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有機農業、2030年の中間目標達成を目指す動きはどこへ向かっていくのか?【オーガニック問題研究会マンスリーレポート16】

コラム・マンガ

農水省から2025年10月に発表された『有機農業をめぐる事情』最新版によると、日本の有機農業面積は着実に拡大を続けており、2024年3月には前年度末から4,400ha増加し、トータルで34,500ha(全耕地面積のうち0.8%)に達しています。(※1)
2050年までに有機農業の面積25%達成を目指す「みどりの食料システム戦略」では、中間目標として2030年に6.3万haの数値を掲げてきました。仮に今後も年間4,000ha程度の面積増が持続すれば、6.3万haの達成はすでに射程圏内とも考えられます。
しかし以前のレポートでもご紹介した通り、一見順調に思える有機面積拡大の裏側には牧草地面積の突出した急増など、なぜかあまり語られない特殊な要因が絡み合っていることもわかっています。(※2)
日本の有機農業は、このまま順調に拡大していくのでしょうか? 最近の発表資料や報道などから読み解いていきましょう。

この1年間で有機の何が増加したのか?

日本の有機農業面積はもともと、①有機JAS認証を取得しているものと、②有機JAS認証のないもの(生産者の自己申告)の両方が合算されています。

直近1年間で増加した4,400haの内訳は、①有機JAS認証ありの面積は3,200ha増、②認証のない面積は1,200ha増となりますが、実は②に関してはここ10年ほぼ横ばいで、多少の上下はあるもののトータルではほとんど増えていません。

認証機関を通じて正確に集計される①と異なり、②は都道府県からの聞き取りをもとに集計しているため、どうしても曖昧さが残ります。単年あたりの増減よりは、長期間で均して目安程度に見ておく方が賢明といえるでしょう。

つまり日本の有機農業面積の増加は、ほとんどが①(有機JAS認証あり)によるものですが、特に近年はその大部分を北海道の牧草地の急増が占めており、わたしたちが直接口にする農産物ではないという点は、既に指摘した通りです。

この1年で増加した3,200haの内訳も、引き続き牧草地が約7割(2,236ha)にも及び、そのほぼ全面積が北海道となっています。

牧草地の次に拡大したのは野菜面積で、446ha増となりました。しかし産地には相当の偏りがあり、このうち270haが北海道、次いで50haが茨城県の増加分です。

仮に残りの126haを、北海道・茨城県を除く45都府県で割ると平均2.8ha/年の増加に留まります。

オーガニックビレッジやオーガニック給食に取り組む自治体が増加していることから「全国的に有機農業が拡大している」かのようなイメージが先行しがちですが、実態とはだいぶ乖離があるのを感じていただけるかと思います。

なお茶に関しては283haの増加(うち175haが鹿児島県、60haが宮崎県)となっています。粉末状茶の好調な輸出増を背景に、むしろ野菜よりも高い伸び率を記録している点は注目です。

果たして今後、牧草地に続いて有機面積を急増させる「二の矢」は登場するのでしょうか。環境直接支払い制度の充実など、現在検討されている堅実な施策を重ねていくだけでは、目標到達には間に合わない可能性があります。このまま牧草頼みで突き進むのか、全く違う秘策が用意されているのか。

個人的に気になるのは2025年に実施された農林業センサスの調査票で、有機農業に関する設問に「自給用の作付けも有機農業に含める」と書かれていたことです。よもや家庭菜園まで有機「農業」面積に計上しようなどと考えていなければ良いのですが、杞憂であることを祈ります。

「有機農業の推進に関する基本的な方針」改定をめぐる議論の危うさ

有機農業をこれまで好意的に報じてきたメディアからも、有機推進の現状や面積目標に対して、やや懐疑的な報道が散見されるようになりました。

このようななか、農水省は「有機農業の推進に関する基本的な方針」の5年ぶりの改定を予定しており、有識者らを集めた審議会を開催しています。(※3)

審議会の内容については後日あらためて取り上げたいと思いますが、一つだけ指摘しておきたいのは議事録を見る限り、これまでのKPIありきの推進のなかで数多くのモラルハザードが黙認されてきたことについては、まるで反省や問題提起の声が見られない、それどころか批判の声を矮小化するような発言さえなされている点です。

国がこの期に及んでもなお公的な議論の場で有機農業にまつわる誤情報や疑似科学などの問題を不可視化してしまう以上、とりわけ不安に感じるのは、自治体首長や議員など政治家の強権に半ば依存するかたちで有機拡大が進められる地域が一層、増加していくのではないかということです。

オーガニック給食やオーガニックビレッジ宣言については既にトップダウンによる見切り発車で現場が混乱する事例が多発していますが、今後は自治体同士が連携し、産地から消費地へと有機農産物を届ける「オーガニックブリッジ」と呼ばれる施策も活発化していくと見込まれています。

オーガニックの政治化が招く災い

政治主導・トップダウンで何が悪いのか、という声に対しては「有機農業のためならそれらの政治家が往々にして有する反知性主義的なイデオロギーさえも社会は許容するのか」と問わなくてはなりません。

前回のレポートで触れた通り、案の定というべきか、オーガニック給食運動を牽引してきた中心人物たちが衆院選を機に「減税日本ゆうこく連合」のようなきわめて異常性を帯びた陰謀論的主張をおこなう集団に接近しています。オーガニック給食運動の新たな受け皿として「ゆうこく」を、或いはそこから出馬するような政治家を、有望と判断したのだと思います。

この一点を考慮するだけでも、筆者の懸念を単なる杞憂と片付けることは到底できないでしょう。そしてこれらの人物の多くは、この夏に栃木県小山市で開催される予定の「全国オーガニック給食フォーラム」に集うことになります。(※4)

2027年に予定されている次回の統一地方選挙では、「ゆうこく」や参政党からもさらに多くの地方議員が生まれる可能性があります。本来なら有機推進の根源に関わる気候変動の問題すら、トランプ政権の妄言に便乗して否定しにかかるような人々です。ことは、有機農業だけの問題ではないのです。

橋本摂子 著『アウシュヴィッツ以後、正義とは誤謬である』(※5)序文にはこう書かれています。

「私には20世紀半ばに起きたこの出来事が、過去に起こった遠い災禍ではありえない」

「その端緒は現在われわれがあたりまえに営んでいる日常生活のあらゆる場面に胚胎する」

現在のトランプ政権が世界にもたらす巨大な厄災を見てなお「有機のために使えるものはなんでも使えばいい」という態度を採り続けるのであれば、将来に大きな禍根を残すことになるでしょう。

出典

(※1)有機農業をめぐる事情(令和7年10⽉ 農産局農業環境対策課)
(※2)「日本の有機農業面積は急増トレンドに入っている?」【オーガニック問題研究会マンスリーレポート②】
(※3)令和7年度 食料・農業・農村政策審議会果樹・有機部会
(※4)第3回 全国オーガニック給食フォーラム in 小山
(※5)橋本摂子 著『アウシュヴィッツ以後、正義とは誤謬である』(東京大学出版会)

 

【オーガニック問題研究会マンスリーレポート】記事一覧

筆者

熊宮渉(ダイアログファーム代表)

 

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