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【誤り】グリホサートをなくそうとする世界の動きはより確実になっている 印鑰智哉氏(民間稲作研究所・種子の会とちぎアドバイザー)

食と農のウワサ

「グリホサートをなくそうとする世界の動きはより確実になっている」印鑰智哉氏(民間稲作研究所・種子の会とちぎアドバイザー)

AGRI FACTによるファクトチェック結果

事実関係に誤り

その理由は?

世界150カ国以上で承認されEU加盟国に農薬の有効成分を認める権限はなく、
製品の使用規制も実態として世界に拡大していないため。

AGRI FACTのファクトチェック【対象と選択基準】
AGRI FACTのファクトチェック【評価基準と判定】


以上の要旨はAGRI FACT事務局が作成したものです。詳細は以下でご確認ください。

農と食に関する事実をフェアな立場で提供するサイトAGRI FACT(アグリファクト)は2021年7月10日、「グリホサートをなくそうとする世界の動きはより確実になっている」印鑰智哉氏(民間稲作研究所・種子の会とちぎアドバイザー)との投稿についてファクトチェックを行い、「事実関係に誤り」とする調査結果を発表した。
(*2021年12月更新)

ファクトチェックした投稿内容

「グリホサートをなくそうとする世界の動きはより確実になっている」

投稿内容の原文(検証対象は太字部分)と出典

モンサント(現バイエル)のラウンドアップ(成分名グリホサート)をなくそうとする世界の動きはより確実なものになってきている。(中略)
ルクセンブルクは今年から禁止に。ベルギー高等保健評議会も来年までの禁止を勧告(4)。そしてフランス、ドイツ、メキシコも2024年までに禁止する計画。州や自治体単位で禁止・規制は世界で拡がっており、もはやその運命は決まったとしか言いようがないのだけど、残念ながら日本では逆に近年売れ行きが伸びている。
出典:印鑰智哉氏(民間稲作研究所・種子の会とちぎアドバイザー)のFacebook投稿(2021年4月22日 午前10時32分)

ファクトチェックの検証結果

民間稲作研究所・種子の会とちぎアドバイザー印鑰智哉氏の投稿内容「ラウンドアップ(成分名グリホサート)をなくそうとする世界の動きはより確実なものになっている」は、グリホサートの世界の農薬登録実態とかけ離れている。グリホサート関連製品(ラウンドアップ製品群)は世界の農業現場でもっとも使用量の多い除草剤で、安全性・コストパフォーマンスに優れている。政治判断による使用・販売停止などの措置は農家(生産者)の反発が大きい。

世界150カ国以上・EUが承認

AGRI FACT(アグリファクト)では、農薬の成分について有効性・安全性を審査する各国・地域(EU)の規制・科学機関の公式発表をもとに、グリホサート(ラウンドアップ製品の有効成分)について承認・農薬登録の確認がとれた国名を一覧にまとめた。 (世界のグリホサート承認国一覧:AGRI FACT調べ(2021 年10月現在))。実態は世界150カ国以上で承認・農薬登録されている。EUでは農薬の有効成分について欧州食品安全機関(EFSA)が評価して欧州委員会が承認を行い、その承認結果は全EU加盟国に適用される制度になっている。つまり、個々の加盟国に農薬(有効成分)を承認する権限は与えられていない。

では、なぜEU加盟国が個々に使用禁止や販売停止の措置を出す事例がみられるのかというと、EUならではの農薬規制が関係している。EUの農薬規制は、EUとして有効成分を審査・承認した後、加盟各国が製剤(製品)を許可し、使用や販売を認める仕組みになっている。EUとして有効性・安全性が認められた農薬の有効成分を含む、製品としての農薬を各国の政治的判断で使用や販売を認めないという判断が可能ともいえる。印鑰氏がEU加盟国を挙げて、「ラウンドアップ(成分名グリホサート)をなくそうとする世界の動きはより確実なものになってきている」というのは、そうした動きを指しているのだろう。ただし、全面的な禁止措置はEU法に違反する可能性が高い

フランス・オーストリアは全面使用禁止措置が頓挫

印鑰氏が2024年までに禁止する計画の一国として挙げたEUの農業大国フランスの実態はどうか。仏のマクロン大統領はたしかに2017年、「3年以内にグリホサート関連製品を使用禁止にする」ことを公約としていた。しかし2020年に、「2021年までにグリホサートの使用禁止措置が取れない」ことを正式に発表している。フランスがグリホサートの使用禁止措置を断念したのは下記を参照されたい。

さらに印鑰氏が例に挙げたオーストリアとルクセンブルクの事例を細かく見てみよう。
USDA(米国農務省)のレポートによると、オーストリア議会では2021年5月、グリホサートを部分的に使用禁止とする農薬法の改正案が全会一致で採択され、遊び場や公園などの公共の場所、医療機関や老人ホームなどの敏感な場所でのグリホサートの使用が禁止されることになる。家庭菜園やコミュニティガーデンでの使用や、個人・非専門家による使用も禁止されるが、農業分野での使用を含む業務用グリホサートの使用は引き続き認められる。

これまでオーストリアは社会民主党や緑の党が中心となり、グリホサートの全面禁止を盛り込んだ改正案を採択しようと二度試み頓挫している。一度は議会を通ったがEU法に違反するとしてEUに却下されている。そのため今改正案ではEU法上で例外的に認められている特定の地域での使用制限・禁止に限定した「部分禁止」の範囲に変更し、ようやく採択されたというのが実態である。現在のところ、与党オーストリア人民党と連立を組む緑の党はともに全面禁止を推進していない。

USDAのレポートは、オーストリアの農家はグリホサートの使用が可能であることに「安堵している」と報告している。全面禁止になると、農業市場での競争力を失うことになるからである。オーストリア農業会議所のヨゼフ・ムースブルガー会長は、「EU法に則った今回の部分的な使用禁止は、特に注意を要する用途のリスクを排除するもので、同時に、農業分野では引き続き適切な手段を確保することができる。このアプローチは、国民の安全保障上のニーズと、土壌を守る農業の必要性を考慮したものだ」と述べている。

EU法違反の可能性があるルクセンブルクと本末転倒のメキシコ

小国ルクセンブルクルクではたしかに、グリホサートの全面禁止法案が議会を通り、実行されている。 しかし、EU本部が首都ブリュッセルに置かれる隣国ベルギーの農業大臣はLuxemburger Wort紙のWeb記事 によると「ルクセンブルク大公国は不適切な方法でグリホサートの使用禁止を実施したと考えています」と公式にコメントしている。「言い換えれば、この措置は欧州の法律に反しているため、ブリュッセルから異議を申し立てられる可能性がある」とも同記事は伝えている。

最後にメキシコでは左派のオブラドール大統領が2024年までにグリホサートを禁止する法令を発表しているが、メキシコの「農業生産に影響を与え、その結果、食料安全保障と主権に影響を与える」リスクがあることから法律施行の凍結を求める訴訟が提起されている。また代替手段としてグリホサートの400倍近い毒性を持ち、土壌微生物活性に影響を及ぼす可能性が高くグリホサート以上に厳格な管理が求められる除草剤が推奨されていることから、2024年までの施行には紆余曲折があると思われる。

したがって、「グリホサートをなくそうとする世界の動きはより確実になっている」という投稿は世界の趨勢を表す表現としてはきわめて不正確なものであり、「事実関係に誤り」評価基準と判定)と判断される。

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