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Part3 商業栽培開始への道筋その3 座談会:日本で遺伝子組換え作物を栽培するにはどうすればいいか【遺伝子組換え作物の生産とその未来 】

特集

【座談会】日本で遺伝子組換え作物を栽培するにはどうすればいいか

西南農場有限会社(北海道長沼町)
代表取締役
宮井能雅
1998年と99年に遺伝子組換え大豆を栽培。「ヒール・ミヤイの憎まれ口通信」を連載中。

トゥリーアンドノーフ株式会社(鳥取県鳥取市)
代表取締役
徳本修一
2012年に営農を開始。自社のYouTubeチャンネル「農業法人トゥリーアンドノーフ」の登録者数は3万9,500人に上る。

科学ジャーナリスト
小島正美
元・毎日新聞社勤務。著書に『誤解だらけの遺伝子組み換え作物』(エネルギーフォーラム)などがある。

昆吉則(『農業経営者』編集長)

商業栽培に向けて

 ここまで話してくると、やりたいんだけど現実的に困難だって話にばっかりなって尻すぼみになっちゃうんだけど、ここらへんに光明があるんじゃないかなというような話題を出してもらえないですかね。

宮井 僕がやるんだったら飼料向け。ちゃんと契約が取れるから、飼料会社に持っていけばいい。さっき飼料用と言ったけど、正しくは飼料向けじゃだめなんです。搾油にしなきゃだめなんです。農水省に聞きましたから。1滴搾ればOKだから。飼料用としては交付金の対象だめだって。搾油用はアメリカのGM大豆種子でも交付金の対象だから。

徳本 さっき話に出たBTキャベツ、僕としては実際作って俺が食べると。このキャベツは農薬を使っていないとか言って。そういう時代のことがちゃんと正しく伝わってくれば、もっと違う展開もあり得たし、全然違う未来もあったんじゃないかな。

 徳本さんは自分のメディアを持っているから、そこでBTのものをむしゃむしゃ食べてうめえって言う。

徳本 ただ、すごく今のツイッターの反応とかを見ていると、ほんとにバイオハザードの世界観なんですよ、彼ら。

 モンスターね。

徳本 世界企業がどうたらって。ひどいフェイクニュースやデマでバズったりしていて。けっこうカオスなんですけど。まずは自分が食いまくること。生産者の声をちゃんと伝えること。農薬の使用量が減っているし、環境にも優しいし。冷静に見ると今、GMの穀物を不耕起でかなりやっているから温室効果ガスの排出が少ないとかも含めて。日本はGM品を輸入して今の飼料だったり油だったりとかがあり、恩恵を受けているという事実も全然伝わっていないんで。まずそういうことをちょっとずつやっていきたいなと思っているんですね。

 子実トウモロコシをやっているのを見るとアワノメイガの食害がひどいよね。

徳本 まあでも入りますよね、普通に。

小島 何か一つ成功させればいいんですよね。一つだけでいいんです。そうすると一つの成功例が突破口になり、前へ進みますよ。何をやるかですね。

宮井 パパイヤ。日本で売っているところないと思っているでしょ。

小島 レストランでやっていますよね。

宮井 ガンガン。スーパーで売っていないだけで、フルーツパーラーとか。

小島 だから、それもこういうレストランで出していますと記事を書いていいですかって聞いたら、絶対だめですよって言われちゃった。つぶされちゃうから。

小島正美

 それはどこ産?

小島 ハワイ。ハワイでGMのレインボーパパイヤもレストランは表示しなくてもいいようになっているの。スーパーで売るときは書かなきゃいけないんだけど。

 それは加工品になるわけ?

宮井 そうそう。切って売る。

 切っただけでも加工品になるんだ。

小島 加工品になる。

宮井 そのものをスーパーで売ったら買わないから。面倒くさい話になるから売らないで、どうせ買う人いないから。

 GMのトウモロコシや大豆をいっぱい使っているわけだけども。

小島 一部レストランで使われているっていうのは知っている人は知っているんで。

 バナナはどうなの?

