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バイエルはモンサント訴訟を解決するために和解を選択、今後は陪審員から科学者の判断へ

ニュース

(2020年6月24日):Bayer
「Bayer announces agreements to resolve major legacy Monsanto litigation(バイエルは主要なモンサント訴訟を解決するための合意を発表)」

以下要約

バイエルは2020年6月24日、米国ラウンドアップ訴訟、ジカンバドリフト訴訟、PCB水訴訟など、主な未解決のモンサント訴訟を解決する一連の合意を発表。これにより、約12万5千件の申請済み及び未申請を含む米国ラウンドアップ訴訟の約75%が終了する。

「ラウンドアップ訴訟の和解の決定は、バイエルがこれまでの3件のラウンドアップ訴訟の判決によって起こった長期に渡る混迷に終止符を打つための適切なタイミングかつ適切な行動である。そして重要なことは、グリホサート系除草剤の安全性と有用性についての対話を科学および規制の場に、そして科学全体のあるべき姿に戻すことだ。将来のリスクと不確実性を考慮し、この和解はバイエル、その所有者、及びすべての利害関係者に最も効率的で経済的に合理的な結果だ」とバイエルCEOのWerner Baumann氏は述べた。

「和解」の概要とプロセス

和解に関連する現金の支払いは、2020年に開始予定。支払いについてバイエルは、2020、21年に50億ドル未満と想定している。残りは2022年以降に支払われる見込み。また同社は、既存の余剰流動性、将来の純現金収支、アニマルヘルスの売却による収益、追加の債券発行により、税務処理の対象となる資金を調達し、和解金の支払いや、今後の債務償還に柔軟に対応する。

同社は、格付機関が公表する出版物や、格付け会社とのコミュニケーションをもとに、投資グレードの信用格付けを維持できると考えている。また、基盤事業が堅調であることから、同社は配当政策を継続する意向である。同時に、貸借対照表のレバレッジ削減は依然として優先度の高い課題。

同社は、現在のラウンドアップ訴訟の解決に向けて、未解決の申立ての引当金を含む88億ドルから96億ドルの支払いと、将来の訴訟に対処するために、12億5千万ドルを支払う。ラウンドアップ集団合意は、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所のVince Chhabria判事による承認を条件とする。同決議は、バイエルの取締役会および監査役会により、その特別訴訟委員会からの意見をもとに全会一致で承認された。本合意には、責任または不正行為の容認は含まれていない。

今後は、陪審員裁判から専門家である科学者の手に

今後の訴訟は、裁判所の承認を条件とする集団協定によって管理される。この合意には、将来、原告になり得る可能性がある集団の設立と、独立した小委員会「サイエンス・パネル」の設立が含まれる。 サイエンス・パネルは、ラウンドアップが非ホジキンリンパ腫を引き起こす可能性があるかどうかなどを科学的に判断する。

合意された資金の上限は、12億5千万ドルで、非ホジキンリンパ腫の治療に関する研究、十分な治療を受けていない地域での非ホジキンリンパ腫の診断プログラム、およびサイエンス・パネルの決定前に非ホジキンリンパ腫を発症し、その間に支援の必要性があると判断された集団訴訟メンバーへの支援金を支払う。サイエンス・パネルが検討した資料のうち、バイエルに開示する許可を得ている、またはパブリックドメインであるとみなした資料は、一般ウェブサイトに掲載される。この一般的な因果関係に関するサイエンス・パネルの決定は、陪審員裁判(詳細はこちらとこちら)の審理から外れ、専門家である科学者の手に委ねられることになり、集団訴訟メンバーと企業の双方が拘束されることになる。

将来発生する可能性のある訴訟は、陪審員ではなく、サイエンス・パネルが判断する。サイエンス・パネルがラウンドアップと非ホジキンリンパ腫の因果関係がないと判断した場合は、集団訴訟メンバーは、今後同社に対する訴訟において、因果関係の主張ができなくなる。また、サイエンス・パネルの決定には数年かかると予想される。その間、集団訴訟メンバーは、サイエンス・パネルの決定前にラウンドアップに対する訴訟を進めることはできず、懲罰的損害賠償を求めることはできない。

リスク評価により「和解」を選択

バイエルは、和解を決定する前にラウンドアップ訴訟を継続する選択肢も検討したと述べた。同社のリスク評価において、訴訟を増加させる広告の増加や原告数の増加(※訴訟ビジネスについてはこちらをご覧ください)、年間20件以上の裁判、不確実な陪審員の結果(詳細はこちらとこちら)、関連する風評やビジネスへの影響など、今後の訴訟がもたらすであろう潜在的な悪影響は、和解金および関連費用を大幅に上回る可能性があり、今回の判断に至った。

