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農業の話は入口を変えると「伝わり方」も「聞ける話」も変わる:74杯目【渕上桂樹のバーカウンター】

コラム・マンガ

今回は、日ごろバー店長の私が合唱コンサートの司会を務めたことでのとある発見について触れたいと思います。


先日、「国連合唱団平和コンサート」の司会を務める機会がありました。私の役割は、時に英語を交えながらアーティストや楽曲を紹介することでした。

初めは「果たして英語で上手に話せるのだろうか?」などとドキドキしていました。でも、実際にやってみると、紹介文を上手に読んだり、英語を話したりすること以外にも、大事で難しいことがたくさんありました。ステージや演出の人たちとタイミングを合わせること。楽曲の雰囲気に合わせた調子で喋ること。そして、状況に応じて変わる進行に合わせ、話す内容を臨機応変に変えることです。

司会の仕事は1人でするものではありません。進行を管理する責任者や、それぞれの持ち場を取り仕切る人たちと連携しながら、なんとか無事に終えることができました。最後は司会の私にも拍手をいただき、初めてでも挑戦してよかった! と思える体験でした。

コンサート後のパーティで始まった“いつもの”展開

コンサートのあとはウェルカムパーティが開かれ、国連合唱団のメンバーや来賓の皆さんと一緒に軽食を楽しみながら会話をする機会がありました。私はそこではドリンクを担当し、自家農園で採れたベルガモットと地元の生姜を使ったオリジナルのジンジャーエールをふるまい、長崎や日本のみならず世界のたくさんの国の方とお話をする機会に恵まれました。

私がふるまったのは地元素材を使ったドリンクなので、必然的に素材の話や採れた場所の話、地域の話になりました。特に、ベルガモットの畑は開拓に携わっているので尋ねられたときの説明にもつい力が入り、「香りがいいですね」とか「畑があるところに行ってみたい」などと結果的に話も盛り上がるのです。

実は、これは初めてのことではなく、私がいつも仕事でやっていることでした。私の本業はバーの経営なので、カウンターをはさんでドリンクの話から素材の話、そして生産現場や地域の話に自然と移っていくことはよくあるのです。もちろん、そうではないときもたくさんあって、お客さんが夢中になっていることや最近あった出来事などを話しながら飲むことだってあるのですが、素材やその背景の話をしながら飲むとやっぱり美味しく感じるのはあると思います。

話の出だしで方向性は変わる

ところが、話の入口で「農業のコラムを書いています」「ラジオ番組は農業をテーマにしたものです」と話したときは、ちょっと違うリアクションが返ってくることも多いです。たとえば「そうですか。農業はこれからの時代とても大切だと思います。やっぱり大切なのは農業です」とか「一次産業を国は責任をもって守るべきだ」など、大きな話が始まってみたり、「廃棄される野菜で加工品を作ったり子ども食堂に寄付するべきだ」とか「農協がよくないと思うので農協を解体するべきだ」など、現場からするとかなりずれた話が始まってしまい、返答に困ることもあります。

これは以前から薄々感じていたことですが、もしかすると「農業」には真面目に話さなければならないモードをオンにする不思議な力があるのかもしれません。良い事かもしれませんが、世間で語られる農業のイメージから少し離れて、実際に自分が作っているものや、現場でやっていることについて話したいときだってあります。

そのため、バーやパーティーで飲み物を飲みながら自然と生産現場の話をするという入口は、私にとってとても話しやすいのです。目の前の飲み物を味わってもらい、興味を持ってもらったところから話せるので、先入観にとらわれずに現場のことを知ってもらえる気がします。

私はたまたまこういう職業なのでまだ良いですが、もしかしたら、本業で農家をやっている人が全く農業と関係ない人と話すときに同じような現象が起こっている可能性もあると思います。私も農業をしていたときに「そうですか。農家さんですか。規格外野菜についてですが」と言われたことが何度かあり、話すのがちょっと億劫になったこともありました。今になって思えば、最初から農業を前面に出さず、別の入口から話し始めるなど、工夫をしてもよかったのでは? とも思います。生産現場について伝えたいときでも、最初に掲げる看板を変えてみる。そうすれば、こちらの話の伝わり方も、相手から聞ける話も違っていたのかもしれません。

今回のコラムも、農業と全く関係ない入口から書いてみました。コンサートの司会という全く新しい挑戦では学ぶことも多くありましたが、まさか本業で自分が大切にしている分野でも発見があるとは思いませんでした。

 

【渕上桂樹のバーカウンター】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

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