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慣行栽培批判はやめて! わら1本の革命が現代では起きない理由4つ【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】
皆さんは『自然農法 わら1本の革命』という本をご存じですか?
この本は自然栽培(無農薬無肥料の栽培)の第一人者である福岡正信さんの本です。
自然栽培を語る上ではなくてはならない本であり、全ての農家にとっても参考になる所がある本なのですが……
僕のように慣行栽培をしている農家は、この本を例に挙げて、
「農薬や肥料を使うな! 自然栽培にしろ!」
「わら1本の革命を起こしている農家がいるなら見習え!」
という批判も受けています。
しかしこのような批判は現代では無理があるので、僕はわら一本の革命は簡単に真似すべきではないと考えています。
ということで今回は、
「慣行栽培批判はやめて! わら1本の革命は現代では起きない理由4つ」
について農家の僕が解説します。
①現代とは時代背景が違う
1つ目は、現代とは時代背景が違うという点です。
わら一本の革命は、1960(昭和40)年代に自然栽培を始めた著者の意見を元にしています。
確かに高度経済成長期のこの年代は、4大公害や農薬中毒などの悲しい事故があったのは事実です。
しかし悲しい事故を教訓にして、
● 厳しい農薬基準
● 科学技術の進歩
● 農薬や化学肥料をなるべく減らす農家の努力
が生まれ、農産物の安全性が格段に向上したのも事実です。
つまりわざわざ難易度の高い自然栽培にチャレンジしなくても、安全な農産物は作れるのです。
それに、福岡さんもミカン栽培では農薬を使ってると書いてありますからね。
②日本の人口を賄うために、慣行栽培で大量生産をする必要がある
2つ目の理由は、日本の人口を賄うためには慣行栽培で大量生産をする必要があるということです。
日本の総農家数は約170万人で、(専業だけでなく兼業農家数も含む)ご存じの通り農家の高齢化も進んでいてさらに少なくなることが予想されます。
この約170万人で、日本の人口1億以上を賄わないといけない状況なのです。
全ての農家が自然栽培農家になったらどうなるのか。
農薬や肥料を使わない自然栽培では収量は格段に落ち、農産物の価格は跳ね上がるでしょう。
野菜が高くて買えない人が増えるという可能性も大いにあり得ます。
そんな未来は、どう考えても好ましい未来ではありませんよね。
③わら一本の革命は、自然栽培のバイブル本ではない
3つ目は、この本は自然栽培のバイブル本ではないということです。
実際にこの本を読んで見ると分かりますが、わら一本の革命は自然栽培の技術を解説した本ではなく、著者の人生観が多く書かれた本です。
自然栽培の技術本というより、哲学や東洋思想を色濃く描いた農家の自己啓発本という印象です。
なのでわら一本の革命を見習っても、自然栽培の技術の全てが学べるわけではないので、慣行栽培に対する批判はお門違いです。
④農家は儲けなくてはいけない!
最後は、農家は儲けなくてはいけないということです。
著者の福岡さんは自然栽培だとしても安く売るのが信念としてあるようですが、これは間違っていると僕は思います。
無農薬無肥料という難しい栽培をしているのだから、安く売っていては儲かりませんし生活も成り立ちません。
むしろ付加価値を付けて高く売るべきです。
余談ですが、僕はわら一本の革命をベースにした『奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録』に激しく感動し、自分でも「奇跡の枝豆」を作ってみようとしました。
しかし、見事に病害虫にやられて全滅しました。
奇跡の枝豆が全滅した時に苦しかったこと、それは利益が赤字になったことです。
技術不足で枝豆が全滅したショックより、赤字になって資金繰りが悪化したことの方が苦しかったのです。
この苦い経験から、農家こそ儲けなければいけないと僕は考えています。
農業を魅力があって憧れの職業にするためには、分かりやすく農業所得を上げることが大事です!
まとめ
今回は「慣行栽培批判はやめて! わら一本の革命は現代では起きない理由4つ」を紹介しました。
最後に断っておきたいことは、自然栽培の農家を攻撃する意図はないということです。
消費者の自然栽培の野菜に対するニーズはなくなりませんし、どんな栽培方法でも農業で努力して生計を立てている人を等しく尊敬しています。
ただこの本を批判の材料にして、慣行栽培を叩くことはやめてください!
説明した通り、批判している多くの方はこの本を曲解や誤解をしています。
そしてここまで批判的に書いてきましたが、この本からは学ぶべきこともたくさんあります。
● 常に観察すること
● 栽培の常識を疑うこと
● 本質を見極めて、無駄な作業を削ること
これらは現代の慣行栽培にも十分活きるアドバイスだと思いました。
全ての課題を解決できるような、完璧な栽培方法は今の所ありません。
それを踏まえた上で、消費者には多角的に情報を集めて農業について考えてほしいなと思うのです。
筆者 |