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農薬に関するデマで打線組んでみた〈パート5〉【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】
この農薬デマシリーズも、とうとうパート5。
しかし! まだまだ農薬デマは止むどころか増え続けています。
ということで今回も、
「農薬に関するデマで打線組んでみた〈パート5〉」
をテーマに、農家の私ナス男が紹介します!
1.(中)オーガニックバナナは黒い点々が出ない!
「バナナは化学物質を使って熟すと、黒い点々が出る!」
という、バナナの黒い点は化学物質が絡んでいるという疑惑が、少し前にTwitterに浮上しました。
しかし、これは完全に間違いです。
熟した時に出るバナナの黒い点々は「シュガースポット」といって、熟して美味しく食べられるサイン。化学物質は関係ありません。
少し調べたらウソだとわかる、でたらめなツイートに「いいね」がたくさんつくなんて……
SNSの闇の深さを感じました。
2.(左)農薬はパーキンソン病の原因になる!
「農薬を使っていた祖父母がパーキンソン病になった! 農薬は危険!」
というツイートがバズっていました。
このように農薬と病気を関連付けて批判を展開する人が多いのですが、農薬とパーキンソン病を直接結びつけるような因果関係を証明する根拠は、現在までありません。
パーキンソン病を発症する要因と思われるものは、農薬の他にもたくさんあるはずなのに、なぜか農薬だけが叩かれます。
ショッキングな内容のツイートほど拡散されやすいものですが、どうか一度冷静になって考えてもらいたいです。
3.(二)本当に健康な野菜は虫すら来ない!
「本当に健康な状態の野菜には、虫すら寄ってこない!」
という、某政党関係者のツイートが話題になっていました。
おそらく、農薬や化学肥料を使わずに栽培した野菜には虫が付かない、ということだと思います。
ですが、これも間違いです。
どうしてかって、未開のジャングルにはわんさか虫がいるでしょう。
何も肥料や農薬をかけていないうちのハウス周りの雑草には、害虫がバンバン飛んでいますよ?
自然栽培農家だって、害虫のマネジメントはしているはずです。
現場を知っている人ならすぐにデマと気づくレベルのツイートですが、一般の消費者には気づきにくいかもしれません。
都合のいい話は、まずは疑ってみてください。
4.(三)営利目的の農家がいるから農薬がなくならない!
「農家は災害などの減収リスクを負っている分、サラリーマンより稼ぎたい!」
という主旨のツイートを私がしたところ、
「そんな営利目的の農家がいるから、農薬がなくならないんだ!」
というコメントをいただきました。
いやいや……
慣行栽培農家に限らず、有機栽培農家でさえ営利目的ですけど?
そもそも、営利目的でない産業はあるのでしょうか?
対価としてお金をいただくのは当然ですし、農家も生活が成り立ちません。
「農薬=楽して金儲けしている!」と考える人が、少しでも減ってほしいと願いながら。
このシリーズを書き続けようと改めて決意しました。
5.(一)日本の農薬基準はゆるゆるだ! さらに緩和されている!
「日本の残留農薬基準は欧州の○○培!」
「さらにその基準が緩和されている!」
こうした批判もよく目にしますが、これはミスリードする内容です。
日本の残留農薬の基準は、世界の規制水準とほぼ同等で、安全性は科学的に保証されています。
確かに個々の残留農薬基準を見れば他国より高いものもありますが、他国より基準が厳しいものもあります。どうして個々の農産物で日本と海外で残留農薬の基準値が違うケースが出てくるかというと、残留基準値は日本人が毎日の食生活でこれらの食品を食べてもヒトに無害な量(一日許容摂取量=ADIと言います)を超えないように、食品ごとの値を決めているからです。日本の食文化で多く食べるものの残留基準値は海外より低く、あまり食べない食材の基準値は高くなったりします。無害な量の内訳である個々の食材の基準は多少変わっても、無害な量の総量が増えたことはありません。
当然、日本の基準が世界と比べて「緩い」とか「緩和された」といった事実はないのです。
参考
そして残留農薬基準を批判している人たちは、実際にどれだけ残留しているのかは一切触れません。
おそらく問題にすらできないほど実際の残留値は低い、と気づいているのでしょうかね。
6.(捕)無農薬の野菜でも、次亜塩素酸水が散布してある!
