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Vol.18 キクラゲ農家が「マイナー食材」問題を語る【農家の本音 〇〇(問題)を語る】

農家の声

みなさんはじめまして。愛知県豊川市のキクラゲ生産者の喚田恵子です。愛するキクラゲを全国に広めるべく、法人として純国産キクラゲを栽培しています。黒色キクラゲと白色キクラゲを約330㎡のハウスで生産していて、夫や従業員の方4.5名と就労支援施設の方も加えて栽培に当たります。出荷量は黒色キクラゲが30t、白色キクラゲが1〜2tほど。JAに出荷するほか、6次産業化による自社販売にも力を入れています。今回はマイナー食材とも言われるキクラゲ農家の奮闘物語にお付き合いください。

キクラゲ偏愛主義

もともとB型就労継続支援施設で働き、夫が親族の会社でキクラゲ栽培をしていたつながりで就労支援の一環としてキクラゲの栽培や出荷調整などに携わっていました。障がい者の方でも育てやすいという栽培面はもちろん、栄養が非常に豊富なのにあまり知られていないところや、日本で育てる事ができるのに国内流通のほとんどが外国産であることなど、この素晴らしいキクラゲを世にもっと広めねば! と思い、キクラゲありきでキクラゲ農家になる事を決心した根っからのキクラゲ偏愛主義者です。

善は急げ。よーし農家やるぞー! まずはキクラゲを栽培するハウスを建てよう。それには土地がいる。当然ですね。

しか~し、ハウスを建てるための農地(畑)を借りようとするも、何やら農地を借りるのは一般の人では簡単に借りられないという情報を入手したのです。

えっ、農業したいのに、農業できないの!? どうしたら畑を借りられるの? 教えて先生ということで、農家の先輩、知人を頼り、ネットを検索。

一般的には就農計画書や営農計画書など、具体的な利用計画をまとめた書類を提出したうえで、就農しないといけないとのこと。さらには農家として農業の実務経験が必要とのこと。
紆余曲折を経て、何とか農家になる事ができました! 夫の協力も得ながら、融資を受けてハウスを建て、キクラゲ栽培を始められたのは2020年になってからでした。

その後、農地を借りることはできても、買うことができない問題に直面! ある一定の面積以上、農業をやっていないと、農地(畑)の購入はできないとのこと(泣き)。農家への道は険しい……。

農家離れが進むなんて言うけど、農家に簡単になれないならなおさら農家減るじゃん、と思ったこともあります。それだけ不正も多かったり、生半可な気持ちではやれないということなのだろう、と今になって悟りました。

法人化するにあたっては、法人として就農するために改めて農業委員会の方と面談したりしました。まだまだ知らないことが山のようにあり、大変なことが多いですが、その分達成感や喜びも沢山あります。

国産栽培ならではの苦労

キクラゲは国産のオガクズや米ぬか、ふすまや大豆の胚芽などを自ら仕入れ、自社で菌床も生産しています。菌床から自社生産している農家、全国でもほとんどないと思います。肉厚でプリプリした歯ごたえが特徴です。

栽培の失敗事例はたくさんあるんですけど、とくに農薬不使用栽培なので、2021年のキノコバエの大量発生には泣かされました。ハウス内をまめに掃除したり、ダメな菌床を入れ替えたりといった基本的な対策は当時からやってはいたんですけど、一見して大丈夫そうに見えるキクラゲにも卵を産み付けられている可能性があり、全部の菌床を泣く泣く廃棄しました。

今は私をはじめ従業員全員が、より危機意識を持って初期発生の発見に注力するようになりました。キクラゲハウスの掃除をそれまでより徹底し、菌床にカビや虫を少しでも見つけたら、新しい菌床であっても廃棄するようにしています。

キクラゲ農家あるある

キクラゲアレルギーはご存じでしょうか?

私の場合は栽培するときに、キクラゲが飛ばす胞子等が原因で咳が止まらなくなります。告白して世間に公表してみると、意外にも同じような農家さんが沢山いてビックリ。苦労されている先輩方のお話しに自分だけじゃないんだ、と勇気をいただきました。キクラゲを食べる事に対してアレルギーは発症していないのはせめてもの救いでラッキーでした。

大型連休などの長期休みは市場がお休みのため、出荷できないキクラゲの収穫や処理に追われて大変です。とはいえ農家=全く休みが取れないというイメージがあったのですが、キクラゲ農家はきちんと休みを取ることができます。キクラゲはまだまだマイナー食材のため、規格が決まっておらず大きなものも小さなものも選別作業なく出荷箱に入れてしまえるのも要因のひとつな気がします。

これはキクラゲ農家に限ったことではないですが、栽培を通じて食と生きることの大切さを学んだり、色んな方との出会いがとても楽しいと感じます。マルシェに出店する機会が多く、そこで出会うお客様や出店者さん、農家として出店しているのに農家以外の方々にも沢山出会え、何より自分たちが愛情を持って作ったキクラゲを「美味しい」とおっしゃって購入してくれることがモチベーションに繋がっています。

加工品をキクラゲの妖精が売る!

6次産業化に積極的に取り組んでいる理由もキクラゲ愛ゆえです。

キクラゲは中華料理では一般的な食材ですが、他の料理に使うイメージがないので手に取ってもらいにくいという難点がありました。そこでまずは「いろいろな料理やスイーツにも使える」ことを知ってもらいたかったわけです。乾燥機を購入して乾燥キクラゲを作ったり、OEMでキクラゲの佃煮を作ったりと、加工品製造にも力を入れています。

おかげさまでイベントに出店したときなどは完売する商品も出てきました! イベントで馴染みの薄い一般消費者にキクラゲを手に取ってもらうにはどうしたらいいか、と考えて誕生したのが「キクラゲの妖精けっぴー」です。ちなみにキャラではありません! 私とは全くの別人のキクラゲの妖精です!  キクラゲの妖精けっぴーが売り込みをすると、企業の方や消費者の方からものすごい反響があります。人間の喚田恵子にはとても太刀打ちできません。

メディアにも取り上げてもらえ、「みんなに求められているのはキクラゲの妖精けっぴーだ!」ということで今に至っています。他の方たちがスーツのお堅いイベントでも、けっぴーが登場します。

キクラゲの魅力が沢山の方に届き沢山売れる事で、共にキクラゲを育てる施設の障がい者の方のお給料も上げる事ができます。

そう! キクラゲってみんなを幸せにするハッピーな食材なんです!

今後でいうと、キクラゲの廃棄菌床を再利用して堆肥にし、キクラゲからなる他の野菜をつくりたいなと思っています。え? 農業って、土ってどうやって耕すの?? 第二幕に続く(いや続かないって!)。

 

【農家の本音 〇〇(問題)を語る】記事一覧

筆者

喚田 恵子(キクラゲ農家)

愛知県豊川市出身のキクラゲ生産者で3児の母。「キクラゲの妖精けっぴー」とは別人格(「扮(ふん)している」とも言われる)だが、自ら店頭に立ってキクラゲを販売している。キクラゲの生産・販売に加えて6次産業化にも力を入れており、キクラゲを使ったスイーツを供する「甘味処よび田屋」を構えるなど、愛するキクラゲの魅力やポテンシャルを広く伝える。

 

 

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