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アメリカでラウンドアップ訴訟の原告数が急増しているのはなぜですか?

食の疑問答えます

A モンサントを買収したドイツ製薬大手バイエルは2019年10月、ラウンドアップをめぐるアメリカ国内における訴訟が、7月から10月までの間に原告数が4万2700件まで急増したと発表しました。7月の時点では1万8400件だったので、2倍以上に増えていることがわかります。

ラウンドアップ裁判の原告を募集するテレビCMが急増

急増した理由は簡単で、ラウンドアップ裁判の原告を募集するテレビCMが急増したからです。その広告費は3カ月間(2019年7月からの9月)だけで50億円を超え、2019年上半期(6カ月)を通じた額と比べ倍増しています。広告の出稿回数が増えただけ、応募者数も増えたのです。ラウンドアップの危険性とは何の関係もありません。

ではなぜ、広告費が急増したのでしょうか。テレビCMが急増し始めた7月の前月、あることが起こりました。被告のバイエルが原告と和解するのではないかとの噂が訴訟業界に広まったのです(バイエル社は否定)。とくに和解金の額に注目が集まりました。訴訟マーケット専門のアナリストが弾き出した推定額は、最低60億ドルから最高200億ドルという膨大な金額でした。

和解金の分け前を成功報酬として手に入れようと思えば、弁護士は和解前に原告をできるだけたくさんかき集めなければなりません。いわゆる駆け込み需要を取り込むために、広告への投資額が急増したのです。

テレビ広告をみて応募した原告にとってみれば、失うものは何もありません。「そういえばガンで亡くなった夫が庭でラウンドアップを使っていたなあ」と思い出し、コールセンターに電話し、求められた必要書類を提出するだけ。あとはいくら和解金が当たるか結果はお楽しみです。

訴訟専門のマーケティング会社の存在

和解金欲しさにラウンドアップ裁判に群がっているのは、弁護士や原告だけではありません。弁護士に広告資金を融通するファイナンス会社や訴訟専門のマーケティング会社の存在も見逃せません。

とくに今回、原告数が急増した背景として、大手の訴訟マーケティング会社が果たした役割が大きいといわれています。多額の広告費を投入したのです。

訴訟マーケティング会社の業務は、裁判の原告志願者という弁護士にとって金になる“見込客”名簿を収集することです。集めた名簿は、和解金の相場や原告としての価値にもとづき、一人当たり数百ドルから数千ドルで弁護士に販売されます。

原告の値段は、商品(例:ラウンドアップ)の使用履歴・頻度、現在罹っている病気の種類、深刻度等などをもとに、使用と被害の関係レベルの高さによって値付けされています。

原告は知らないうちに完全に商品化され、売買されているのです。

仮に原告一人当たり30万円で1万人分のリストを販売できれば30億円の売上です。広告等に10憶円のコストを投入したとして、20億円の暴利です。

資金やノウハウのない中小の弁護士事務所ではこうはいきません。突然、和解金相場があがったからといって、急に何億円もの広告は出すことはできません。しかし、それでは商機を逸してしまいます。

そこで今回のように投資リスクをとるのが訴訟マーケティング会社なのです。そのおかげで、弁護士は宝くじを買うように少額で原告候補リストを購入できる仕組みがアメリカでは成り立っています。安くリストを買って訴えた結果、何千万円もリターンがえられれば大儲けです。

一方、マーケティング会社は多数の弁護士事務所を顧客に持つことで、広告費が投資倒れにならないようにしています。毎月定額の会費を支払う事務所だけ一定のリストを渡す契約を結ぶなど、囲い込み戦略をしています。

サービス体系も様々です。買ったリストの人物がウソをついていたり、偽の書類を提出していた場合、弁護士事務所に対してクーリングオフなど返品サービスを提供する会社もあるほどです。

ラウンドアップ裁判以前に、和解金マーケットにおいて、このような緻密な投資と分配システムがあるからこそ、短期間の間に原告数を急増させることが可能なのです。

回答者

唐木英明(公益財団法人食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授)
浅川芳裕(農業ジャーナリスト、農業技術通信社顧問)

編集担当

清水泰(有限会社ハッピー・ビジネス代表取締役 ライター)

回答日

2020年1月15日

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