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【誤り】発がん性のある除草剤グリホサート 藤田和芳氏(オイシックス・ラ・大地㈱代表取締役会長)

食と農のウワサ

「発がん性のある除草剤グリホサート」藤田和芳氏(オイシックス・ラ・大地㈱代表取締役会長)

AGRI FACTによるファクトチェック結果

その理由は?

各国の規制研究機関で高い安全性が認められ、世界150カ国以上で使用されている除草剤だから。

AGRI FACTのファクトチェック【対象と選択基準】
AGRI FACTのファクトチェック【評価基準と判定】


以上の要旨はAGRI FACT事務局が作成したものです。
詳細は以下でご確認ください。

農と食にまつわる噂・ニュース・風評の「ウソ?本当?」を検証するサイトAGRI FACT(アグリファクト)は2021年3月10日、「発がん性のある除草剤グリホサート」藤田和芳氏(オイシックス・ラ・大地㈱代表取締役会長)との投稿についてファクトチェックを行い、「科学的根拠なし」とする調査結果を発表した。
(*2021年12月更新)

ファクトチェックした投稿内容

「発がん性のある除草剤グリホサート」

投稿内容の原文(検証対象は太字部分)と出典

発がん性のある除草剤グリホサートが市販のパンに残留していることが、農民連食品分析センターの調査で分かった。残留していたのは15製品中13製品。原料は輸入小麦だった。国産小麦を使用した2製品からは検出されなかった。調査では、一般のパスタやシリアル、カップ麺からも検出された。
出典:藤田和芳氏(オイシックス・ラ・大地㈱代表取締役会長)のTwitter投稿(2020年10月3日午後4時21分)

ファクトチェックの検証結果

藤田和芳氏は食材宅配大手オイシックス・ラ・大地株式会社の代表取締役会長である。食を扱う企業のトップとして、食と農に関する言動には大いなる責任が伴う。その藤田氏が繰り返しTwitterで投稿しているのが、「発がん性のある除草剤グリホサート」というつぶやきであるが、これには二つの大きな誤りがある。

まず「グリホサート」は除草剤ラウンドアップ(および無数のラウンドアップ類似製品)の除草に作用する有効成分の名称であり、グリホサートという除草剤製品は存在しない

次いでこのつぶやきの最大の誤りは、「発がん性のある」という部分である。除草剤ラウンドアップの有効成分グリホサートの安全性については各国の政府機関で厳しい審査が行われ、その高い安全性が認められた結果、使用が許可されている世界の規制研究機関によるグリホサート評価サマリー表(日本語版)によると、世界各国の規制研究機関は「人に対しての発がん性がある可能性は低い」、「人の健康に対してリスクはない」、毒性があるという根拠はほとんどない」、「『国際がん研究機関(IARC)』の発がん性の危険分類には正当性がない」といった評価をグリホサートに与えている。

高い安全性が認められたグリホサートは現在、世界150カ国以上(2021年10月現在)で使用される世界でもっとも使用量の多い除草剤なのである。世界のグリホサート承認国一覧を参照されたい。なお、EUでは農薬の有効成分について欧州食品安全機関(EFSA)が評価し、欧州委員会が承認を行う。その承認結果は全 EU 加盟国に適用される制度になっている。グリホサートが世界中の農業生産現場で安全に使用されている事実は、食と農に携わる者の常識である。

したがって、藤田和芳氏の「発がん性のある除草剤グリホサート」という投稿は、「科学的根拠なし」【評価基準と判定】)と判断される。藤田氏は「日本の農業を守ること、人々の健康と命を守ること、持続可能な社会を創ることを目標にしています。」とTwitterのプロフィールに書いているが、グリホサートに関する不正確なつぶやきを繰り返し投稿することは、日本の農業、人々の健康と命を不要な危険・不安に晒す行為である。「投稿は会社の見解ではありません。」とのエクスキューズは免罪符にはならない。

疑惑のIARC(国際がん研究機関)報告

読者の誤解を解くために、グリホサートの発がん性をめぐって、よく聞く疑惑に対する正確な情報を付け加えておく。

2015年にIARCは、グリホサートをグループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類すると発表した。このIARCの分類は、IARCが実験などを実施したわけではなく、「科学的根拠の強さ」、わかりやすく言うと「発がん性が疑われると結論付けた論文がある」と言っているだけで、論文の数が一番多いものがグループ1、その次に多いものをグループ2に分類している。決して実際の発がんリスクの高さ(発がん性の強さの証明)を分類したものではない

グリホサートに発がん性があるとした論文が各国の研究規制機関で精査され、2016年には世界保健機構(WHO)と世界農業機関(FAO)が共同で「グリホサートに発がん性はない」と発表し、IARCの見解を否定した。各国の研究・規制機関での公式見解の特徴は、再現性のない「非科学的」な根拠を基にしたIARCと異なり、世界共通のルールに基づいた実験法を用い、「科学的」に否定をしていることである。しかし、IARCの評価が取り消されることはなかった。

