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Vol.14 食品添加物、精製塩、昆虫食は悪!? 「アンチ●●」まとめその2【不思議食品・観察記】
科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、既に否定されているにも関わらず、「有害」とみなす「アンチ●●」の世界その2。消費者として食の安全を求めるのは当然ではあるものの、こうした言説によって不安な気持ちを利用されているケースも多そうです。
前回の「牛乳」「グルテン」「白砂糖」に引き続き、事実を超えて「●●は有害だ!」と広められている食品を紹介します。
アンチ添加物
食品添加物の危険を世に知らしめたのは1955年の森永ヒ素ミルク事件だと思われますが、怪しげな根拠で積極的に煽っていくムーブは、1999年に発売された書籍『買ってはいけない』あたりからでしょう。添加物が危険!と煽って誰が得をするのか? アンチ添加物の「中の人」は、おそらく自然派食品などを販売する事業者です。それが功を奏して、社会の中に「食品添加物は体に悪い」という考えが根付いています。そうした消費者の不安にこたえ、自然派でない企業までもが「無添加食品」を発売するので「添加物は体に悪い」がさらに補強されているように思えてなりません。
「山崎製パンがカビないのは、臭素酸カリウムという強い添加物を使っているため」
「世の食品は食品添加物まみれなので、最近の遺体は腐りにくい」
このあたりの都市伝説級デマは、懐かしさも手伝って笑える余地があるものの、洒落にならないのは政治活動の場で食品添加物が堂々と根拠なくディスられていることです。
「オーガニック信仰」が特徴的な参政党の講演会や街頭演説では、「食品添加物は発がん性物質」とまで強く主張されています。いや〜、食品添加物は十分なリスク評価のうえで、使用が認められているのですが……なんてツッコミをいれたところで、この政党では反ワクチン、反農薬・アンチ食品添加物、陰謀論までがワンセット。公式な見解はマルッと無視されるのが常ですから無意味でしょう。こうした動きを見ていると添加物への不安から、ディープな沼へハマってしまう人もいるのではと心配になってきます。
もちろん政党だけではありません。自然食品を販売する会社や思想強めの教育機関の一部でも、こんな言説が未だ出回り、こちらのほうが圧倒的に伝播力が高そうです。
「現代人の病気は農薬や食品添加物が原因」
「お母さんが食品添加物を多くとっていると、生まれる子供が発達障害の傾向が高くなる」
「国が定める安全基準があっても、成長期の子供の脳や臓器は、食品に含まれる添加物や残留農薬の影響を特に受けやすい」
親心につけ込む形で、「安心の無添加」を刷り込むのも定石です。健康を求めた結果の、食中毒だなんて事件が起こりませんように……。
アンチ添加物は基本、自然派が中心となって広まりますが、彼らの大切にする環境問題と無添加は両立できるのかが、個人的な見どころです。保存料を使わずに、フードロスを削減することは、はたして実現可能なのでしょうか?
アンチ精製塩
天然塩と精製塩。
精製塩は塩化ナトリウム99.5%以上の高純度。辛みが強くサラサラしているのが特徴で、水に溶けやすく幅広い調理に向いています。対して天然塩は、ミネラル分を多く含むので辛みがまろやか。……というだけなのですが、自然派ビジネス界隈では「精製塩は体に悪い」が定説です。
- 化学的に精製された塩は人間にとって必須とされるミネラル(カリウム、マグネシウム、カルシウムなど)がとりのぞかれている。精製塩はほぼ「塩化ナトリウム」である。
- 減塩すべきは精製塩だけ。天然塩は健康にいいので、むしろたくさんとるべき。
こんな言説のせいでしょうか。2018年には手作り目薬の材料に「塩は塩化ナトリウムの入っていないものを選ぶ」と書かれたブログ記事が発見され、Twitterで盛大に燃え盛る出来事がありました。「手作り目薬」なるものがヤバいという以前に、「塩化ナトリウムの入っていない塩って???」というざわめきが拡散されまくったのでした。きっとブログ主はアンチ精製塩たちが繰り返し発信する「精製塩は塩化ナトリウムだけ!(=ミネラルが入ってない)」という言葉から、塩化ナトリウムが毒。体にいい天然塩には塩化ナトリウムが入っていないと誤解したのでしょう。これは極端な例ですが、いかに精製塩がネガティブな文脈で語られているかの現れです。
古くから健康法界隈では「塩信仰」がありますが、そこでも「精製塩」を貶めて、「天然塩」を特別視するのが定番の手法。ケムトレイルも農薬も、天然塩でデトックス。コロナ禍でも自然派に感化された情報商材屋らしきアカウントが(通称「塩の人」)、「塩でアトピー改善」と謳って中国産の塩を5kg9480円で販売したりとやりたい放題。一般に推奨される「健康のために減塩」の逆張りで、「塩を1日15g」と謳い、それに習って塩をガバガバ取り出す人たちも現れる始末です(中には減塩が必要な透析患者もいたとか)。ちなみに日本人の食事摂取基準2020年版では、1日の食塩平均摂取目標量は、男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満。いかにヤバい健康法かお察しいただけるでしょう。
天然塩にはミネラルが含まれているとはいえ、その量は微々たるものです。わずかな量でもコツコツ摂取しようという気持ちはわからなくもないですが、そもそもが塩に期待する栄養素ではないのでは(他の食品を食べればいいだけの話)。
天然塩と精製塩。そのわずかな違いに壮大な思想と物語を滑り込ませる、不安商法の手口には、毎度のことながら呆れと驚きがとまりません。
アンチコオロギ・アンチ昆虫食
当連載で「昆虫食陰謀論」を紹介したのは、2023年1月のこと。そこから「コオロギ騒動」と呼べるまでに批判が高まり、興味深い言説が今なお展開されています。
「国がコオロギ食を推進し、一方で牛乳を捨てさせている」
「コオロギ食の生産者に多額の補助金が使われている」
「昆虫食には大きな利権がある(筆者の友人もわりと真面目にコレ信じていた)」
その中には純粋に食の安全に不安を覚えた消費者の声や、国の政策に疑問を持つ声が混ざっているので批判の声全てが「アンチ」というわけではありません。ごく一部ではあるものの昆虫食の専門家たちからも「自分たちにはない視点もある」という評価も出ているようです。
しかし、食用昆虫に関する報道や情報を積極的に悪変して広めるのは、間違いなく「アンチ昆虫食(もしくはコオロギ)」と呼べます。
「イタリアで昆虫食品に対する規制の動き」というニュースを例に見てみましょう。アンチコオロギ勢はこう広めます。
「昆虫食にNOと意思表明する国が増えてきています」
「世界では昆虫食を禁止にする国が出始めた!」
これはもともとイタリアでは乾燥パスタに対し「デュラム・セモリナを100%使用すること」が義務づけられていて、そこへ新たに「虫を混ぜないこと」という法令を付け加えただけの話であり、昆虫食を禁止したわけではありません。もはやフェイクニュースと言えるでしょう。
誤解したか、知ってて煽ったか。動画や投稿をバズらせるためや、支持者を集めるためにあえてこうした表現を持ったのであれば、立派なアンチコオロギです。さらに「なのに誰かが利権のために、国民に虫を押し付けている」となれば、陰謀論でしょう。
かつての昆虫食は「気持ち悪い」という生理的嫌悪感だけが批判の中心でしたが、今やすっかりきな臭い空気が漂っているのです。
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