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第2回 米国農業界が歓迎した理由──農家・農業団体は何を評価したのか【ラウンドアップ米最高裁判決】
米国最高裁の判決後すぐに、*農業団体や農業関連団体は相次いで歓迎声明を発表した。
全米大豆協会(American Soybean Association、ASA)
全米トウモロコシ生産者協会(National Corn Growers Association、NCGA)
全米農業小売業協会(Agricultural Retailers Association、ARA)、
米国農薬業界団体(CropLife America)、
ミズーリ州農業局(Missouri Farm Bureau)など
除草剤ラウンドアップは米国農業にとって最も重要な除草剤であり、農業界が判決を歓迎したこと自体は不思議ではない。
注目すべきは、その理由である。農業団体が評価したのは、一企業の勝敗ではなく、科学に基づく全国共通の規制ルールが維持されたことだった。EPA(米国環境保護庁)が科学的根拠に基づいて運用してきた農薬登録制度そのものである。
その考え方を最も分かりやすく示しているのが、全米大豆協会(ASA)の声明である。
「農家が農薬を安全かつ責任ある方法で使用するためには、明確で一貫した表示と、全国で統一された規制制度が不可欠である。今回の最高裁判決は、科学に基づく連邦規制の役割を明確にし、規制プロセスにおいて健全な科学が果たす重要性を改めて確認した。」
さらにASAは、グリホサートの安全性についても次のように強調した。
「EPAは世界各国の規制当局と同様に、数十年にわたりグリホサートは適正に使用すれば発がんリスクは認められないとの結論を繰り返し示してきた。州ごとに異なる表示義務を認めれば、EPAが承認したラベルと矛盾する規制の寄せ集めが生まれ、農家に混乱をもたらすだけでなく、規制制度への信頼を損ない、不可欠な作物保護資材へのアクセスを制限することになる。」
農業界が守ろうとしたのは「農薬登録制度」そのもの
米国では、新しい農薬を販売するにはEPAによる登録が必要になる。
メーカーは毒性試験、環境影響評価、残留試験など膨大なデータを提出し、EPAは何年にもわたってその内容を審査する。その結果、安全性と有効性が確認された農薬だけが登録され、市場で販売される。
農家は、この科学的審査を経た農薬を使用している。
ところが今回の裁判では、EPAが承認したラベルとは別に、州法によって「発がん警告を表示すべきだった」として原告から企業責任が問われた。
もし、この考え方が最高裁で認められていれば、EPAの審査を経て登録された農薬であっても、州ごとの陪審判断によって「本来は別の警告が必要だった」と判断されることになる。
農業団体が危惧したのは、まさにこの点だった。
彼らにとって問題だったのは、ラウンドアップという一製品なのではない。
数十年かけて築かれてきた米国の農薬登録制度そのものが、州ごとの民事裁判によって揺らぐことへの危機感だったのである。
農家が恐れたのは「ルールが変わる」こと
農業経営において最も重要なのは、将来を見通せることである。
どの農薬が登録され、どのような条件で使えるのか。そのルールが安定しているからこそ、農家は作付け計画を立て、農薬メーカーは新しい製品の研究開発に投資できる。
しかし、州ごとの裁判によって、EPAが認めていない警告を後から義務付けられるようになれば、全国共通だったルールは州ごとに異なるものへと変わってしまう。
農薬メーカーは将来の訴訟リスクを避けるため、販売中止や価格引き上げ、新規製品の開発縮小を迫られる可能性がある。
その影響を最終的に受けるのは農薬メーカーではない。農家である。だからこそ、多くの農業団体は今回の判決を、「一企業の勝利」ではなく、「農業を支える制度が維持された判決」と受け止めたのである。
農薬の安全性は科学的評価に基づいて判断されるべき
今回の判決に対する農業界の反応を振り返ると、そこには一つの共通した考え方が見えてくる。
それは、「農薬の安全性は、科学的評価に基づいて判断されるべき」という原則である。
もちろん、科学的知見は将来更新される可能性がある。新たな証拠が得られれば、EPAが登録内容を見直すこともあり得る。
しかし、その判断は科学的データに基づいて行われるべきであり、州ごとに異なる陪審評決によって左右されるべきではない──。今回の歓迎声明には、そうした米国農業界の共通した問題意識が色濃く表れていた。
ラウンドアップをめぐる議論は今後も続くだろう。しかし、少なくとも今回の判決によって、「科学に基づく規制を尊重する」という米国農薬行政の基本原則は、最高裁によって改めて確認されたといえる。
次回予告
農業界が歓迎した今回の最高裁判決だが、なぜ最高裁は7対2という大差でバイエル勝訴と判断したのか。
第3回では、「ラウンドアップ最高裁判決、バイエルが勝訴した理由」と題し、判決文をもとに、その法的ロジックを分かりやすく解説する。争点となったのはラウンドアップの安全性ではなく、「国が科学的根拠に基づいて定めたルール」と「州法による企業責任」のどちらを優先すべきかという点だった。最高裁が示した判断の本質を読み解く。
第3回へ続く〉〉
筆者浅川芳裕(農業ジャーナリスト、農業技術通信社顧問) |