小島 バナナはまだ普及していないんじゃないですか。

宮井 要は金持ちの国で作るものは生産者に負担をかけない。ところが、さっきの映画でもそうだけど、貧しい国は農業者を搾取している。

 要するに先進国ほど、特にEU諸国や日本みたいなところで、お金持ちのインテリほどこれを拒む傾向がありますよね。

小島 ほんとです。

 そもそも飢えていた時代に有機農業なんていう人は誰もいなかったんだけど、みんなが飢えなくなったらこうなる。金持ちになると不便を喜ぶようになるんだよね。それと同じ。

徳本 僕ももともとIT業界にいて同世代の投資家なんか付き合いが多いんですけど、そういう人ってやっぱりオーガニックだったり。

 おしゃれだからね。

徳本 アメリカのシリコンバレーなんか見ていてもヴィーガンだったり。要は代替植物であったり、そういうものに一種トレンドが先進国にはあって。意外とそこにお金と人が集まっていたり。しかも、彼らは発信力あるし、マーケティングもうまいんで、近代農業の技術を叩くというか。そういうものに今のZ世代とかそういう人たちも影響を受ける。僕もかつてはそっち側にいたんで、農業を始めたころは有機で大規模にやって、しかも最初は全部固定種でやっていた。でも、現実を目の当たりにして、これはいかんと思ったんですよ。それで品種改良とか、その一つとしてのGMもちゃんと議論していかないと最終的には環境が破壊されて自分たちが食えなくなる時代が来ると。だから、僕のYouTubeも一種マーケティングだと思っているんですよね。だから、かなり戦略的にやらんといけんなと思って。そこにおもしろさを感じています。

 さっきの映画監督と同じ立場だ。

徳本 あー、そうそう。

 実際農業をやってみて考えてきたということね。

徳本 世界的に見れば満腹な人たちが空腹の人たちのことを決めているっていう、歪な方向になっている。現在の自分は有機大規模でやっていたのとは真逆の世界に行こうとしているんで。

 宮井さん、今の話題についてどうですか。

宮井 まだやっていないからわからないと思うけど、まあみんなの協力を得ることは不可能だね。わかりやすい例でいえば民主主義は決まったことを実行する。つまり、過半数以下のことは実行しない。それがアメリカの民主主義。でも、ヨーロッパの民主主義は少数意見も入れるって書いてあるの。僕たちはどっちの民主主義を取るんだと。やっぱりアメリカ民主主義だよね。ところが、みんなのメンタルはやっぱり、特に野党の場合、ヨーロッパ民主主義の少数意見っていうのがあるじゃない。残念だけど、食糧危機みたいなのがない限りは変わんないだろうな。

徳本 おっしゃるとおり。

 今ウクライナを含めて、あるいはトウモロコシが高騰していることを含めて、半分そういうようなことを言う人たちもいる。実はこれ一過性のことだろうけど、せっかくみんなが危機だ危機だって言うタイミングはチャンスかもしれない。

宮井 ヤッパリ現実来ないとね。ブラジルは20年前にGM大豆を認めていなかった。でも、アルゼンチンのGM大豆を見て、こんな良いものはないってことになり、勝手にブラジルの生産者がGM大豆をやってしまった。

小島 でも、アフリカでザンビアだったっけ、映画の「フードレボリューション」にも出てくるけど、飢え死にしそうな人たちでもGM作物は拒否しているじゃないですか。GMトウモロコシを食べればいいのに、結局、餓死につながってしまう。それくらいイデオロギーっていうか人間の先入観っていうのは恐ろしいですね。人間は考える葦ですから、あるものを怖いと思ったら、生き延びることよりも飢え死を選択しちゃうっていうのは何なんですかね。宗教的な洗脳を感じますね。

宮井 旧宗主国イギリスだから。

 徳本さんは自身のYouTubeでいろんなことに取り組んでいるわけですが、GMに関して無知な人や反発する人に対してどう働きかけていくべきなんでしょう。徳本さんは売ることじゃなくて自分が食べてそれを映像にして拡散しようとしている。

