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【オーガニック問題研究会マンスリーレポート⑧】オーガニックカルトはトランプと排外主義の夢を見るか?③

オーガニック問題研究会マンスリーレポート

このコラムが公開される頃には、参院選(7月20日投開票)の結果が出ています。オーガニック・反ワクチンの泡沫カルト政党と見られていた参政党がまさかの躍進をうかがう情勢に、大きな波紋が広がりました。
食と農に関する参政党の言説・政策は当初から荒唐無稽なものが目立っていましたが、今回は「日本人ファースト」と称する排外主義や差別的言説の方が話題をさらっており、一周回ってオーガニック好きの芸能人から「排外主義や差別さえ掲げなければ、参政党にも共感できるのに」という趣旨の発言まで飛び出す始末です(※1)。
なぜそんな発言が生まれるのでしょうか。

参政党の農業論にオリジナリティはほぼない

実際のところ、食と農に関して参政党の言説は一部極端なものを除けばオリジナリティのある内容ではなく、むしろそれまでリベラル政党やその周辺のオーガニック運動団体などによって語られてきた誤情報や陰謀論の単なるコラージュにすぎません。

そのことは2022年の参院選後にAGRI FACTの記事『オーガニック保守政党誕生の憂鬱』でもすでに指摘されていたとおりです。
鈴木宣弘氏や堤未果氏をはじめ、現在でも各野党やオーガニック運動団体から支持されているオピニオンリーダーが、参政党の方針にも強い影響を与えてきました。

そのため参政党以外の野党でも、こと食と農に関する言説や政策においては大差ないと思われるようなものが少なからず認められます。
参政党を批判しておきながら、食と農に関しては同じルーツの誤情報を利用してポピュリズム的手法をとっているのでは、筋が通らないと思います。

例えば、れいわ新選組は参院選マニフェストに「農薬と食品添加物の規制強化」「廃止された種子法の復活、種苗法における自家増殖禁止規定の見直し」「種子の自給率も高めていく」などを掲げていますが、その具体的な根拠や方策については党の「農林水産政策」を参照してもなお不明瞭です。
根拠を示さず「農薬は危険、タネが危ない」という曖昧なイメージに依存している点では、参政党と変わらないように思います。

れいわではつい最近、鈴木氏を迎えて「ごはん会議」というキャンペーンを大々的に実施していたので、おそらくその影響もあるのでしょう。
同氏は前述の通り、初期参政党の農業政策ブレーンとしても重用されていました。

また、国民民主党は反ワクチン・オーガニック主義者の須藤元気氏を公認候補に擁立したほか、党代表の玉木雄一郎氏が反ワクチン・オーガニック推進・ディープステート陰謀論の市民団体「ママエンジェルス」との対談動画を公開したことでも物議を醸しました。

須藤氏はワクチンに関して考えを改めたと表明した後でも、わざわざ「日本のタネは9割が輸入」と危機を煽る誤った投稿をしており、まるで食の分野なら誤情報を利用しても問題がない(メリットの方が大きい)と国民民主党が判断しているかのようにも見えます。

立憲民主党、共産党、社民党などのいわゆるリベラル政党においても、この点に関しては似たようなものです。
いずれも有機農業、あきたこまちR、タネの問題などについてオーガニック運動団体の主張を検証もせずそのまま反復することで、政権批判や支持固めに利用してきました。

「無所属連合」代表の内海聡氏は2024年の都知事選にも立候補していた医師ですが、反ワクチン・オーガニック・排外主義・陰謀論を中心に掲げ、主張自体は支離滅裂ながら最終12万票を獲得し6位にまで食い込みました。
現在の参政党現象にも連なる動きだったといえるでしょう。

なぜオーガニックは参政党に利用されてしまったのか

オーガニックの一部関係者からは、参院選の情勢を受けて参政党の排外主義や差別的言説を批判する声明も上がり始めました。(※2)

その声からは「私たちが大切にしてきたオーガニックが、排外主義者に不当に利用されている」という切実な思いが感じられます。
ナチスが有機農業を利用した歴史を引用して参政党に重ね合わせる方もいます。

