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「農家さんを救いたい!というアイデアと誤解」:26杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

「長崎を盛り上げたい」「街づくりがしたい」と活動する人がアイデアを持ってたまに来店されることがあります。私はお店でお酒を作ったり、農地を開拓したりはしますが、そういう大きな構想を考えたことがあまりないので、聞かせてもらうお話はいつも楽しみにしています。彼らの中には農業に注目する人も少なくなく、「農業を盛り上げたい」と言ってくれることもあります。私の周りには農家や農業関係者が多いので、こうして注目してもらうのは純粋に嬉しいものです。そして、中には「苦労している農家さんのために」「農家さんを救いたい」という思いでアイデアを持ってきてくれる学生さんやビジネスパーソンもいます。今日はそれをいくつかご紹介したいと思います。

アイデア① 規格外野菜の有効活用

一番多いのが「行き場のない規格外野菜を買い取って、農家さんの助けになりたい」というものです。
規格外野菜には不思議な魅力があるのか、「農家さんのために」「規格外野菜を集めたい」というのはセットでよく耳にします。
私もパプリカを作っているときにたびたび聞かれましたが、規格外は狙って作れるものでもないので安定して作れませんし、使い物になるとも限らないので双方にメリットが薄いんです。

また、商売的な話をすると、規格外を安く買ってもらっても普通の野菜の売れ行きにしわ寄せがいくだけなので、普通の野菜を普通に買う方が「農家さんのために」なります。
このあたりの話はナス農家の「ナス男」さんが書いたコラムがリアルで参考になると思います。
飲食店は規格外野菜をどう思っているのかは私の過去のコラムで述べましたので、そちらも参考にしていただければと思います。

アイデア② 直接農家に会いに行く

「農家さんに手を差し伸べたい」人が考えるのが「農家さんのところに直接会いに行く」というものです。
具体的には「想いを直接聞きたい」「消費者に届けたい」となります。

テレビのバラエティ番組などでタレントさんがふらっと農家の元を訪ね、農産物のおいしさを新発見し、面白い話を聞かせてもらった上に心温まる親交が生まれた、というシーンを見たことがあると思います。
テレビの企画としては面白いですが、実際の畑は農家の仕事場ですし、そこにいる農家は仕事中です。

「話を聞かせてください」と訪ねて行っても、満足いく対応ができるかどうかはわかりません。
私は仕入れなどで農家を回ることも多いので「善い事」としてやっていると捉えられることもありますが、たまたま農家の知り合いが多いからやっているだけです。

アイデア③ マルシェを開いて農家さんを集めたい

これは、「地方創生をしたい」という東京の会社さんからのアイデアでした。
「農家さんの魅力を再発見したい」という企画だったのですが、気になったのは農家の出店料がかなり高かったのと、会社の人たちがずっと東京にいて長崎に来ないことです。

「JAを通さないので農家さんの利益になる」というアイデアでしたが、農作業を休んでマルシェに出店するとなるとそれだけ売上がないと元が取れませんし、普通に出荷するのと比べて対面販売は神経を遣うことが多いので労力がかかるんです。
「直接お客さんに野菜を売りたいなあ」と思う農家もいるかもしれませんが、そう多くはないと思います。

現実とかけ離れた“農家像”

こうしたことがあって、「農家さんを救いたい!」とアイデアを持ち掛けられるときは「今回は大丈夫かな?」と心配になるようになりました。

そもそも、「農家さん」は救いの手を差し伸べなければならない存在なのでしょうか?
「農家さんを救いたい!」という想いは「善い事」なのでしょうか?

どれほど純粋な気持ちで「善い行いをしよう」と願っても、現実とかけ離れた“農家像”を思い描いていては、生み出されるアイデアが現実とかけ離れてしまうのも当然です。
このあたりは久松達央さんの著書『農家はもっと減っていい』にわかりやすく書かれています。

ちなみに、「農家さんのため」に働いている人たちは実際にはたくさんいます。
稲刈りの季節になるとあちこちの農家のコンバインを次々直して回る整備士さん、自分が開発した新品種が気になって何度も畑に来てくれた種苗メーカーさん、電話があればいつでも現場に駆けつける営農指導員さん、市や県には親身になって相談に乗ってくれてアドバイスや調整をしてくれる職員さんもたくさんいます。
過去にも、現在にも、私が知っているだけでも数えきれないくらいたくさんのプロフェッショナルたちが「農家さんのために」働いているのです。
その献身のいくつかは称えられましたが、多くは知られていません。

もしかしたら、こうして働く人たちのことをバーのカウンターで、ラジオ番組で、丁寧に、正直に、わかりやすくお話しすることも、「農家さんのため」の仕事になるかもしれないと、ちょっと思ってみました。

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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