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Vol.35 波動で食品をジャッジ⁉ 会食で突然、謎の測定をされた【不思議食品・観察記】

コラム・マンガ

科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、食べ物の評価方法。価値観は人それぞれだとわかっていても、不思議すぎる判断基準を突如押し付けられてしまうと……? とある会食での山田さんの体験談をお送りします。

いろいろな価値観に触れるスピ系イベント

先日、友人と連れ立って、某スピリチュアル系イベントへ行ってきました。いろいろなカルチャーに触れるのは、楽しいものですね。

「こうしたイベントだと健康にも気を使っていらっしゃる方が多いから、グルテンフリーが喜ばれる……かな?」

若干言葉を濁すような説明を受けつつ買った米粉クッキーは、スパイシーでお酒のつまみにもよくあう、大変好みな味わいでした。ほかには、ドラゴンのパワーが注入されるオイルやら、子宮の浄化セッション、ハイヤーセルフとつながるヒーリングなど、自分の日常生活ではなかなか出会えない(ネットでは毎日のように出会ってるが)ファンタジックな世界感のトーク&サービスをたっぷり満喫しました。

小規模なイベントゆえか、出展者どうし顔見知りである様子も伺え、内輪の文化祭、もしくは地域のフリマ的な和やかな雰囲気でした。中には、謎の波動が出る機械(なかなか高価)で、病気が治った! という明らかにアウトなものもありましたが、標準治療を求めてその場へ来る人はいないでしょうから、“そういうもの”としてお守り的にとらえればいい話と、解釈しました。

しかし時には、謎理論が予想外に入り込んで来る場合もあります。今回のコラムでは、一刻も早いお帰りを願いたくなった迷惑な出来事をお話したいと思います。

その人の体質にあう食べ物がわかると主張する人

それは、とある異業種交流会的な会食でのことでした。知り合いでも飛び入りでも、会費さえ払えば誰でも来られるオープンな会です。

歓談していると、違和感のある何かが、目の端に入りました。何だろう……。こっそり視線を移すと、同年代くらいに見える、初対面の女性の動きであることがわかります(以下、S子さん)。

指でにょろにょろっとした空書を書いているような……? かと思えば、手かざしをしているようにも見えます。先日ネットフリックスで観たドキュメンタリーでも、似たような動きがあったな。「天使と交信できる」と主張することで有名なノルウェーの王女が行っていた、スピリチュアルワークのシーンでした。

S子さんは手を動かしながら、つぶやいていました。

「うん。これはOK」「あ~、これはダメ!」

何を意味するのか。それを知ったのは、私がとある料理を口に運んだ瞬間でした。

「うん! それ、あなたにはよく合う! おすすめ!」

へ?? よく合う、とは食べ物の話のよう。初対面で、好みの味がわかる能力でもあるのだろうか。まさか食べ物で、似合う似合わないなんて話ではないよね……。ちなみにそのカルパッチョは想像したまんまの味で、ごく普通に違和感なく、美味しく食べられました。ええ、美味しいですね? と返し、話を聞いてみると、彼女の中には、次のような世界が広がっていました。

「私はね、食べ物が体質にあうかどうかがわかる秘術を継承しているの。子供のころから病弱で、体にいい食べ物を模索しているうちに、整体の師匠から私だけが教えてもらったのよね。いずれ、世に広めるためにメディアとかにも出ていくつもり。……あああ! ダメダメ! そっちのあなたは、この料理やめたほうがいい! すごく良くない数字が見える!! 相性のよくないものを食べ続けると、ガンになる」

小学生くらいの年頃でたまにいる、突然「実は私って霊感持ってるんだよね」と言い出すタイプの人を髣髴とさせました(霊感の部分は邪気眼※でも何でもOK)。人様の家で「……この家、霊がいる!!」と震えだす、迷惑な人。しかし子どものかわいらしい承認欲求ならいざしらず、いい大人が皆で美味しく食べているものに、わけのわからない理屈でケチをつける、しかも不安を煽るって失礼すぎるんですが……。もちろん、その場の全員が唖然としていました。

※自らをアニメなど物語の登場人物(そして特殊能力を持つ)と考えるような空想全般

彼女曰く、料理のオーラや波動を手で測定し、数字でとらえることができるそうです。冒頭のスピフェスでも、“そういう概念”ということしかわからない説明は山ほどありました。144次元それぞれのハイヤーセルフにアクセスして、詰まりを取り除き、いずれは魂のマトリックスが! とか、人類が銀河系コアにどうこうとか。でもそれは、“そういう文化を楽しむ場”だからいいのです。しかしこの会食は、違います。

