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Part3 商業栽培開始への道筋その1 座談会:日本で遺伝子組換え作物を栽培するにはどうすればいいか【遺伝子組換え作物の生産とその未来 】

特集

【座談会】日本で遺伝子組換え作物を栽培するにはどうすればいいか

西南農場有限会社(北海道長沼町)
代表取締役
宮井能雅
1998年と99年に遺伝子組換え大豆を栽培。「ヒール・ミヤイの憎まれ口通信」を連載中。

トゥリーアンドノーフ株式会社(鳥取県鳥取市)
代表取締役
徳本修一
2012年に営農を開始。自社のYouTubeチャンネル「農業法人トゥリーアンドノーフ」の登録者数は3万9,500人に上る。

科学ジャーナリスト
小島正美
元・毎日新聞社勤務。著書に『誤解だらけの遺伝子組み換え作物』(エネルギーフォーラム)などがある。

昆吉則(『農業経営者』編集長)

 

 本誌は今年の10月号から遺伝子組換え(GM)作物の特集をスタートさせました。その一環としてこの座談会を企画しています。農業経営者の宮井さんと徳本さんにはGMに強く望んでいることを語っていただきたいです。それを受けて、小島さんには助言や感想を加えていただければと思います。

小島 GM以外のゲノム編集も議論に入るんですか?

 いや、できればGMでお願いします。

小島 なぜ聞いたかというと、9月14日に東京で開いたオランダ映画「WELL FED」(注:GM作物をテーマにしたドキュメンタリー)の上映会に来ていた農研機構の研究者はずっとGMの研究をやっていた人なんですけど、もう農研機構としては半ばGMをあきらめたと。だから、もうこれ以上国産のGM作物は出てこないと思います。出てこないっていうことになると結局GMの種子をどこから買うかというと、現実的にはアメリカかカナダしかないですよね。そうすると必ず外資の大企業の利益になるだけとかいう反対が予想されます。ほんとは国産があると一番いいんですけど、国はゲノム編集に力を入れています。その映画についてのお知らせを農水省の関連団体のメルマガに載せてほしいって言ったら、もうゲノム編集しか相手にしませんと言っているんですよ。もはや国の視野にはGMは入っていないということですね。そういう状況の中で生産者がGM種子を植えようということになると、かなり戦略的にやらないと成功しないと思いますね。

参考

 GMとゲノム編集は何が違うかということを説明しておきましょう。

小島 それは、外の動植物から遺伝子を入れられたかどうかだけの差です。外部から遺伝子が組み入れられた作物や生物の場合は安全性評価が義務づけられているので、すべてのゲノム配列も調べられた上で安全性がチェックされています。なので、GMのほうがむしろ安全だと言っている科学者もいっぱいいますよね。ゲノム編集は、従来の品種改良と同じなんですが、安全性の評価という点に限れば、GMのほうが信頼できるともいえますね。

 つまり、GMのほうがはるかに多くのチェック機能が働いていて、現実にはむしろ信頼性が高い。にもかかわらず、GM作物の世間の位置づけはそうじゃない。しかも、少なからぬ科学者までもがGM作物を語るとゲノム編集も同列に見られてやりづらくなるという問題があります。科学者の態度としてはとんでもない話で、GMをもっと積極的に語ってほしいですね。

小島 確かにそうですね。もっとも、日本の場合はゲノム編集作物や生物でも一応政府がゲノム配列全部を審査しているので、実質的にはGMと同じことをやっているんですけどね。ただし今後、海外から入ってくると思われるゲノム編集食品はそこまでの審査をやっていないので、ゲノム編集でできた輸入品が議論になりそうな気がします。いずれにせよ、外部から遺伝子を持ってこないゲノム編集技術には応用範囲に限界があります。やがてGMが再評価されると思います。

GM作物を手がけたい理由

 お二人はなぜGMをやりたいんですか。

徳本 僕は、土地利用型農業をやっていまして、2030年までに1000haは集積したいと思っています。

 現在の面積は?

徳本 80haです。1000haっていうのは別に大きくなくて、鳥取市だけで基盤整備の終わっている田んぼが3300haあるんで、その30%のシェアを取るっていうのは実現可能だと思います。今後、年間150%増くらいで集積していくんですけど、その中でさらに省力化された生産性の高い農業でやっていく必要がある。それが今後の経営をやる上でのポイントだと思っています。その観点から、僕自身はGMに注目している。例えば、アメリカの特定除草剤耐性の穀物は不耕起播種です。除草も減らせて収量も取れるというのは、生産者にとっては非常に魅力的で、しかも不耕起で炭素を封じ込めるからCO2も減らせるので今の環境保全型農業にマッチしている。

 みどりの食料システム戦略でGMを言わないっていうのはおかしいよね。

徳本 なんで日本ではGMって言っただけで頭ごなしに叩かれるのか。

 あなたがYouTubeに出したらよっぽど来た?

徳本 来ます来ます。でも僕、そういうのは楽しむんでわーっとやりとりするんですけど、彼らは一切変わらないですよ。なんかホラー映画の「バイオハザード」に出てくるお化けみたいじゃないですか、彼らの認識は。だから、例えばWHO(世界保健機関)のGMのデータを出しても一切読まない。頭ごなしに否定する。それと、欧米では干ばつ耐性とかが多いですけど、僕ら日本海側の水田地帯では湿田耐性に非常に魅力を感じますよね。機械を入れて、多少は改善できるけど、限界がある。だったらもっと湿害耐性のあるトウモロコシ、大豆とか。そういうのである程度湿田でも収量が担保できると。理想はそこに特定除草剤耐性があって、さらにトウモロコシで特定害虫耐性があれば。そういうのを考えていくと工数も減らせるし収量も安定する。いいことだらけですよね。これから大規模化をする上で必須の技術です。別に僕はGMだけにこだわっているわけじゃないですけど、ちゃんといいものを適材適所で取り入れて次の時代の新しい農業を作っていかないと、日本の農業、特に水田という資産価値が活かせないまま日本の農業は弱まっていくのではないかと思っているんで。

グルホシネート剤を散布したGM除草剤耐性大豆

グルホシネート剤を散布したGM除草剤耐性大豆
(写真提供:宮井能雅氏)

 宮井さん、あなたがGM大豆を播いたのはいつでしたっけ?