和解に参加する者は、訴訟を棄却するか、提訴しないことに同意する必要がある。請求手続きが進行するまでは、この合意の下で補償を受ける資格を有する請求者の数は確定しない。弁護士事務所が、テレビ広告で集めた原告の健康状況について把握していない例があり、和解に参加できる原告の数は決まっていないからだ。

バイエル監査委員会のコンサルタントであり、Skadden, Arps, Slate, Meagher & Flom LLPの集団不法行為・保険・消費者訴訟プラクティスグループを率いる集団不法行為の専門家であるJohn Beisner弁護士は、「様々な選択肢を考慮した上で、この計画は訴訟によって提起され、複雑に争われている問題に対して、包括的かつ合理的な解決策であると確信しています」と述べた。

同社は、人々の健康の改善に取り組む科学に基づく企業として、病気に苦しむすべての人に大きな共感を示し、その求めを理解していると言及した。しかし同時に、これらの決議には、責任または不正行為の容認は含まれていないことを強調し、ラウンドアップは発がん性を有するという科学的根拠はないため、この訴訟で申し立てられている病気の責任を負わないことも示した。

モンサント訴訟に対するバイエルのプレスリリースに関するFAQ

Q 和解ということは、グリホサートの発がん性を認めたということでしょうか?
A そうではありません。
訴訟ビジネスが横行する米国では、弁護士事務所がラウンドアップ訴訟を増加させるために、ネット広告からテレビ、ラジオCM、YouTube広告を活用して原告を応募しています。そのため、ラウンドアップ訴訟の原告数は増加しています。

それに米国の裁判の特殊性も知る必要があります。アメリカでは民事訴訟の場合、陪審員を51%の心証割合で説得できれば、被告の過失による不法行為が証明され、賠償金を支払うことになるのです。科学者ではない陪審員はどちらの主張が科学的あるいは医学的に正しいかを判断することはできません。つまり、裁判の結果も科学的ではなく、心象に左右されています。

このような背景から、今後も訴訟件数の増加や裁判での敗訴が想定されます。バイエルは、ラウンドアップ訴訟を継続する選択肢も含めてリスク評価をした結果「和解=訴訟の取り下げ」を戦略的に選んだのであって、グリホサートの発がん性を認めて、和解せざるを得なかったわけではありません。

Q ではなぜ、発がん性を認めていないのに1兆円も支払うのでしょうか。
A リスク評価の結果、ラウンドアップ訴訟を継続するリスクが、和解金とそれに伴う関連費用を大幅に上回る可能性があるからです。

米国では、訴訟ビジネスにより原告数は増加を続けています。このまま「もし、あなた自身あるいは愛する人がラウンドアップに接触したことがあれば、補償される権利を有するかもしれません」 といった原告募集の広告が流され続ければ、原告数はますます増加するでしょう。

また陪審員による裁判において、“健康被害にあった原告(ラウンドアップとがんの因果関係が証明されていなくても)”と、“ラウンドアップ製造企業”のどちらを信じる陪審員が多いでしょうか。心象を重視する陪審員制度において、バイエルは不利な状況であることは確かです。

そうなると、原告数も敗訴もさらに増加する恐れがあります。さらに、個々の長引く裁判や、風評によるビジネスへの悪影響など潜在的なリスクは計り知れません。そのコストは、今回の和解金とそれに伴う関連費用を大幅に上回る可能性があるため、バイエルは苦渋の決断で和解金を支払うことに踏み切りました。

今後のラウンドアップ訴訟については、個々ではなく原告になりうる集団の設立と、ラウンドアップとがんの因果関係を科学的に判断する独立した「サイエンス・パネル」が設立されます。さらに今後の訴訟は、陪審員ではなく、サイエンス・パネルが判断します。サイエンス・パネルがラウンドアップとがんの因果関係がないと判断した場合は、集団訴訟メンバーは、同社に対する訴訟において因果関係の主張ができなくなります。

つまり、現時点での原告については和解金を支払い、訴訟を取り下げてもらいますが、今後はグリホサートの安全性の議論を、訴訟ビジネスを行う弁護士と陪審員による裁判という「心象に左右される判断」から、サイエンス・パネルによる「専門家集団による科学的判断」に移行したいというのがバイエルの和解に踏み切った理由です。

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