小島 それはいいですね。

 まず農家たちの中で共感を集めると。

小島 私も2002年に初めてアメリカに行って、そのときの農家の人たちもGM作物の割合は1割とか2割だったんですよね。いきなり全面積にGM作物を植えたわけではないんです。みんな様子を見ながら徐々に増やしていったんですよね。それと同じだからとりあえず徳本さんがやってみて、これだけの成果がありましたっていうのを発信するだけでも、しかも自分で食べていますよと言えば、反発は少ないでしょう。たぶん記事にする人も出てくると思いますね。

徳本 そうですね。要は中長期的に見据えた上でこういう準備を始めていく。まずは自分たちで経験してみる。うちのはけっこう生産者が見るんで、水稲農家が。これまで水稲農家もGM作物についてはほとんど意識していなかったと思うので。

子実トウモロコシの播種作業

小島 生産者を集めてWELL FEDの上映会はできないんですか。Vimeoという動画サイトでもタダで見られるようになっている。日本語字幕も付いているし。

Well Fed from Phountain on Vimeo.

宮井 有機栽培農家に言われたんだけど、あんたは金だけのためにやっているのかって。おもしろいのはアメリカ人が話していたのは、普通のGMをやっている農家が、あいつら(有機農家)金のためだけにやっているんだって。

徳本 おもしろいですね。

宮井 逆なんだよね。なぜ言うかって聞いたら、俺たちは国内需要も任して輸出も十分できて、誰からも文句を言われる立場じゃないと。そういう自負が当然あるわけだから。

徳本 そういうインタビューもおもしろいですよ、絶対。僕、日本の農家がそういうやりとり見るとけっこうショックを受けるかなと思っている。というのは消費者の求める農家像みたいな、汗かいて一生懸命。何かそういうのでマーケティングをしているし。ああいうビジネスもずっと資金調達して永久に黒字化しないんですよ、見ていると。でも、あれだけお金が集まっていて、でも一応拡散力があるから、あれがフォーカスされてもっと日本の農業が良くなるなと思っている。

宮井 例えばいろんな反対派と話して必ず出てくるのは、あなた安全性の担保取れますかって、GM作物に関して。一番いいのはさっきの食品安全委員会が安全と言っていますというのが一つ。でも、必ず出るのは、今は安全だって言うけど未来はどうなるんだろう、あなた責任取れるんですかって。僕は答えられるよ、法律を根拠にですよ。アメリカは州によって違いますけど、日本では農家が作った農産物はPL法の適用除外ですからって。文句があるんだったら日本の消費者庁に言ってくださいって。 100年、50年後まで保証できるのかっていうのは要するに相手に大丈夫ですって言わせないための質問ですからね。いくら答えてもそれは解決しない。

小島 でも、正直なかなか日本の消費者が納得しないんですよ、それでは。

宮井 そうそう、感情論ではね。

 今回の最後のオチは徳本さんがやろうとしていること。売らないけども自分で食べてそのことを映像に、いろんな演出方法も考えながらやる。そこで農業者を中心に変化があるんじゃないかと。農業者自身がきちんと問題を認識して我々ももっと取り組まなきゃいけないという話くらいまでですよね。

小島 徳本さんがやってくれることは未来に開かれた選択肢の一つとして必要だということ。他の農家の方も賛同しなきゃいけないですね。

 多数派ではないかもしれないけど、望ましい方向に考えている若い世代の農業経営者はいますよ。

小島 みんなの理解を得てからやろうっていうのは難しいですよ。パイオニア的な1人がまずやって見せて、それについていくかどうかですよ、やっぱり。

 また、ゲノム編集が人々の理解を得るようになって、それを普及させてしまえば遡ってGMもOKという可能性もゼロではない。ゲノム編集で血圧を下げる効果があるというトマトを売り出したパイオニアエコサイエンスの竹下達夫氏が言っていたんですけど、「議論したってだめなんだよ。消費者を含んだマーケットが現実的にそうなっちゃえば変わるんじゃないのって」

全国の農業経営者よ、遺伝子組換え作物に注目せよ!

その4へ続く

 

※『農業経営者』2022年12月号特集「日本でいよいよ始まるか! 遺伝子組換え作物の生産とその未来Part3 商業栽培開始への道筋」を転載

【遺伝子組換え作物の生産とその未来 】記事一覧

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