリスクコミュニケーション・フォーラム2021」第2回)。その中で、浅川氏はグリホサート問題の中心地IARC(国際がん研究機関)の内部と背後で蠢く人たちの腐敗ビジネスに鋭く言及し、食の不安を煽って農業や社会を歪める構造の正体を浮き彫りにした。今回は、Vol.10『反グリホサート運動の歴史的潮流 敗北から“敵対的規制”への戦略変更』をお届けする。(Vol.9はこちら

反グリホサート運動の歴史的潮流 敗北から“敵対的規制”への戦略変更

腐敗ビジネス構造の背後にある歴史的な潮流とは何かについてお話しします。あくまで私の歴史的な見解ですが、まず反GM・反モンサント運動は遺伝子組み換え作物(GMO)ができてからずっとありました。それ以前の化学合成農薬に対する反対運動を含めるともっと長い一連の運動の歴史があります。特にここ最近、2013年、14年に、反GM・反モンサント運動は大きな敗北を相次いで経験しました。

一つ目がGM食品表示義務化キャンペーンの敗北です。米国の食品・食料品メーカー協会(GMA)がGM表示の義務化を阻止する戦いで勝利しました。二つ目がFarmer Assurance Provision(活動家の通称「モンサント保護法」)の成立です。これにより米連邦裁判所へのGM作物の作付け・販売の差止め請求が禁止され、活動家はゲリラ戦の武器失ったのです。
ちなみに、日本の活動家、種苗法改正反対運動の際には、この通称を模倣し「モンサント法」と呼びました。そして三つ目が、反GM活動家にとっての”科学的”根拠&ヒット宣伝商品であった「セラリーニのラット腫瘍論文」の撤回です。

参照

従来の戦略は、いわゆる活動家的な科学を頼りにしたGM反対・禁止運動でした。しかし、それをやっていても敗北してしまうのです。なぜなら規制科学に基づくリスク評価という確固たる自分たちの枠組みがあり、その土俵に立つと似非科学では勝てないからです。

彼らは失敗を糧に戦略を変更して、彼らにとって敵である政府やモンサント(現バイエル)の枠組みを超える規制を自ら作り出すほうが早いと考えた。その戦術としては敵の枠組みを超えた国際機関、つまりIARCの評価です。証拠を自らの意に沿う国際機関から生み出して法廷闘争で勝利すれば、“敵対的な規制”として世の中に広めることができる、という発想です。

ただし課題もありました。反GMとしてもGM作物を食べ、そのせいで病気になった人はいません。いくら広告を出しても被害者となる原告の募集が不可能という課題に直面します。

そこで目をつけたのが除草剤ラウンドアップの有効成分グリホサートです。厳密性のある科学に基づいてリスク評価されても化学物質ですから、いろんな言い方で「危険だ!」と主張できます。グリホサートに焦点をあてることによって、グリホサートが使えなくなればGM作物が作れなくなるというロジックを展開し、敗北続きだった運動に勝利しようとした。そのために戦術商品をGM作物からグリホサートに変更したわけです。

この「敵対的な規制」概念の創始者は、元IARCモノグラフ作業部会メンバー/ピッツバーグ大学名誉教授のバーナード・ゴールドステイン博士です。彼の講演録等を読むと、敵対的な規制というアプローチは現在の世界規制機関で使用されているリスク評価プロセスより効果的であり、不法行為法で企業を訴えることで一般市民や産業の行動を変えうる有効な手段であると主張しています。

米国とEUを比較した講演では、米国の訴訟的アプローチ(「敵対的規制」)のほうがEUの予防原則よりも効果的だと述べています。レーガン政権時代のEPA(米国環境保護庁)での専門家勤務経験から、政府内部の規制手続き・ロジックにも精通しており、敵対的規制戦略の理論的な構築をしてきた人物だと私は考えています。

Vol.11へ続く

*23.11.18 誤字を訂正しました。

 

【日本・世界の「反グリホサート運動」の真相】記事一覧

筆者

浅川芳裕(農業ジャーナリスト、農業技術通信社顧問)

編集担当

清水泰(有限会社ハッピー・ビジネス代表取締役 ライター)

 

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