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トンデモハンターアベンジャーズ計画:13杯目【渕上桂樹の“農家BAR NaYa”カウンタートーク】

コラム・マンガ

トンデモを発信する人々は事実無根のことをいわばノーリスクで発信しています。それに対して科学的事実に基づいて正しい内容を発信する人々はリスクを負わなければなりません。個人となれば状況的に厳しい面があります。トンデモ退治には個人戦ではなく、団体戦で! 渕上さんは、トンデモハンターアベンジャーズ構想をぶち上げるのでした。


影響力を増すトンデモ発信

私は普段、農業をテーマにしたバーでお酒を作り、時々トンデモハンターとして農業の風評を追っています。

去年あたりから感じるのはトンデモ発信サイドが組織立ってきているということです。

豊富な資金を元に大学教授、元農水大臣、有名女優、一部週刊誌などが連携して、陰謀論にも似た農業トンデモを大々的に展開しています。

その内容は、「種苗法改正でタネが海外の企業に支配される」「世界中が禁止する除草剤を日本だけが規制を緩めて受け入れている」「給食を有機野菜に! なぜなら農薬の影響で発達障害になるから」など、農業を少しでも知っている人なら「あれ? おかしいぞ?」と思えるようなものばかりです。

しかし、大半の人はそうでないので、「○○はこんなにも危険!」と感情に訴えられると素直に感化されてしまうこともあります。

私のバーは農業をテーマにしたお店なので、たまにトンデモを真に受けて不安になったお客さんと話すこともありますが、ユーモアを交えて丁寧に話せばだいたい安心して笑ってくれます。

とはいえ、最近ではトンデモ発信も勢いを増しており、クラウドファンディングで資金を集めて映画を製作するなど、やり方が大胆になってきています。

カウンターでの会話でも、彼らが以前よりも影響力を増しているのを感じます。

リスクを負いながら
トンデモに対抗する人たち

一方で、そうしたトンデモに対抗する人たちもいます。

AGRI FACTでは、知識豊富な専門家たちが様々な風評をファクトチェックしていますし、現役農家や農業関係者などの現場の声を記事にしています。

ほかにも最近ではSNSで農業関係者が正確な情報を発信するようになりました。

ですが、組織立って活動するトンデモを前にすると、まだ弱い印象です。

ファクトチェックが大切なのは言うまでもありませんが、風評を検証するのはその性質上どうしても後手に回りがちです。

農業団体・農水省・メーカーなどの情報発信も同様ですし、そもそもトンデモに対抗する風土が育っていません。

また、どこにも所属していない個人、あるいは所属を公表したくない個人は農薬などに関するトンデモに反対意見を表明しにくいのが現状です。

たとえば私が以前、地元政治家候補者の講演会を聞いたときのことです。

根拠なく農薬の不安を煽る内容だったので、「風評被害を招くので訂正してくれませんか?」と申し出ました。

すると、「それじゃあ、あなたが堂々と農薬は安全だと発信してみたらどうですか? できますか?」と挑戦的に言われたことがあります。

これが示すのは、事実無根のトンデモはノーリスクで発信できるのと対照的に、科学的事実に基づいた農薬の安全性を発信するのにはそれぞれの個人がリスクを負わなければならないという理不尽な現状です。

やられっぱなしともいえるこの状況、どうすれば変えられるのでしょうか? それは、他の事例から学ぶことができます。

たとえば、一時期は深刻だったアメリカ産牛肉の輸入問題や福島県産の農産物・水産物の風評被害。

自治体や政府と連携して力を借りることで輸入規制は解除され、現在は解消に向かっています。

福島県産の危険性を根拠なく煽る言動には、一定のリスクが伴うようになりました。

医療の分野では、ワクチンの誤った情報に対して有志の医師たちが連携して対応していますし、テレビなどのメディアとの協力は接種率向上に効果を発揮しています。

このように、根拠ない風評に対抗するには連携が必要不可欠なのです。

トンデモには関係者が連携を組んで対応を

農業トンデモに対しても、連携するときが来たと思います。

テレビなどのメディアや政府と連携するのはまだ先かもしれませんが、まず取り掛かれることがあります。

それは、農業にある程度知識を持つ個人が集まってチームを結成することです。

ハッシュタグをつけるのでも良いですし、「みんパピ」のようなクラウドファンディングを立ち上げるのも良いかもしれません。

必要なのは「トンデモを放置せず、事実に基づく情報を発信する」という理念を元に連携する枠組みを作ることです。

名付けて“トンデモハンターアベンジャーズ計画(仮)”。

AGRI FACTには豊富な知識を盾に理論を展開する知恵のキャプテン・アメリカがいます。

でも、キャプテンに頼るだけでは不十分です。

ファクトは何よりも大切ですが、それだけでは広く共感を集めることはできないからです。

鋼のメンタルでトンデモの発信源に立ち向かうメンタルアイアンマンも必要です。

それぞれの地元で広い網の目のようなネットワークを持つコミュ力スパイダーマンも必要です。

生産現場のリアルな声を矢継ぎ早に発射する農家ホークアイは援護射撃で活躍するでしょう。

農業トンデモは医療トンデモと深く結びついているので、農業に関心の高い医師、農業ドクター・ストレンジが味方にいると医療の分野とも連携が期待できます。

かわいさで親近感を呼び、ユーモアを得意とする仲間も欲しいですね(たしかそういうキャラもいたような気がする)。

所々設定がおかしいかもしれませんが、ちゃんと映画を観たことがないのですみません。

ちょっとふざけて書きましたが、こういう軽いノリの方がみんなが参加しやすいのでは?と思ったのです。

仲間がたくさんいれば個人でも農薬などのトンデモ情報に毅然と答えやすくなります。

自治体や国も科学的事実に基づいた正しい声を無視できなくなります。

メーカーや農水省などが積極的に発信してくれることも期待できます。

また、将来的には科学リテラシーの高い政治家やメディアが育つかもしれません。

農業関係者も、消費者も、もっと信頼し合える世の中が作れるはずです。

中には「そういうやつは放っておけばいい」という声もあります。

しかし、それは本来必要のない風評被害に悩む農業関係者、不安を感じる消費者、不安商法に誘導される人たちを目の前にして「見てみぬふりをすればいい」と言うのと同じです。

自分の子供に同じことが言えるでしょうか?

トンデモハンターアベンジャーズの答えは決まっています。

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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