確かに、そのような側面はあるのでしょう。
彼らの思いに嘘があるとは思いませんし、むしろ理解し共感するところも多分にあります。
当然ながら筆者自身も排外主義や差別的言説には強く反対します。

ただ、そこでひとつ気がかりなのは、「何が参政党的なものを生み出してしまったのか」「なぜオーガニックは参政党に利用されてしまったのか」という検証がすっぽり抜け落ちている点です。
参政党を単に「私たちのオーガニックを奪った悪魔」化して批判するだけでは、仮に参政党がなくなっても、いずれまた別のポピュリズム政党によって同じことが繰り返されるでしょう。

例えば、反農薬運動家として知られる印鑰智哉氏は参院選に向けて『レイバーネット日本』に『ナチス・ドイツの有機農業と「参政党」の政策は瓜二つ』と題する記事を寄稿しています。

参政党への批判内容自体には頷ける点もあるものの、一方で近年広がるオーガニック運動への批判に対しては「不当にカルト呼ばわりされている」「世界の流れに疎い日本語圏の無知な人々によるもの」などと矮小化し、いわゆる藁人形論法のような格好で向かう先の見えない反論を展開しています。

筆者の知る限り、オーガニック運動の問題点を批判する有識者のなかで有機農業やオーガニックの理念、価値、技術体系そのものに対し不当な批判や過小評価をおこなう人はいません。
もちろん世界の情勢に無知なわけでもありません。

日本のオーガニック運動が批判されているのは「オーガニックだから」でも「オーガニックを誤解しているから」でもありません。
まさしくオーガニック推進のためならなりふり構わずポピュリズムとカルト性を持ち込む倫理観のなさ、認識の歪みこそが批判されているのです。
それは他でもない有機農業者にとって、中長期的には不利益を与えます。

オーガニック食材に何か特別な「薬効」があるかのような表現は、その最たるものです。
悪意がなければ許されるというものではありません。

オーガニックに対して不利な言説からは耳を塞いで無視をするか陰謀論に逃げ込み、「数の力」を求めてホメオパシーやママエンジェルスのような団体であっても囲い込み、誤情報も陰謀論も利用して内面化してきた歴史が、参政党の誕生に寄与していないと言い切れるでしょうか。

あるいは、「あきたこまちR」反対のオンライン署名に寄せられた数々の口汚いコメント、その背後にある不安・不満・攻撃性は今、どこに向けられているのでしょうか。

参政党の掲げる「オーガニック」と「差別」は同根

冒頭の芸能人の発言に戻って考えてみましょう。
参政党は「オーガニック+差別」だからNGなのでしょうか?
もし「差別」が取れて「オーガニック」だけ残れば、支持に値するのでしょうか。
きっと違和感があると思います。

誤情報をもとにした、偽りの不安の増幅装置=ポピュリズムという手法に関しては、どちらもさして変わらないからです。
参政党の掲げる「オーガニック」も「差別」も、結局は同じ幹から枝分かれした現象にすぎません。

だからこそオーガニックの誤情報発信に関わってきた人々は、参政党の姿に鏡を見させられているようで苦々しく思うのかもしれません。
あえて挑発的に、厳しい言い方をするならば「散々これまで疑似科学や陰謀論を都合よく利用しておきながら、それを異なる勢力に奪われたからと言って、何を急に被害者のような顔をして慌てているのだろう」とさえ思います。

乱暴に言うと、日本の農業がオーガニックか否かなど、今この社会が置かれた状況とタイミングにおいては本当に議論の価値の少ない、些末なテーマにすぎません。
まだ遅くはないと思います。
オーガニックカルトが本格的に私たちの社会に牙を剥き始めた今こそ、オーガニックに関わる人々は本気で自己点検をおこない、彼らがどこからやってきたのかに向き合い、その上で差別と排外主義に決然と反対の声を上げてほしいと、切に願っています。


(※1)コムアイ、参政党に言及「オーガニック志向だし」「わかるよ?わかるけどさ!」自身の支持政党明かす(まいどなニュース)
(※2)大野和興「国家主義、排外主義をオーガニックでくるむ参政党に異議あり 有機農業に関わる農民・市民団体が声明」(Yahoo!ニュース)

 

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筆者

熊宮渉(ダイアログファーム代表)

 

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