世界の政府機関の判断をなぜIARCが否定したのか。グリホサートの評価を行ったIARCのブレア委員長は、米国農民の調査結果からグリホサートに発がん性がないことを知りながら、その事実を無視して「おそらく発がん性がある」という結論にしたと、ロイター通信社が2017年の報道で明らかにした。ブレア委員長自身が、この調査結果を無視しなければ、IARCの結論は違ったものになっていたことを認めている。*疑惑の国際がん研究機関(IARC)報告

訴訟ビジネスとしてのラウンドアップ裁判

IARCの非科学的な評価に目をつけたのが、ラウンドアップ裁判で原告が勝訴した3つのうちの1つ、ジョンソン事件の原告弁護士の一人、リッツンバーグ氏である。彼は「私の専門は発がん性商品の不法行為を問う訴訟案件だ。担当していたがん関連裁判が一息ついたので、事務所にとって次の大きな獲物を探していた。そんなとき、IARCの報道を知った。そこで、製造元モンサント(現バイエル)を相手取って裁判を起こすことを決め、(原告の)一般公募を開始した。」と取材に対して答えている。

リッツンバーグ氏はラウンドアップ裁判の勝訴後、グリホサート製造企業に対して高額の顧問契約を持ち掛け、拒絶すれば裁判に持ち込むと脅迫した罪で連邦捜査局(FBI)に逮捕されることになった。

日本では米国のラウンドアップ裁判で原告勝訴の判決が出て、巨額の賠償金が認められた事件があることから、「グリホサートの発がん性が裁判で認められた」という情報が流れている。しかし、その情報は正確ではない。

ラウンドアップの発がん性は裁判の重要な参考事項だが、争点ではない。裁判はそもそも、発がん性の有無といった科学的な評価をすることはできないし、科学的な評価を行う場ではないからだ。ラウンドアップ裁判とは、被告の「不法行為」に基づく原告の「人身被害」の有無を争う損害賠償請求訴訟である。

とはいえ裁判でラウンドアップの発がん性が議論されなかったわけではない。原告側と被告側が複数の専門家を証人として呼び、証人は陪審員の前で発がん性についてまったく違う意見を述べた。陪審員は科学者ではないので、どちらの主張が科学的あるいは医学的に正しいかを判断できないが、評決を出さないわけにはいかないので、「発がん性がある」という意見の方が信頼できると判断し、これに基づいて原告側の責任を認めたのである。

原告が勝訴したのは、ラウンドアップの発がん性を証言した証人の方を陪審員が信じたからだが、それがイコール、ラウンドアップの発がん性が科学的あるいは医学的に「ある」ことをアメリカの裁判所が認めたことにはならない。*【アメリカのラウンドアップ裁判って何?】Q ラウンドアップ裁判では本当に“発がん性のある・なし”が争われているのですか?

科学的に否定されたセラリーニ論文

もう一つ、日本でラウンドアップ製品の発がん性が取りざたされる要因になったのが、フランスのセラリーニ教授のラットを使った実験である。「ラウンドアップを与えなかったグループも老化で腫瘍があらわれたが、ラウンドアップを与えた方は、腫瘍(がん)の数が2〜3倍あった」とする実験は、ラットにできた巨大な腫瘍のショッキングな画像のインパクトとあいまって、現在でも直接もしくは引用される形で流布している。

しかし、セラリーニ氏が発表したこの論文は、使用したラットの種類、試験に用いた動物の数、発表したデータなどが世界的に認められた標準的手法に従っていないため、「各国の登録関係機関から信頼できる結果ではない」と判断されている。そのため、当初発表された学会誌から掲載を撤回されたいわくつきの論文であり、これを根拠にしたり引用したりする学者やジャーナリストは科学的素養を疑われる。

さらに、ヨーロッパではセラリーニ氏の論文が社会的な論争になったことから、セラリーニ氏の試験で生じた懸念や疑問について精査することを目的と、EU が出資し、ラット90日間摂餌試験、慢性毒性試験 (1年間)及び発がん性試験 (2年間)の試験が実施され、報告書が発表された。こうした試験の結果、グリホサート製剤の有無にかかわらず悪影響は観察されなかったと結論付けられた。セラリーニ論文は科学的に認められておらず、この論文を引用した情報にも注意が必要である。

輸入小麦を食べても健康に影響なし

この投稿には、科学的根拠のないつぶやきがまだ含まれている。藤田氏は残留グリホサートが市販のパンやパスタ、シリアル、カップ麺からも検出されたとつぶやき、それらを食べた消費者に発がんリスクがあるかのような不安を煽っていることだ。

日本の食品安全委員会が定める人間1人が1日に摂取しても体に影響しない安全なグリホサートの量は、体重1kg当たり1mgである。農民連食品分析センターの調査で分かった、市販のパンに残留していたとされるグリホサートの量は1kg当たり0.1〜1.1mg程度。仮に1mgだったとして、体重50kgの人が許容量を超えるグリホサートを摂取するには、1日に50kg、つまり自分の体重よりも重いパンを食べ続けなければならないことになる。好きなだけ小麦製品を食べ続けたとしても、検出された「ごく微量」のグリホサートでは、体への影響はまったくない。これも食と農に携わる人にとっては基礎的な知識である。

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