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第27回 オーガニック給食問題まとめ(前編)【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】
全国オーガニック給食フォーラム開催
2022年10月26日に、なかのZERO大ホールで開催された「全国オーガニック給食フォーラム」には主催者発表で会場1,100名、オンライン1,800名、また10名以上の国会議員、40以上の自治体首長の参加があったという。
農水省や文科省の官僚も登壇し、中野区の後援を得るなど、オーガニック給食をテーマにした集いとしては文字通り、過去最大級の規模になる。
本連載では度々、オーガニック給食という現象の背景と、そこに潜む危うさについて解説を試みてきた。
今回のフォーラムには、こうした批判的な声にも真摯に向き合う姿勢を期待したが、参加者に配布された資料集を読む限り、残念ながら全くその気配は見られない。
農水省や自治体の後押しを追い風に、今後オーガニック給食導入の声は各地でますます大きくなっていくだろう。
そこで今回は、これまで何度か取り上げてきたオーガニック給食運動の問題点をあらためて整理することを目指した。
① 慣行農業に対する事実に基づかない危険視と偏見の助長
② 発達障害に対する無理解と差別的偏見、自己責任論の助長
③ 反医療運動、陰謀論団体、カルト宗教、マルチ商法等との接点
④ ①〜③を通じた運動の先鋭化、自己目的化
これらの点はいずれも、給食に有機食材を導入することで考えられるメリットや、導入を望む動機についても十分に理解した上で挙げているものだ。
オーガニック給食の実現や拡大を無条件の絶対善として思考停止するのではなく、批判的検証に耐えうる健全な運動として、自浄作用を発揮しながら進展することを願ってやまない。
問題点① 慣行農業に対する事実に基づかない危険視と偏見の助長
まず第一に、慣行農業や化学農薬・化学肥料・食品添加物等に対する誤った認識や古い情報、あるいはエビデンスレベルの低い研究、それらの恣意的な引用(チェリーピッキング)などを通じて、既存の給食や使用食材による健康不安を過剰に煽り、保護者らの子どもを想う心(恐怖心や自責の念まで含め)を推進力として利用している点が挙げられる。
それにより食品安全に関する誤った認識や情報を広げ、本来必要のない過度な不安を保護者らに与え、慣行農業への不当な危険視と偏見、コミュニティの分断を助長するおそれがある。
これらは総じて、有機農業が慣行農業より絶対的に優れており、上位に位置するものであるという極めて単純で浅薄な農業観を前提としている。
なおかつ、農業現場に対する消費者の無知・無理解を助長し、温存することによってしか支えられないものである。
そもそも有機農業者の間でも、現代の慣行農産物が有機と比べて安全性の劣るものではないという認識はごく一般的で、珍しくないものになっている。
食味や栄養価に関しても、個々の土づくりを含む栽培技術や品種選びに左右されることはあっても、農法により一律に優劣が出るなどという捉え方は、生産者からすればあまりに雑で、ナンセンスなものだ。
「仮に慣行農産物の危険性が科学的には証明できないとしても、オーガニック給食を望むのが『市民の声』である以上は応えるべきだ」という言い方もされるが、その「市民の声」自体が誤った情報に基づいて煽動され、増幅されたものであるとすれば、応える理由は失われる。
そのような過激で根拠のない主張に頼らなくても、学校給食への有機農産物の導入は十分に可能であるはずで、健康不安を煽るようなアプローチはかえって有機・慣行を問わずあらゆる農業者を貶め、社会に分断をもたらすものだという認識がまず前提として共有される必要がある。
参考記事
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問題点② 発達障害に対する無理解と差別的偏見・自己責任論の助長
オーガニック給食を推進する市民団体などが引用する様々な資料で、発達障害の増加と農薬の関連性(あるいは、発達障害様の症状の抑制と有機農産物の関連、もしくはその両方)が強調されている。
その際に提示される根拠はいずれも科学的に薄弱なものであるにも関わらず、ほとんどの場合、引用者はこれらを事実上断定的に結びつけており、保護者等に発達障害に対する誤った認識や懸念を植え付けかねない内容となっている。
このような主張は実際のところ、発達障害の専門家や支援の現場では相手にされていない。
なぜなら、「発達障害の原因が微量の化学物質にある」として健康食品等のセールスに利用する手法は、ワクチン反対運動など様々な場で既に繰り返されており、関係者にとっては何ら目新しいものではないからだ。
また、発達障害が「なってはいけない、かわいそうな、悪いもの」と位置付ける認識自体が、当事者支援の発展や支援現場の積み重ねてきた努力に完全に逆行している。
発達障害への根本的な無理解が前提になければ、このような稚拙な認識には到達し得ない。
何より、当事者やその家族の尊厳を著しく貶めるものであり、倫理的にも容認し難い。
実際にSNS等では当事者やその家族から、このような認識に対する怒りや戸惑いの声、是正を求める声が散発的に上がっているが、オーガニック給食推進運動の当事者から誠実な応答がなされたという情報は今のところ一度も入ってきていない。
なお、そうして声を上げたなかには「ずっと健康に気を遣って有機食材を選んできたが、それでも子どもが発達障害の診断を受けた」という経験を持つ方も含まれる。
参考記事
オーガニック産業は先人たちが築き上げた衛生的な社会や食の安全にフリーライドしているのではないか。添加物や農薬でがんになる、アトピーになる、発達障害になると騒ぐ狼少年ではないのか。 構成・タイトル写真 加藤文 オーガニックを意識したのはいつからだろう 1990年代半ばに、オーガニック(有機栽培)食品事業を起業した人物からマーケティングや広告戦略の相談を持ちかけられたことがあった。彼はアメリカから輸入した有機栽培トマトの水煮缶を大量に抱え四苦八苦していたが、これほどに当時はオーガニックへの注目度が低くく需要もまだ多くなかったのである。 日本での有機食品の市場規模の推移を調べてみ
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