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キラキラ輝く「地域の魅力発信」と、その光をつくる人たち:72杯目【渕上桂樹のバーカウンター】
私は仕事柄、「長崎の魅力を伝えたい」「長崎を盛り上げたい」という人と会うことがあります。そして、私自身も「長崎の魅力を伝えているんですね」「地域貢献ですね」というようなことを言われる機会があります。まあ、たしかにそういうことをしてはいますが、自分の仕事を「長崎を盛り上げたい」的なニュアンスで言われると、正直ちょっと変な感じがします。というのも、私はそんなつもりで始めたわけではなかったからです。もちろん、そう思ってやっている人もいるし、SNSでインフルエンサーのようにやってみたり、イベントでみんなの前で話す様子はとてもキラキラ輝いて見えます。今回はそんなPR事情に触れたいと思います。
売り手としてのフーテンの寅さん
私の普段の仕事はいたって地味です。自分の仕事を創ろうと思い、自分で作った野菜を路上で売って、その後お店を作りました。まあ、要するにお金を稼がないといけなかったのです。
映画『男はつらいよ』で、主人公の寅さんが一本の鉛筆にストーリーをつけ、なんとか客に買ってもらおうと口上を述べるシーンがあります。「今夜この品物を売らないと腹空かせて野宿するしかならねえなってことがあってさ」と言う寅さんを見て、「野菜売りのときとなんか似ている」と笑ってしまいました。
売るのは簡単ではない
売るために商品の魅力を考え、伝え方を工夫する。でも、結局は売れなければお金になりません。今でも私の仕事の本質はそんなに変わっていません。仕入れ、仕込み、支払い、お客さんをおもてなしして、お客さんが来なければ新しい仕掛けを考えて、そうやっているうちに1カ月が過ぎ、気づけば年月が経っていました。地味だし大変だけど、そこにはたくさん喜びもあって、私には性に合っています。
イベントなどに参加したときに「長崎って素晴らしい!」「長崎の魅力を伝えたい!」という話を聞くと、自分が好きな食材やお店などを思い出して「そうだな」と思います。聞いている人も「そうだな」と思うことが多いでしょうから、たいてい良い反応が返ってきて、拍手が湧きます。
でも、自分でモノやサービスを作って商売するとなるとそうはいきません。美味しい、美味しくない。高い、安い。売れる、売れない。良い反応ばかりではありません。良くない反応や、何の反応もなく売れないことだってあります。自分がやってきたのは大体こちら。作ったものを台の上に並べて、「さて、これは売れるかな? 売れなかったらどうしよう?」という仕事です。というか、仕事でモノやサービスを作っている人はたいてい同じです。
だから私はどうしてもそういう人の話が気になります。「新しく作ったメニューは人気だけどコストがかかって大変」と笑う同業者、「先週はうちの店もヒマでした」と近況を話してくれる近所のお店のご主人、「新しくクレーンの資格を取ることになって、勉強が大変で」と話す造船技術者、栽培の話をする農家、新しい職場の話をする会社員など、それぞれの現場で仕事をしている人の話です。特別に「縁の下の力持ちを探そう」と思っているわけではありませんが、職業柄そういう話は情報として大事なのです。目の前で話す人が何をしていて、何を大切にしていて、何に困っているのか。私はどうしても、そちらの方が気になってしまいます。
長崎のPRの場合も背景情報を大切に
「長崎の魅力」としてステージ上で発信される場面はキラキラ輝いています。でも、その光をたどっていくと、畑や店、工場など、案外地味な仕事の現場に行き着くことがあります。
かくいう私も「魅力を伝える仕事」をすることもあります。テレビ番組の取材で農産物について話すなら表情やセリフにも気をつけます。でも同時に、その農産物が作られている現場のリアルも、できるだけ丁寧に伝えるようにしています。カメラの前やステージに、そこで働く人たちをみんな連れてくることはできません。だからせめて、画面の向こうや客席にいる人たちに、その向こうにいる生産者や現場の人のことをイメージしてもらえたらと思いながら話しています。
また、「魅力を伝える」といえば、私はときどきCMや広告モデルのお仕事をすることがあります。あるCM撮影の現場で、「この製品を作る人たちは、何年かけて技術を身につけ、開発してきたんだろう。自分にできるのは今日のたった一日だけだ」というようなことを話したようです。後日監督から「そういうことを考えて出演するモデルはあまりいないよ」と言われました。たぶん、何かを作る仕事をしているので、完成品を見ると作った人のことが気になる、そういう癖があるのだと思います。
そもそも自分は「長崎が他に比べて特別魅力が多い!」と思っているわけでもないです。すごくてもすごくなくても自分の大切な場所であることに変わりはないのです。だから、誰かが作った「すごさ」を探して発信することもいいけれど、私は小さくても自分で一つくらい魅力を作っていたいと思うのです。魅力を作ると言ってもそんなたいそうなものじゃなくて良いと思います。おにぎり一個でもいいし、野菜一つでも良いし、モノじゃなくてサービスでも良いと思います。
地域の魅力として発信される光は、案外そんなにキラキラしていないところで作られています。畑で、店で、工場で。今日も誰かが、普通に仕事をしながら長崎の魅力を作っているのです。
筆者渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ) |



