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第30回 オーガニックカルトを社会課題化する(後編)【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

入口としての自然食品店・自然派生協

オーガニックカルト(特定の集団や個人だけではなく、その影響を受けた情報や信念も含む)を他分野のカルト問題と接続して考える意味は、他にもある。

なぜなら、オーガニック食品へのごく普通の関心が、結果的にとして他のカルトへの入口として機能してしまっている側面があるからだ。

特に自然食品店や自然派生協などは、

・食品という、日常生活にきわめて身近な分野
・商品単価が安く、お試しで購入しやすい
・特別な強い動機がなくても、より安心な食品が欲しいという素朴な理由で選択される
・生活に取り入れたとしても、即座には従来の人間関係や生活環境と競合しない
・店員にも悪意はなく、一見してカルト的側面が潜んでいるようには到底思われにくい(ただし、メーカーの意図から離れて健康効果を強調して販売されるケースはあり得る)

といった点で、誰もが目に触れ、利用する可能性があるが、それゆえに前述のように反医療カルトなどとの接点になることが往々にして起こりがちである。

具体的に一例を挙げよう。

有機農産物宅配などの事業をおこなうコープ自然派奈良が毎週発行している機関紙をひらくと、最初に目に入る表紙のほぼ全てを使用して「コロナワクチン後遺症」当事者の声が細かい文字でびっしり記載されている、といったケースがある。(※1)

カジュアルな影響力

こうした特徴の意味するところは、当事者が特別に社会から疎外された経験や、人生の大きな変化を求めるなどの強い動機がなくとも、オーガニック食品を手に取る程度のことで、地続きの日常を通じてカルトの影響を受け続ける可能性があるということだ。

接触が繰り返されることで情報に対して親しみを覚えるようになり、警戒心も下がっていく。

そうして結果的に関心が高まれば、とりわけ大きな出費や決断、生活環境の変化などを伴わずとも、お話会や映画会などさまざまな「次のイベント」が用意されている。

そこでは例えば、元農相が反医療カルトのシンボル的なインフルエンサーと懇意に対談する姿なども見せられる。

子育て世代を対象とし、託児サービスつきで開催されることも多いため、参加者は産前や産後のさまざまな心理的不安、ゆらぎを抱えるなかで、それらの情報に接することになる。

オーガニックからの医療ネグレクト

もう一つ例を挙げる。

歴史ある自然食品店として知られる株式会社クレヨンハウスが発行する、『クーヨン』という育児雑誌では、オーガニック食品や自然な子育てを推奨する一方、子供への予防接種は打つ必要がないと受け取れる記事をたびたび掲載している。(※2)

クーヨンは一般の書店でも販売されていて、手に取りやすい。

また、クレヨンハウスは食品以外にも、子供向けの書籍や自然素材の雑貨・日用品の販売、子連れで利用できる自然食レストランを展開しているほか、イベントも多数開催しており、実に多様な接点でオーガニック商品や情報の窓口となっている。

そのクーヨンに登場する医師が、子供の予防接種は危険なので打たない方が良いと言っていれば、読者のなかから予防接種をためらう親が生まれるのは何ら不思議ではない。

その判断を一概に責めることはできない。

だが、きわめてカジュアルな流れで起きているこの出来事は、日本小児科学会などが作成する『子ども虐待診療の手引き』によれば、子供に対する「医療ネグレクト」、つまり虐待の一種とされている。(※3)

ネグレクト(=子どもの心身の正常な発達に必要なケアを与えないこと)はここで6類型に分類され、医療以外に「栄養・衣服・衛生」「情緒」「監督」「教育」「遺棄・殺人」などの分野がある。

出産を機にオーガニック食品に興味を持つ、という何気ない関心から「医療ネグレクトという虐待」にたどり着くまでの道はおそろしく平坦で、導く側も導かれる側も、さほど強い覚悟や決断を経て歩んでいるわけではないだろう。

自然派被害(オーガニック・アビューズ)

オーガニックカルトの影響により生み出される被害や影響全般を、仮に自然派被害(オーガニック・アビューズ)と名付けてみる。

典型としては、オーガニックや玄米菜食を基本とする食事療法で病気が治る(ので、標準医療を受けるべきではない)と勧められたり(※4)、アトピーやアレルギーの原因を食事に求めて受診を忌避し悪化したケース(※5)などは、他分野のカルトと接続されつつ起きてきた自然派被害と捉えることができるだろう。

直接オーガニック商品を購入しない場合でも「親の食生活や食品選びが原因で子供が障害を背負った」などとする根拠のない言説に触れたことで、保護者が自責の念や不安感・不快感を抱くケースも含めたい。

また、これらと表裏一体で常に繰り返されている、慣行農産物に対する謂れのない蔑視や危険視は、慣行農業をおこなう生産者に対する風評被害や心理的攻撃という意味で、自然派被害の一形態と言い表すことができる(多くの場合、それらはオーガニック食品の優位性を強調する目的でおこなわれる)。

国や自治体による被害拡大の助長

さらに、こうした被害を生み出しかねない活動や団体に対して、国や自治体が後援を与えるなどして消極的に認容してしまうケース(断る理由がないため)、逆に何らかの事業における実績づくりを優先して、問題点にはあえて目を向けないというかたちで積極的に認容しているケースも、近年のオーガニック給食運動などでは多く見られる(※6)。

地方議員や国会議員も同様に、これらを無責任に後押ししている場面が目立つ。

これらは「政治や行政によって自然派被害の拡大が助長されている」という表現ができるだろう。

ただし今後、カルト被害者救済の国民的議論にオーガニックの問題が含まれていくことは、従来からの有機農産物やいわゆる自然食品をなんら否定したり排斥するものではない。

むしろ、それらを取り扱う事業者や、愛好する生活者とも共有し、協力を得られるようになっていくことがのぞましい。

そこでは単に特定の団体活動だけを法的に制約するなどの方向ではなく、オーガニックカルト問題の実情に見合った形で、たとえば問題のあるプロモーションの仕方でオーガニック食品を販売しているような事業者にとって、今まで通りの発信を続けることが売上や企業イメージに悪い影響を与え、デメリットの方が大きくなるような環境を、社会的に作り出していく必要がある。

そうしてオーガニックカルトが無自覚に持ち続けてきた加害性を、社会に浮かび上がらせていく。
そのためには、外部からの指摘は当然重要であるものの、それだけでは足りない。

オーガニックカルトの世界観からは、不都合な声は「正義ゆえに攻撃されている」と受けとられ、かえって結束を高める「強化イベント」となりかねない。

だが、有機農業やオーガニック食品に関わる当事者のなかから声が上がっていけば、彼らにとっても容易に無視できない力となるはずだ。

オーガニック給食等に関する報道の勢いとは裏腹に、有機農業やオーガニックという言葉への不信感が国内でじわじわと高まっている今こそ、業界の内側からしがらみを越えて多くの人に声を挙げてほしい。


※1 コープ自然派奈良『まほろば元気通信』2022年40号

※2 『月刊クーヨン』2018年12月号「特集 イヤイヤ受診はもったいない! 子どもの健診 活用マニュアル」に対する、小児科医によるAmazonレビュー

※3 『子ども虐待診療の手引き』改訂第3版(公益社団法人日本小児科学会)

※4 第4回「自然派被害」は自己責任なのか(後編)

※5 第13回 デトックスという物語、毒出しという疑似科学

※6 第28回 オーガニック給食問題まとめ(後編)

〜前編はこちら〜

 

※記事内容は全て筆者個人の見解です。筆者が所属する組織・団体等の見解を示すものでは一切ありません。

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