宮井 1998年と99年に5haずつ。

 そのときはあなたと宮崎の長友勝利さん(故人)の二人だけだったの?

宮井 そうですね。

 そのときなぜ、それをやろうと思ったかをまず話してくれませんか。

宮井 GM大豆が、日本で1995年に内閣の食品安全委員会において、アメリカで同時期に許可されたGM作物の安全性は既存の作物と同等であると認めた。既存の作物と同等であるという政府のお達しが出ているんです。つまり、流通しているGM作物に危険性があるんだったら、既存の作物も危険だということになる。次に96年からコーンが、97年に大豆の商業栽培がアメリカで始まった。試験で97年に自分の庭でやったわけ。そうしたら全然これは問題ない。その後、バイオ作物懇話会が2001年にGM大豆の栽培試験を行って、2002年までは特に問題がなかったんだけど、2003年に収穫まで見る計画で進めていたところ、開花直前に反対派の生産者がトラクターですき込みました。これがメディアにドカーンと出ると、みんなに知られちゃったんですね。そういうことになってみんな反対だと。

宮井能雅氏

 「宮井がいなければ、こんな規制が厳しくならなかっただろう」という意見もあるよね。

宮井 そうそう、僕がいなければ申請だけでできた。でも事件の後、僕がやるって言っていたら許認可になって30何万払って、決算書類もでかい厚いスコップ1個まで財産目録書けって。今度大学出じゃないとだめだとかね。近隣町村の人を集めて集会やれと。非常にハードルが高くなった。

 小島さんが言ったように、農研機構も逃げちゃったみたいですね。

宮井 北海道大学も冨田房男先生、浅野行蔵先生、今は曽根輝雄先生っていらっしゃるんですけど、曽根輝雄先生が退官したら研究室がなくなるって言うんですよ。だから、北海道大学でもGMはもうやらない。ゲノム編集は山田哲也先生がやっていますけど。

小島 宮井さんは98年と99年でやって、なんで3年目はやらなかったの?

宮井 モンサントはミズーリのセントルイスに研究所があるでしょ。大豆の商業栽培は97年からですけど、最初のころはあのへんの緯度に適合する大豆から作り始めたの。だから、日本でいったら福島とかあのあたりなんです。大豆を作っている人ならわかるんだけど、福島の大豆を北海道に持ってきたって真っ青になって刈れない。マチュリティ(成熟段階)っていうのがあるのでね。北海道は北海道に合うマチュリティで例えばアメリカではアイオワの北とかミネソタの南あたりの大豆がいい。それで反対派が言っていた一部地域でGM大豆を作ったけど収量が低いっていうのはそのことなんですよね。既存の大豆でも北海道であのころ、反4俵以上採れた。ところが、GM大豆でやったら反3俵しか採れなかった。2000年くらいから、緯度別に収量の上がるものが出てきた。モンサントもしくはモンサントが許可した種会社で、大豆で100種以上あったかな、そこから手に入るというのがわかったんで、じゃあもう1回試験をやろうと思って2005年からやろうと。このマチュリティの話だってこうして話せば理解されるけど、誰も聞かないからね。農家ですら聞きに来ないし。北大農学部も聞きに来ない。

 小島さん、今の2人の話を聞いて特に徳本さんに思うこと、宮井さんについての感想を聞かせてください。

小島 難しいね。確かに新しい技術としてGMを捉えるという点では徳本さんのおっしゃることに大賛成でぜひやってほしいなと思います。そこで結局、国産のGM作物があれば一番望ましいと思うけど、それがなかなか出てこない。そこが大きなネックだとは思いますね。アメリカで生まれた種子を使えば、反対運動の人たちのターゲットにされちゃうので。昔、バイオ作物懇話会の長友さんもそういうことをしょっちゅう言っていたんですよ。モンサントが開発したGM大豆を使うと、どうしてもモンサントが攻撃対象になり、その流れ弾が自分にも飛んでくる。なんとかして国産のGM大豆を作ってほしいと言っていたんですけど、農研機構はそれができなかった。なぜできなかったかというと、結局、反対運動に押しつぶされたといえますね。大手食品メーカーのキリンも興味を示していたんですけど、やはり反対運動に勝てなかった。最初の段階から、実現可能性の高いGM作物を目指して、国とメーカーが提携していれば、もっと違う道もあったかなと思います。

 宮井さん、あなたが受けた被害はどんなものでした?

宮井 夜中に無言電話もあるし、有言電話で脅しでしょ。僕も楽しんでいたから、やればって。あと、行政の方のでしょ。農研機構の人からの脅しですよ。

 長友さんはどんな被害を受けたんですかね。

宮井 長友さんは畑を荒らされた。茨城の知り合いのところでは全部根こそぎショベルカーでつぶされ、警察に被害届を出したけど、全然警察が相手にしてくれなかった。

小島 そうそう。

その2へ続く

 

※『農業経営者』2022年12月号特集「日本でいよいよ始まるか! 遺伝子組換え作物の生産とその未来Part3 商業栽培開始への道筋」を転載

【遺伝子組換え作物の生産とその未来 】記事一覧

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