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第3回 デマを見抜く配信・投稿チェック法――自分が加害者にならないために【食の数だけ正義がある 明日も争いは終わらない】

農家の声

前号では「農業系デマの傾向と対策」を書かせていただいたが、今回は自分がおかしな投稿をシェアしないための確認事項をいくつか書いてみた。ただ、幸いにも『農業経営者』の購読層ともなると経営者としての資質や信用問題からか変な投稿やシェアはしない傾向にあると私は思っている。社員教育などの参考にしていただければ幸いである。

怪しさに気付く4つのポイント

(1)配信・投稿の日付

ネットは新旧の記事が混在しているので、古いニュースや投稿記事があたかも現在のニュースであるかのようにシェアされることがある。

昨年末あたりにかけて「種子法廃止でモンサントに都道府県の種子の知見が流れて大変!」という投稿がやたらシェアされた。モンサントが2年も前に買収されて消滅していることからも分かるように、元記事は山田正彦元農林水産大臣が2017年に投稿した「大変なことになります」というタイトルの記事である。山田さんが今取り組んでるのは「種苗法」関連なのに、なぜ今更何の脈絡もなく「種子法」の記事がシェアされるのか? シェアされてる方の多くが、ご自身による感想や解説などを載せていないことから察するに、記事の中身も読まず理解もせず日付も確認せずに、誰かが間違えて古い記事をシェアしてるのを見た人が反射的にシェアしたのだろう。

グーグルの検索結果の投稿年月日(下線部)

このように人の記事をシェアするときだけでなく、検索して何かを引用したり調べるときは検索結果に併せて出てくる投稿年月日を必ず確認する。

(2)タイトル・本文の重複

タイトルや本文の内容から、元記事や他の記事との重複チェックをする。記事に論文やニュース元などのリンクがあればその記事を確認する。引用リンクが無い場合はタイトルなどを検索する。たいていのブラウザは気になる箇所をドラッグして右クリックから検索できる。

前回、「一次情報は無味乾燥の事実や研究結果や法律であっても、それが情報拡散の中心人物(インフルエンサー)の意志が加わった二次情報となり、インフルエンサーを信奉するファンによって三次情報として拡散されていく」構図を示したが、こうすることで一次情報をインフルエンサーがどのように利用したかが分かる。勝手な注釈を加えたり、真逆の解釈をしたり……。

一度も一次情報を確認してないなら、そういった人たちの主張を100回読んでも無駄だ。一次情報となる論文・法律、誰かの発言ならツイッターやYou Tubeで全文を確認できたりする。今話題の種苗法改正も改正案の条文を読まずに議論に加わることは有害以外の何物でもない。また一次情報だけでなく、他の人の引用記事を読むことで一つの一次情報にもいろいろな意見があることを確認できる。

(3)数値・単位の規模感を把握

ppmやppbといった単位は農家には理解必須だが、大事なのはそこに怪しい数値が掲載されたときに怪しいとピンとくる規模感だろう。

デマ記事などでは誇張表現を取るため、「なんと100万人もの」とか「たったの10人しか」のような一つの数字を誇張することが多いが、本来、数字は比較して相対的に見るべきものである。地球人口からすれば100万人は僅かな数字だし、10人はインフルエンザで学級閉鎖するには十分すぎる数である。母数を明示せずに、ある数字だけを抜き出して多い少ないで騒いでる記事は一歩引いて冷静に見る必要がある。

社会人として農家として、身の回りや職業上の数値は規模感を把握する概数を覚えておこう。人口や農地面積、農薬の基準値、生産量、物流量、農業に関わらず飛行機の飛ぶ高さやある時点での年号。正確な数値でなくても概数が頭にあるだけで、物事の規模や順番を比較するときの基準となる。基準があれば記事に怪しい数字があれば嗅ぎ分けれる。経営者がデマ記事に流されにくい一番の理由は「数字」でモノを語れる人が多いからであろう。

「悪の組織が飛行機から有害ガスを撒いてる(ケムトレイル)」と信じる人たちの「ケムトレイル飛行機内に生物兵器のタンクが並べられている証拠」画像。写真のバイオハザードマークを拡大すると張り付け画像だと分かる。画像検索すれば「航空機の重心テスト用の水タンク」の画像だとも分かる。

(4)画像の確認

ときおり、デマを流すものは明らかに悪意で画像で嘘をつく。「ラウンドアップを散布した草木を食べて全身腫瘍だらけになった鹿の写真」などとアップされているが、こういうのはブラウザで画像を右クリックから「画像検索」すると、検索結果に同じ画像を使ったサイトが表示される。同じようにデマに使われてるサイトも表示されるが、その写真は実は鹿の線維腫の写真でありウイルス感染で農薬とは関係ないことが分かる。このように全く関係ない病気や場所・人物などの画像を流用して危険を煽る場合がある。

画像の流用だけでなく、画像を加工して捏造する場合もある。畑の写真から余計な電線や恥ずかしい雑草を削除したり、曲がったマルチを真っ直ぐにするくらいなら可愛いものだが、危険を煽るために無害なタンクにバイオハザードマークを書き込んだり、遺伝子操作した8本足の鶏などの画像も加工されて出回っている。

こういった画像もだいたい加工が稚拙なので、拡大してみれば加工されたのが分かるし、画像検索にかけると元の画像や、それが捏造画像だと説明しているページにたどり着ける。

日付確認ミスや知識不足・見解の相違などで誤った記事が出るのと違って、画像の間違った流用や加工は人を騙す気満々である。そういう行為に及ぶ人が唱える説や団体は避けるのが正解。

引っかかったら投稿者に質問してみる

以上のようなチェックをしてみて一つでも引っかかる所があれば、投稿者に質問するのは良いことだ。

「なぜ古い日付のニュースをシェアしてるのか?」
「出てきている数値の母数は何か?」
「おかしな画像が使われてるがなぜか?」

私たち事業者からすれば、商品に対する質問や不明な点を頂ける人は次のお客様の第一候補である。自分の商品に関心を持ってくれるからこそ質問してくれる。

だが、デマを流すインフルエンサーは、自分を盲信する人が対象の確信犯なので質問には応えず、投稿日付も確認しないでシェアする人も盲信してるだけなので質問しても答えられないのがほとんど。だから質問してみてまともに回答する姿勢が見られないなら、友達の投稿であってもシェアなどしてはいけない。時間と信頼関係の無駄なので討論など挑まずに放置するのが正しい。

我々農業経営者は自分の仕事のことでさえも、毎日新しい情報を理解し解析し判断し、スタッフや顧客に伝えている。確実なことなどなく楽な仕事ではない。すべての責任を背負って行なっている。それで十分だと思う。わざわざ、どこの誰が書いたのかも分からない専門外の記事に勝手な解釈を付けてシェアしても信用を浪費するだけだ。そういうのはどこかの専門家がちゃんとやってくれる。

私たち農業経営者は専門家として仕事を全うし、発信するなら自分の仕事に根ざした情報を自分の言葉と責任において発信すべきだ。例えば「夫婦喧嘩にならないきゅうりネットの張り方」の記事を書いたとすれば、それだけで人類に対する偉大な貢献に違いない。

※『農業経営者』2020年6月号「食の数だけ正義がある 明日も争いは終わらない3」を転載(一部再編集)

 

【食の数だけ正義がある 明日も争いは終わらない】

筆者

関谷 航太
1970年東京生まれ、東京育ち。東京農業大学卒、農業系会社に就職後、日本の有機農業の草分けでもある金子美登氏のもとで研修。1998年に長野県佐久穂町に就農。

 

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