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ラウンドアップ裁判の被告“モンサントが孤立無援”というのは事実ですか?

食の疑問答えます

A 被告のモンサント(現在は独バイエルが買収)は孤立無援のように見えて、そうではありません。アメリカには全米の生産者団体と農業州の共和党議員という一貫して農薬メーカー側を支持する2大勢力が存在しています。

戦う以外の選択肢がない

全米の生産者団体はラウンドアップ問題が始まって以来、農薬メーカーと共に戦ってきました。戦う相手は大きく分けて、農業への規制強化を推進する民主党左派やその支持基盤である反バイオテクノロジー(反GM・反農薬)活動家グループ、次にラウンドアップをネタに荒稼ぎする訴訟ビジネス弁護士、そしてカリフォルニア州の規制当局です。

アメリカの生産者にとって、この戦いはラウンドアップという一商品を擁護するかどうかの問題ではありません。主成分にグリホサートを使った除草剤は国内750商品以上あり、登録メーカー数は20社以上。農薬メーカーが所定の手続きに沿って審査をクリアし、登録された除草剤がある日突然、非科学的な裁判のせいで使えなくなったらどうなるか。生産者にとって死活問題だからです。現実に雑草処理ができなくなり、収量は大幅に減る。損失は計り知れず、このままでは農業で食えなくなる日がやってくる。そうならないために、戦う以外の選択肢はないのです。

ラウンドアップがなくなると、ほとんどの遺伝子組換え作物(GM)の栽培ができなくなる

さらに大きな問題は、全米でもっとも使用されている除草剤のラウンドアップがなくなると、ほとんどの遺伝子組換え作物(GM)の栽培ができなくなることです。現在栽培されているGMの8割が「ラウンドアップレディー」と呼ばれる種類で、ラウンドアップを散布しても枯れません。ですから雑草だけを簡単に効率よく枯らすことができるのです。ラウンドアップをなくすことはラウンドアップレディーをなくすことであり、GMの8割をなくすことにつながるのです。

経済損失の試算も出ています。食品農業政策センター調べによると、除草剤が使えなくなった場合、米国の穀物農家の収入損失は年間210億ドルに上るといいます。別の機関「アメリカ雑草科学学会」の調査では、北米のトウモロコシ及び大豆生産に限っても経済的損失は430億ドルになるという推計を発表しました。GMの大部分をなくすことは世界の食料の安定供給にも大きな影響を与えるでしょう。

農業界が手を組んで戦っている

共和党系の政治家たちも「憲法違反だ」と生産者団体を支援する声を上げています。2018年2月の判決では、表示義務の仮差し止めを求める原告側生産者団体の主張を認め、保守派の裁判官は判決の中で「グリホサートが実際にはがんを引き起こすことが科学的に証明されていないという事実の重さを考慮すると、要求されている表示は事実上、不正確であり、誤解を招くものである」と述べています。この判決は日本でほとんど報道されませんでした。

どんな生産者団体が戦っているのでしょうか。代表例はカリフォルニア州を相手取った裁判の原告代表は全米小麦生産者協会(NAWG)で、主要小麦生産州20州に支部があり、首都ワシントンDCにもロビー事務所を構える農業界を代表する団体(※1)です。

さらに、死活問題なのは農家とメーカーだけではないため、農業資材の業界団体や商業系の団体(※2)も多数原告に入っています。農業資材の卸、小売業者も裁判に加わっています。

※1 モンサントと共に原告に加わったNAWG以外の全国団体は、米国デュラム小麦生産者協会、全米トウモロコシ生産者協会が名を連ねている。その他、州別の生産者団体3組織(ミズーリ州ファームビューロ、ノースダコタ州穀物生産者協会、アイオワ州大豆協会)
※2 米国の農薬業界団体クロップライフアメリカや農業資材の州別団体アイオワ州アグリビジネス協会、サウスダコタ州アグリビジネス協会のほか、モンサントのお膝元ミズーリ州の産業団体、商工会議所

回答者

唐木英明(公益財団法人食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授)
浅川芳裕(農業ジャーナリスト、農業技術通信社顧問)

編集担当

清水泰(有限会社ハッピー・ビジネス代表取締役 ライター)

回答日

2020年1月16日

 

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