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Vol.19 炎上マフィンにも共通する不思議食品しぐさ【不思議食品・観察記】
科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、目下炎上中のマフィンにもしっかり現れていた「不思議食品しぐさ」のあるある。作り手が「いいもの」とアピールするその「謳い文句」に注目です。
大炎上した、デザフェスのマフィン
連日「デザフェスのマフィン」で大騒ぎです。東京都目黒区の焼き菓子店が大型イベントに出張販売したところ、体調不良を訴える声がネット上に続出。SNSで広まったため、店が保健所へ連絡すると、厚労省によってリコール対象にしたと公表されたのが、事の経緯です。その危険度は、マックスである「クラス1」。「喫食により重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る可能性が高い場合」というから、さらに騒動の火が燃え広がっています。
このマフィンの製造過程のどこに問題があったか。それは既に専門家によって指摘されているでしょうし、当連載が口を出すポイントではないので触れません。「こんな風潮、言説、ムーブメントがあるよね」という点を観察するのが当連載のテーマ。今回は、問題のマフィンにも現れていた、巷でよくある「不思議食品しぐさ」をふりかえってみたいと思います(不思議食品の部分を「マルチ商法」「自然派」などに置き換えても成立しそう)。
食中毒騒動を起こした焼き菓子店がInstagramに投稿していた、店の売りはこうでした。
「全て防腐剤、添加物不使用で市販の焼き菓子の半分以下のお砂糖の量で作っており、離乳食完了期のお子様より安心してお召し上がりいただけます」
すると「これだから自然派は!」みたいな声も多数あがっていたようですが、このマフィンについては、それ以前の問題だと思われます。食品衛生と製菓の知識が、どこかでバグってしまったような(そもそも添加物や砂糖、バターを使わずとも技術があれば衛生的でおいしい焼き菓子は作れるし)。
騒動が起こって即、筆者が友人らと「だよね」と共有しあったのは、無根拠の付加価値で「これはいいものだ」押し通してこようとするあの感じへの苦手意識。野良発酵やマルチ食品でも、よくある光景です。しかも、見るからに残念な出来栄えであるにも関わらず。
マフィンは心をこめて、一生懸命つくったのでしょう。体のことを考えて、添加物や砂糖を問題視したのでしょう(根拠が微妙だとしても)。そうした善意へのつっこみにくさも、その気持ちに拍車をかけました。極端な例かもしれませんが、エサ不足となっている熊のために、ヘリでドングリ撒いちゃったあの団体も、自分には同じカテゴリーと感じられます。
その付加価値、いくらなんでも風呂敷広げすぎ?
この手の物件によくある付加価値=オーガニック、添加物不使用、砂糖控えめ。無根拠で「いいもの」するセールストーク、他には何があるでしょう。
某ホメオパシーの会社では、ネットショップで販売している豆乳のタルタルソースの説明に、なぜか「霊的見解」が掲載されていました。「自分を苦しめる価値観を緩めて、楽に生きられる働きがある」って……単にネットショップの表示ミス?(レメディの解説と間違えた?)。でなければ、まさかタルタルソースにそんな壮大な働きがあるなんて。嘘だと言ってほしい。
自己啓発系ブロガーの教え「自分ビジネス」に則って、「自己開示」を付加価値とする界隈もあります。素材や土地への愛、未経験の食品販売に挑戦する心意気、赤裸々に書き綴る自分との対話。そうした物語を壮大に盛りながら販売されたのは、商品の魅力も食品販売店としての信頼もいまひとつな「おから味噌」。これは厳しい……と一部で予想されていたとおり、軌道に乗らず撤退した模様。本人に相当数のコアなファンが根付いているか、よほど面白みがある人でもないと、難しい売り方なのでは。
「動物性食品不使用」を謳うごはんも、高確率で微妙なものに出会います(もちろん美味しいものもちゃんとある)。大きなエコ系イベントに出店されている、マクロビ弁当なども数多く食べましたが、油と塩の量がキツイものがチラホラ。出汁をふくめ、動物性食品を使わないものたりなさを、補おうとしてそうなるのでしょうか。店頭のポップでは健康にいい!自然との調和!と謳われているのに、なんだか逆効果であるように感じてしまう。
「光をイメージして作った料理」を売りにする飲食店では、「不妊治療をしてもダメだったが、ついに子宝を授かった」「学年最下位だったのに、第一志望合格!」とまでの奇跡を、「光のなせる技」と言い切ります。食事で英気を養うのは大事だし、こだわった素材を使っているのは確かなようですが、大変高額なので「値段の根拠は?」なる、お怒りの声のほうがしっくりくる。同社の「エネルギーアップを促す特別な機械」を使ったというお高い梅酒も気になるぅ。
特殊な食をとりあげる雑誌では「宇宙エネルギーとつながる料理講座」ってのも、ありました。
ネットの有名どころでは、クレイジーソルトと呼ばれる情報商材アカウントが販売していた塩もすごかったですね(5㎏で1万2500円!)。「中国政府が管理している特権階級専用の特殊な塩田」って、どこ?
付加価値の自信で、クオリティがおろそかになっていないか
小さなイベントで販売される、素朴な食品に目をむければきりがありません。
「お野菜は自然栽培、有機栽培のものです」
「調味料は昔ながらの製法で作られたものです」
「優しさたっぷりいれています」
「細胞が喜ぶ、本物の味」
こうしたものは単に「事実」「特徴」を書いているわけではないでしょう。「微妙なクオリティ」のものを、「なんとなくよさそう」な文句で押し通そうとする圧に、失礼ながら食べる前から胸焼けしてしまいます。支払った価格に対し、見合ったリターンを確実に得たい! というつもりはないものの、微妙なものに出会うたび、あまりにも消費者を低く見積もっているのではとモヤります。
食品以外でも、この手のものは無限に掘り出すことができるでしょう。「女性性を開花させる生理用布ナプキン」とか(かなり疑問のある質だった)、自己肯定感を高めるオイル、とか。
なんだか素敵そう! と思っても、商品そのものの質をよーく吟味したいものです。物語や雰囲気だけを味える余裕のある方は、ぜひそのままで。
筆者 |