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Q それではラウンドアップ類似製品に使われている界面活性剤は危険だということでしょうか?

A これについて調べた論文を紹介します。 

R Mesnage, C Benbrookb, MN. Antonioua. Insight into the confusion over surfactant co-formulants in glyphosate-based herbicides.
https://doi.org/10.1016/j.fct.2019.03.053
ラウンドアップ類似製品の種類は多く、2012年にヨーロッパで登録されたものだけでも2000種類を超える。それらの製品には各種の界面活性剤が含まれている。それらの培養細胞に対する毒性を試験管内で調べたところ、第一世代のラウンドアップに含まれていたPOEAと呼ばれる界面活性剤の毒性はグリホサートの毒性より強かったが、1990年代中期から毒性が約100分の1の界面活性剤に変更され、特にEU内では化粧品や医薬品にも使われる安全性が高い界面活性剤に置き換えられて、懸念はなくなった。
 

要するに、今から25年ほど前までのラウンドアップ類似製品には培養細胞に対する毒性がグリホサートより強い界面活性剤が使われていましたが、現在はそのような界面活性剤は使われていないということです。

Q それでは25年以上前にラウンドアップを使った人は、がんになる可能性があるのでしょうか?

A それはありません。その理由は、第1にグリホサートに発がん性がないことは証明されています。第2に、以前使われていた界面活性剤の毒性はグリホサートより強かったのかもしれませんが、それは培養細胞に対する毒性を試験管内で調べたものであり、発がん性があるという試験結果はありません。

ラウンドアップ類似製品など農薬の安全性を確認するために、培養細胞や実験動物など多くの試験材料を使った約40項目の試験を行います。そして、その結果からヒトに対する毒性や発がん性などを推測します。そして、この試験に合格したものだけが農薬として使用することを許可されます。くわしい試験項目は農薬工業会のホームページを見てください。

そもそもラウンドアップなどの農薬は作物に散布しますが、作物を収穫する時期までに分解してほとんどなくなるように作られています。界面活性剤も同様で、作物に残留し、食品といっしょに私たちが摂取する量は、あったとしても極めて微量です。どんな化学物質も大量なら毒性があり、微量なら毒性はないという用量作用関係の法則があります。従って、昔のラウンドアップに使われていた界面活性剤の毒性が現在のものより高かったとしても、当時、ラウンドアップを使った農作物を食べた人に健康に被害が出ることは考えられません。

農薬の場合、健康被害が最も心配されるのは、高濃度の農薬の散布に従事する農業者です。そのような人たちの健康状態を継続的に調査した米国のAgricultural Health Study(AHS)の調査論文を紹介します。

G Andreotti, et al. Glyphosate Use and Cancer Incidence in the Agricultural Health Study.  J Natl Cancer Inst (2018) 110(5) doi: 10.1093/jnci/djx233

米国ノースカロライナ州とアイオワ州でラウンドアップ類似製品を散布していた農業者4万5千人近くを1993年から2005年の間、調査した結果、そのうち5800人近くががんになったが、その割合はラウンドアップ類似製品を使わなかった人と変わらなかった。

 

要するに、高濃度のラウンドアップ類似製品の散布に従事する、最もリスクが高いと考えられる人たちでも、がんは増えていなかったのです。重要な事実は、「グリホサートにはおそらく発がん性がある」と判断した国際がん研究機関(IARC)のブレア委員長がこの重要なAHCの調査論文を無視したことです。そして、この調査論文があればIARCの判断は変わっていたことをブレア委員長自身が認めているのです。ということは、IARCはデータ不足のため間違った結論を出していたということになります。


このような事実を総合的に判断すると、ラウンドアップ類似製品の中にはグリホサートより細胞毒性が高い界面活性剤を含むものが過去にはあったのかもしれませんが、界面活性剤に発がん性があるという科学的事実はありません。そのため過去のラウンドアップ類似製品によって、がんが引き起こされるようなことはないと判断されます。

Q 医薬品は製剤で試験がされると聞きましたが、なぜ農薬では製剤ではなく有効成分の試験をするのですか? 医薬品と同じような認可システムにした方が良いのではないですか?

※2020年3月20日更新・追加

A 医薬品と農薬では使用する場面が違います。医薬品は製剤そのものを人が摂取します。そのため製剤で試験をする必要があります。

一方で農薬は、製剤そのものを摂取することはありません。散布された農薬が残留した作物や水などを摂取する可能性が考えられますが、いずれの場合も残留するのは製剤のままではなく、有効成分です。ただし農薬を散布するための農薬調整時、また誤飲、誤食もしくは意図的な摂取の場面で、農薬そのものを摂取(接触)する可能性が考えられます。そのため、農薬製剤そのものの急性毒性、皮膚刺激性、眼刺激性、皮膚感作性などの試験が行われています。

Q なぜ農薬は医療品と比べて必要な試験が少ないのですか?この試験で、子どもやお年寄りなどに影響がないと言えるのですか?

※2020年3月20日更新・追加

A 医薬品は治療効果を得るために、「体に明らかな影響が出る多量」を使います。そのため副作用がない医薬品はありません。副作用の種類と大きさなどのデメリットを見極めるため、数多くの試験が必要です。これらの試験によりメリット(治療効果)よりデメリット(副作用)が大きいと判断された場合は、医薬品として認可されません。

一方で食品や水の残留農薬の量は、「体に何の影響もない量」を基準にしています。そのため農薬の承認に必要な試験は、どの程度の量なら「体に何の影響も出ない量」か調べることで、だから医薬品に比べて試験数は少ないのです。ただし発がん性が疑われるものに関しては、量で規制するのではなく、全て禁止にします。このように「農薬はデメリットがあれば、全て禁止」という原則があり、医薬品のようにデメリットがあっても認可されることはありません。つまり農薬は、認可されている量や使用方法を守れば、安全だと言えます。

Q グリホサートは、現存の毒性学では安全とされていますが、何世代か後に影響があるエピジェネティック毒性は考慮されていませんよね?

※2020年3月20日更新・追加

A 一部の科学者が、グリホサートは何世代か後にエピジェネティックな(従来の遺伝子の動きではなく、遺伝子を制御する部分の働きの異常)影響が出ると主張していますね。しかし現段階では、この実験は特殊であり、科学的に正しいという検証を受けていない段階にあります。さらにグリホサートとエピジェネティック毒性に関する論文におけるグリホサートの投与経路が「腹腔内投与」ですが、私たちはグリホサートを腹腔内に注射されることはありません。そのため人の健康にどのような影響を及ぼすのかについては、何の証拠も得られていません。

Q グリホサートやその代謝物であるAMPAは土壌微生物によって分解されにくいので、土壌汚染が進んでいるんですよね?

※2020年4月1日更新・追加

A 散布されたグリホサートは、その大部分がAMPAという物質に変化します。AMPAは毒物ではありません。もし飲食物を通じて、微量のAMPAが体内に入ったとしても、何かの作用をするとは考えられません。食品安全員会が行ったグリホサートの安全性評価でも、AMPAの安全性を確認しています。

分析化学が進歩した現在は、1ppb(1グラム中に0.000000001グラム)程度の微量の化学物質が測定できるようになりました。土壌を測定すると、あらゆる種類の化学物質が、微量ですが見つかります。しかし、この程度の微量を土壌汚染とは言いません。

回答者

唐木英明(公益財団法人食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授)

回答日

2019年10月26日

更新日

2020年4月10日

注:商品名『ラウンドアップ』の有効成分名は「グリホサート」と言い、Q&Aでは2つの名称をその都度使い分けていますが、実質的には同じものだとご理解ください。

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