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第11回 発がん性評価で正反対の結論を出したEPAとIARC【IARCに食の安全を委ねてはいけない】

特集

IARC(国際がん研究機関)とEPA(米国環境保護庁)はグリホサートの発がんリスクについて正反対の結論を出している。IARCはグリホサートを 「ヒトに対しておそらく発がん性がある=グループ2A」に分類したのに対して、EPAは「ヒトに対して発がん性がある可能性は低い」と判断した。二つの組織が正反対の結論に至ったのは一体なぜなのか。

検証データの違い

化学物質に発がん性があるかどうかを判断するには、以下の4種類の研究で調べるプロセスが必要です。

  • 疫学(ヒト)研究
  • 実験動物を用いた研究
  • 遺伝毒性試験:遺伝物質へのダメージ(子や孫、ひ孫世代への影響)を調べる
  • 曝露試験:人々がどのように化学物質に曝露されるかを調べる

EPAとIARCが評価対象として選んだ研究には、両者の異なる結論の原因となる根本的な違いがあった。EPAは「文献」およびその他の一般に入手可能な情報源を検索し、その内部データベースおよび農薬登録のために産業界から EPAに提出された試験からデータを収集した。

一方、IARCはIARC独自の基準に基づいて、データ収集を公開文献で、かつ入手可能な査読付き研究に限定した。公開されていない産業界提出の研究は含めなかった。どのような研究を選択したかが結果を左右し、検証するデータを制限することは、科学的なプロセスにとって決して良いことではない。

IARCは、産業界の研究は汚染されているに違いなく「産業界は悪い」という考えに固執し、査読付きの出版物による研究だけが信頼できるとした。しかし、現実には、産業界が行った研究も、学者が行った研究と同じように価値があり、データの正確性・信頼性でいえば農薬登録のために産業界から EPAに提出された試験データのほうが上回る。科学における最も重大な不正の事例のいくつかは、査読付き雑誌に発表した科学者によって行われた。

参照

証拠の重み付けアプローチと研究ごとのアプローチ

EPA は「証拠の重み付け(weight-of-evidence)アプローチ」を用いて、研究の総合的な評価を行っている。研究はその質に基づいて評価され、質の高い研究は、質の低い研究に比べて分析においてより重要視される。研究の質は、適切な方法論と統計手法が採用されているか、研究の実施方法について十分なデータと詳細が提供されているか、暴露測定値が明確で明確に定義されているかなど、多くの要因に基づいて評価される。

証拠の重み付けアプローチでは、化学物質の曝露量を適切に測定した多数の人を含む一つの研究でがんの増加が見られなかった場合、曝露量を適切に測定していないいくつかの小規模な研究でがんの増加が見られた場合を比べると、総合評価では大規模な研究の方が小規模な二つの研究よりも重視されることになる。

一方、IARCは「研究ごとのアプローチ」で分析を行っている。各研究は個別に検討され、研究間の重み付けは行われなかった。これは、EUが採用している「予防原則」と同じ考え方である。予防原則とは、「起こりうる危険についての不確実性は、化学物質や技術の使用を禁止または制限する強力な理由となる」というものである。

さらに、IARCは研究の強度や質を評価するための確立された手順にも従っていない。 IARCは研究の質を評価していると述べているが、その手順は公表されていない。

EPAはリスクを測定しIARCはハザードを測定する

遺伝毒性試験は、生物のDNAに対する損傷を調べるものである。遺伝毒性試験の中には、細胞を用いて行われるものがあり、化学物質が細胞内に突然変異を引き起こすかどうかを判定する、迅速で安価な試験である。その他の遺伝毒性試験は、実験動物を用いて、その動物の遺伝物質に対する損傷を調べる。しかし、化学物質がDNAに損傷を与えるからと言って、それががんを引き起こすとは限らないし、逆に、がんを引き起こす化学物質の中には、DNAに損傷を与えないものもある。そのため、EPAもIARCも、発がん性物質の評価において、遺伝毒性試験を二次的な証拠として利用しており、分析における決定的な要因ではない。

EPAはリスクを測定し、IARCはハザードを測定する。EPAは、化学物質への曝露に関する研究を用い、一般集団においてがんが発生する可能性を判断する(リスク)。IARCは、その化学物質が、たとえ非常に低い可能性であっても、いかなる状況下でもがんを引き起こす可能性があるかどうかを検討する(ハザード)。

毒物学者なら誰でも知っているように、「毒は量によって決まる(多量なら危険、微量なら安全)=用量作用関係の原則」。したがって、作業員が非常に高いレベルの化学物質にさらされた場合の研究結果は、非常に低いレベルの化学物質にさらされた一般の人々にはあまり関係がないと言える。

結論ありきを疑わせるIARCの全体分析

疫学的研究について、EPAは58 件、IARCは26 件の研究を検討した。IARCは、1件の研究が非ホジキンリンパ腫(NHL)との正の相関を示したため、ヒトにおける証拠は限られていると結論づけた。EPAは、非ホジキンリンパ腫との関連性を示した1件の研究と同質の他の研究が矛盾するため、これを「ヒトにおける証拠は不十分」と判断した。

次に動物実験について、EPA は14 件、IARCは10件の研究を検討した。EPAは、いくつかの研究で肯定的な傾向が見られたが、腫瘍の所見は同質の研究で再現されなかったため、動物における証拠は不十分であると結論づけた。IARCは、いくつかの研究でポジティブな傾向が報告されていることから、動物における十分なエビデンスがあると結論づけた。「ポジティブな傾向」とは、統計的な有意性を意味するものではなく、単にいくつかのデータポイントが腫瘍の増加を示したことを意味する。

遺伝毒性について、EPA は104件の研究、IARC1118件の研究を検討した。EPAは、証拠の重み付けが全体的に否定的であったため、遺伝毒性に関する全体的な証拠はないと結論づけた。肯定的な結果は高用量でのみ見られ、ヒトへの暴露には関係ないとしたのだ。IARCは、ラットとマウスを用いたいくつかの研究で見られた肯定的な結果に基づいて、遺伝毒性の強い証拠があると結論づけた。

要するにIARCは、査読付き雑誌に掲載されていない産業界の研究を拒絶し、限られた数の研究を調査した。一つの肯定的な研究が、同等かそれ以上の質の多くの否定的な研究を凌駕するという研究ごとのアプローチを用いた。リスクではなくハザードに焦点を当てることによって、暴露データの経験知見を無視したのである。その結果、IARCの評価プロセスには欠陥があり、あらかじめ結果が決まっていたかのような印象を抱かせる。

欠陥のある検討プロセスを使用したことが、EPAをはじめ世界の規制機関と正反対の発がん性評価を導き出した。特に、SNSやテレビの専門家の世界では、こうした不適切な科学が何度も繰り返され、陰謀論的な「世に隠された真実」として受け入れられてしまう。同時に、メディアは手っ取り早く人目を引く見出しを探すため、科学的根拠にもとづく反論は無視されるか忘れ去られてしまうのだ。

*この記事は、スーザン・ゴールドハーバー M.P.H.(環境毒物学者は40年以上にわたり連邦・州政府機関や民間企業で、飲料水、大気、有害廃棄物中の化学物質に関する問題に取り組む。)著 2021年4月28日公開https://www.acsh.org/news/2021/04/28/bad-science-never-goes-away-15512 をAGRI FACT編集部が翻訳編集した。

〜第12回に続く〜

 

【長期特集 IARCに食の安全を委ねてはいけない】記事一覧

筆者

AGRIFACT編集部

 

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