他者を否定し不安を煽る善意の暴走

食の価値観は、人それぞれです。背景にはアイデンティティや家庭環境、文化、いろいろなものがあるでしょう。より“自然”なものを追求する人。近代科学がベースの栄養学が絶対である人。東洋医学がベースのマクロビ理論を取り入れる人。新しい感じのする分子栄養学に傾倒する人。話題の“四毒”を実践する人。嗜好は関係なく、信仰を守ることが重要な人。

S子さんのような、世間一般にはわからない理屈で食べることを、愚かだとは思いません。しかし食の話に限らぬように、他者を否定するのはもちろんのこと、不安を煽るのは論外すぎ。根拠がなければ、なおさらだという単純な話です。お仲間とだけやってほしい。

健康系マルチでも同じことが発生しますが、この手の出来事で困るのは、“いいことを教えてあげている”、と信じて疑わない善意です(当連載でも何度も出てきますね)。うっかり反論しようものなら、悟った顔で「理解できないの、仕方ないよね」という憐みの眼差しを向けられるやつ。だから、無難に「そうなんですねー」と返すしかなくなるやつ。

こうしたタイプにありがちな、“若く見える自慢”も、また場を困惑させました。「この技で食べ物の相性をチェックして厳選したものを食べているから、髪も肌も全く歳をとらないの。たまに学生にも、間違えられちゃう」

ところが彼女は、とびぬけて若くも老けてもおらず、年相応という印象でした。謎の食事測定ワークには、自己肯定感を爆上げする機能もあるのかもしれません。正しい食生活をしているから白髪がない! と主張していた若杉ばあちゃん※を思い出すトークです。健康ビジネスお約束の、ナラティブ。

※食養料理・野草料理研究家。2013年発行『長生きしたけりゃ肉は食べるな 』(幻冬舎)のキャッチコピーは「76歳で白髪なし! 老眼なし! 病院に行ったこともない! 食事を変えるだけで身体に奇跡が訪れる」だった

謎のジャッジは延々と続きました。口に運ぶもの運ぶもの、謎の作法で「それ、いいわね!」「これは波動が高い!」「これ、あなたとの相性最悪」。

実は自分は、この手の人に遭遇するのは初めてではありません。15年ほど前にも、知り合いがどこからか連れてきた“発明家”Mさんもこんな感じだったなと若干の懐かしさを覚えました。食品系の会社を経営しているという初老の男性が、その場の女性を次々と似たような謎理論で“測定”していくのです。その時の単位は“徳”でしたね。あああ!、あなたはアグネス・チャンと同じ数値の徳だよ! とか。どうも、Mさんの好みの女性が、徳が高くなっているのが明白で、ゆえに、徳が高いと言われた人ほど苦笑い。Mさん、お元気かな……。

根拠なき善意の押し付け増えてませんか?

話をS子さんに戻しましょう。そうこうしているうちに皆の反応が薄いからか、ひとりでテンションが上がってしまったのか。バレエのボレロのように、トークがエスカレートしていきます。そしてついには、ひとりの参加者を激しく攻撃し始めました。

「あなた自身の、波動が低すぎる!!! ええええええ、一体どんな暮らしをしているの? まともに働いているの? ジャンクフードとか低能なものばかり食べている人の真っ黒なオーラなんだけど!。えー。えー。せっかくのオーガニック食材も、あなたが触れるとすごい栄養価落ちていくのが私には見える……」

「あんた死ぬわよ」「地獄に落ちる」と共演者を脅す、細木数子じゃあるまいし…(ネトフリドラマ楽しみ)。

言われた人も、ポカーン。ちなみに攻撃された方は、派手な見た目ではありましたが、ごく普通の常識的な方でした。一体何が気に入らなかったのか、未だにわかりません(何がと言われたらオーラが、なんでしょうけど)。人の集まる場にはトラブルがつきものですが、なかなかに理不尽な出来事でした。

これは大変に極端な例ですが、根拠のないものを押し付けられる迷惑さを、改めて実感した出来事でした。明らかにおかしいから、信じる人もいないだろう=荒唐無稽なトンデモは無害(相手にしなければいい)とする人もいますが、度が過ぎれば誹謗中傷とも言えるでしょう。私の中では、イメージだけの「日本人のDNAに合う食事」「無農薬・無農薬が体にいい」も同類です。

「そんなおかしい人、そうそういないでしょ。レア体験!」と思うでしょうか? 全くそんなことないと思います。不安ビジネスを含め、これまでの価値観が崩壊しつつある今の世の中、ますます増えていくように思えます。

 

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