「○○農園は農薬は使っていないけど、次亜塩素酸水を使って消毒している!」
という感じで、ある農園が次亜塩素酸水を農産物に使っていることで自然派の消費者からクレームを受けていました。
しかし次亜塩素酸水は、天敵生物や酢と同じ「特定農薬」に分類されており、有機栽培でも使用できるほど安全性が認められています。
つまり、この農園が次亜塩素酸水を使用することになんの問題もないのです。
コロナ禍で消毒作用のある次亜塩素酸という言葉がメジャーになって、それと似た名前の次亜塩素酸水を毛嫌いする方もいますが……
農家としては、特定農薬すら使わずに野菜を育てるのはとても難しいというのが本音です。
完全な無農薬で野菜を栽培することは大変な労力が必要だということを、消費者の方には理解していただきたいです。
7.(右)ジャガイモの種に放射線を放射している!危険だ!
「ジャガイモに放射線を使うなんて!危険すぎる!」
という意見があります。
確かに、ジャガイモの産地では種イモに放射線を照射しているそうです。
しかし、これは消費者の安全を守るための作業です。
ジャガイモの芽にはソラニンという毒があり、それを取り除くために放射線照射をしています。
一個一個手作業でジャガイモの芽を取り除こうとすれば、膨大な人件費が必要になることは想像に難くないでしょう。
そして放射線照射された野菜の安全性は、日本をはじめ各国や国際機関でも長年に渡り研究されていますが、特に悪影響は認められていません。
原発事故以来、放射線という言葉にアレルギーがある方もいると思いますし、農家の私がそれをどうこう言うつもりはありません。
ただ、膨大な時間と人件費を削減するためという、農家の立場も理解していただければと思います。
8.(遊)農薬の使用量は年々増えている!
「農薬の使用量は年々増えている!」
このような意見を信じてしまう消費者もいるかもしれません。
農薬使用量そのものの統計データはありませんが、出荷量から使用量を推測することはできます。
そして事実はおそらく逆で、むしろ農薬の使用量は減少傾向だと思われます。
「思われる」としたのは、農薬の使用量の統計データはなくとも、農薬の出荷量から使用量を推測できるからです。
農水省のデータを見ると、除草剤は微増傾向ですが、殺虫剤を含めた全体の農薬の出荷量は年々減少しています。1989(平成元)年の51万6500t/klから2020(令和2)年には22万2100t/klへと約55%減少しました。
この結果から、
● 農薬の出荷量が減少傾向なのは、農薬を使用する農家の減少が主な要因と思われること
● 除草剤が微増傾向なのも同じく、農家の減少により除草作業の負担がそのまま除草剤の出荷量とリンクしていると考えられること
が推測されます。
「病気が増えているのだから、農薬も増えているはず!」
と、農薬を病気と関連付けて批判したい人たちのデマに、惑わされないように注意したいものです。
9.(投)アグリファクトは科学を盲信している!
「アグリファクトってDS( ディープステート)側でしょ!」
「科学を妄信しているサイトだ! 農薬を擁護してるサイトなんてあり得ない!」
という意見を最近目にするようになりました。
アグリファクトは、農業に関しての噂やデマに対して科学や事実を基にファクトチェックしているサイトです。
記事を読んでもらえれば分かると思いますが、決して科学を妄信しているわけではありません。
そして、アグリファクトの記事にまともに反論できている意見を見たことがないです。
記事を寄稿している私、ナス男としても、これからも農薬の安全性やデマに正しく向き合っていきたいと思っています。
まとめ
同じことの繰り返しになってしまいますが、農薬について正しく知って正しく恐れることが農薬デマに対してはもっとも有効です。
農家の一人である私も、農薬のリスクに十分留意し、取扱いに注意しながら農薬を使用しています。
この記事が少しでも消費者の農薬に対する誤解を解く手助けになってくれれば嬉しいです!
筆者ナス男(ハイパーナスクリエイター「いわゆるナス農家」) |