会員募集 ご寄付 お問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています

VOL.22 マルチ食品の「ミネラル豚汁」が被災地にやって来た!【不思議食品・観察記】

コラム・マンガ

科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々や、それを楽しむ人たちをウォッチし続けている山田ノジルさんが注目するのは、前回に引き続き、能登半島地震発生時の被災地「食糧支援」をめぐる動き。今回は、健康飲料がたっぷり投入された、炊き出しの豚汁についてお届けします。

炊き出しの豚汁に健康飲料を無断混入

「来る。きっと来る……!」。そう思っていたら、本当に来た。貞子じゃなく、マルチ商法がらみの食品が。被災地への食料支援という大義名分に加え、現地の混乱に乗じることで入り込みやすく、さらに善行気分で気持ちいい。いい事尽くしですね(全然よくない)。

現在話題はひととおり通り過ぎていますが、前回の山崎パン同様に備忘録として当連載に記しておきたいのは「ドテラの健康飲料入り豚汁」です。とある団体が被災地で炊き出しを行った際、マルチ商法の会社である「ドテラ」の健康飲料を、大鍋の豚汁へドボドボドボッと豪快に加えている画像が拡散され、世間をざわつかせた出来事です。

これは、Vol.6「マルチ料理」でも紹介した「ミネラル」という健康飲料。ミネラルの活用法をSNSで眺めていると、そのまま飲むだけでなく、様々なものに混ぜる手法が当たり前になっている様子が伺えます。豆腐やパン、キムチを手作りする際に投入したり、肌トラブルにスプレーしたり。ですから豚汁に加えるのも、さぞかし抵抗なかったことでしょう。我らとは異なる価値観で調理されている、マルチ料理の奇妙さよ。

ミネラル豚汁が炎上したのは、「ミネラルは、いくらとっても問題ない」という主張が出てきたことも大きそうです。他にも健康食品を相手に知らせず料理に加えるという倫理的な点など問題は多々ありますが、筆者の印象に残ったのは「謎の上から目線」です。

まず、炊き出しの豚汁に健康飲料を加えたのには、こんな理由が想像できます。

1.食べ物が偏りがちな被災地で、少しでも栄養をとってほしいから。
2.マルチ商法は会員が在庫を抱え込みがちなので、単純に消費したい。
3.「社会貢献」という実績を作り、新会員獲得のためのPRとする。

普通に見れば「1」は単なる親切心ですが、その中にどこか「無知な人々に与えてあげる」といわんばかりの奢り臭が漂っていませんかね。

一般に、マルチ商法の甘言にはこんなものがあります。

「いいものだから皆に教えてあげたい」
「見込みのあるあなたには、特別な情報を教えてあげる」
「その栄養の常識、実は間違い!」(と謳って逆張りする=一般常識を否定する)
「世間の皆が知らないのは、知る人ぞ知る情報だから」
「意識が低い人には、この価値が分からない」

どの立場から言っているのかわからない、謎の万能感に満ちています(そうしないと物が売れないからなのだけど)。そうして会員は選民意識を植え付けられ(ホップ)、自分たちのやることは素晴らしいという気持ちよさで一般常識を忘れ(ステップ)、無断で豚汁へ健康飲料をドボドボー(ジャンプ)。

「いいこと」の名のもとに横行する蛮行

デザフェスで食中毒事故をおこしたデスマフィン同様「いいこと」への陶酔は、客観的な視点をぼんやりさせてしまう怖さが潜んでいがち。そうしてできあがるのは、成分的にも不安がいっぱいの、上から目線で与えられるマルチ料理。ミネラル豚汁が叩かれたときに出た「アンチは無知」という言葉には、その答え合わせであるように感じられました。

こうした特殊なグループは叩かれるほどに内部の絆が深くなるのもよくある現象ではあるものの、「さすがに豚汁の件はあかんやろ」と呆れていた常識的なドテラ―もいたことも、一応ご報告しておきましょう(豚汁画像が出回ってすぐに、とあるSNSのドテラ―グループを見に行き確認)。騒ぎが広まったことから「対象の被災者の承認がない場合には、絶対に行わないよう」と注意喚起が投稿されていましたが、これに関してはどことなく慌てて取り繕った感……。

上から目線はなくとも、純粋によかれとおもって意図的に加えたものが、死亡事故に至る例も多々あります。比較的記憶に新しいのは、1歳の女児が塩分補給にと塩を加えた飲み物を与えられた出来事や、生後6カ月の男児にハチミツを加えた離乳食を1カ月にわたり食べさせていたものです。悲惨すぎますね。

今回のミネラルの販売会社。主力製品は精油(アロマオイル)ですが、それもあちこちで「半強制的に飲み物や料理に入れられた」という報告が、筆者の元に届いています。そうして食べる料理やドリンクには明らかに体に喜ばしくない成分に加え、「特別にいいものを与えてあげている」という圧や、マルチコミュニティとの接点も含まれています。それはもう、フードテロと呼んでいいのでは。食品に含まれる成分だけではなく、嫌な体験もたっぷり摂取するハメに……。

現地入りするボランティアや支援物資の内容、医療崩壊等、様々な問題が浮き上がる被災地。「食べ物」についても、表に出ていない出来事がまだまだありそうです。

 

【不思議食品・観察記】記事一覧

 会員募集中! 会員募集中!

関連記事

記事検索

Facebook

ランキング(月間)

  1. 1

    (※終了しました)【特別セミナー】グリホサート評価を巡るIARC(国連・国際がん研究機関)の不正問題  ~ジャンク研究と科学的誤報への対処法~

  2. 2

    最終回 有機農業と排外主義②【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

  3. 3

    日本の農薬使用に関して言われていることの嘘 – 本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する

  4. 4

    VOL.22 マルチ食品の「ミネラル豚汁」が被災地にやって来た!【不思議食品・観察記】

  5. 5

    第50回 有機農業と排外主義①【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

提携サイト

くらしとバイオプラザ21
食の安全と安心を科学する会
FSIN

TOP
CLOSE