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【オーガニック問題研究会マンスリーレポート⑥】オーガニックカルトはトランプと排外主義の夢を見るか?①
秋田県が「刑事事件に問われる場合がある」と注意喚起をするに至った「あきたこまちR」反対運動(※1)に象徴されるように、農と食をめぐる誤情報やその拡散の仕方は年々先鋭化しており、ときに理不尽で言いがかりめいた悪質ささえ帯びるようになってきました。
本連載ではこうした問題を総合して「オーガニック問題」と呼んでいますが、今日のオーガニック問題はもはやそれだけを切り出して解決できるような規模のものではなく、世界を席巻する大きな(悪い)潮流の一部として捉えなおす必要があるのではないかと考えています。
もう少し具体的に言えば、第二次トランプ政権やイーロン・マスク氏、日本なら立花孝志氏や排外主義の政治家などが採用する言説や手法、振る舞い、そこへの支持の集まり方と、「オーガニック問題」との間には、全てではないにせよ、同じ時代を反映した現象として様々な共通点を含んでいるように思います。
トランプと山田正彦をつなぐ「3つのルール」
『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』という映画をご存知でしょうか。
イラン出身のアリ・アッバシ氏が監督を務め、アカデミー賞・ゴールデングローブ賞にもノミネートされた話題作です。つい最近、Amazonプライムビデオで配信が始まっています。
劇中で破産の危機に追い込まれた20代のドナルド・トランプは悪名高い弁護士ロイ・コーンに出会ったことで転機を迎え、「勝利のための3つのルール」を伝授されます。
▽攻撃、攻撃、攻撃
▽絶対に非を認めるな
▽勝利を主張し続けろ
第二次政権における振る舞いを見るだけでも、今もトランプ氏にこれらのルールが息づいていることは明白ですが、ここでひとつケーススタディとして、元農水大臣の山田正彦氏の近著『子どもを壊す食の闇』を参照し、「3つのルール」に当てはまる部分を探してみましょう。
山田氏は農と食について多数の誤情報や陰謀論の発信を続けていることで知られ、日本のオーガニック給食運動を牽引してきた中心人物のひとりでもあります。
1.攻撃、攻撃、攻撃
本書の特に前半部分では、化学農薬、遺伝子組み換え、ゲノム編集、食品添加物などに対して根拠の薄弱な批判を執拗に繰り返し、食品としての危険性を強調することで、読者に誤った印象を与え、恐怖心を煽っています。
仮に山田氏が食品の安全性についてきわめて慎重な立場を採るのだとしても、より抑制的で丁寧な表現の仕方はいかようにも可能なはずですが、ここでの言葉選びはいわゆる「インプレ稼ぎのアテンションエコノミー」と大差ないものが多くを占めています。(より正確に言えば、読者層に合わせてか中高年向け週刊誌を想起させるワードセンスが目立つのですが。)
例えば第一章のタイトルは『農薬づけの日本の食卓』。
本文二行目から「日本は、許可されている農薬の種類が多く、農薬の残留基準値もかなりゆるい。そのうえ食品添加物の種類も世界でもっとも多く」とネガティブな情報を羅列しますが、その具体的な根拠は本の最後まで提示されることはありません。
そのほかにも「日本だけが野放し」「猛毒」などの強い表現や、また山田氏が省庁の担当者などに対して責任を追及して詰め寄ったかのような勇ましい記述が度々登場します。
トランプ氏と異なり、特定個人に対する攻撃や誹謗中傷までおこなうわけではありませんが、「私たちは●●に脅かされている・私たちの直面する困難は●●のせい」と外敵を設定し、それらを攻撃することで人々の負の感情を増幅させ、支持集めのブーストに利用しているという点では、本質的な違いはありません。
このような態度から明らかなのは、彼らにとって重要なのは事実や正確さではなく、「攻撃、攻撃、攻撃」で人の感情を刺激し、注目を集める方にこそあるということです。
2.絶対に非を認めるな
重大な誤りや問題点を指摘された際には、その声と真摯に向き合うことが対話の第一歩となります。
しかしトランプ氏と同様に、山田氏もそうした指摘を謙虚に受け入れる様子は確認できません。
そもそも本書に書かれている「食の安全」に関わる情報の大半は、出版以前から専門家や農業者らによって何重にも検証・否定され尽くしてきた内容です。
そのひとつひとつに向き合えば出版自体が困難になっていたでしょう。(※2)
例えば本書は出版前に帯文に「子供の発達障害の増加は食品の残留農薬のせい」と受け取れるコピーを記載したことが問題視され、多くの批判が寄せられた結果、出版社が発売を延期し帯が作り直されることになりました。
しかし、そのような騒ぎが起きてもなお山田氏から直接の応答がなされることはないまま、本文中ではたびたび発達障害を話題に挙げ、農薬の影響をほのめかす主張を繰り返しています。(※3)
売りとするナラティブ(物語)を揺るがすような批判を浴びた際には、真摯に対応するよりも最初から無視をして同じ主張を続けた方が、むしろ支持を集めることができる。
どうしてもうるさい場合には「フェイクニュースだ」と一方的に断ずるか、話をすりかえて「外敵」への攻撃に意識をそらせばいい。
それが最善手であるということを、彼らは他でもない自分自身の成功体験から学んできたのでしょう。
3.勝利を主張し続けろ
トランプ氏は大統領に返り咲いた現在に至ってもなお、2020年の大統領選での敗北が不正選挙であったことを主張し続けています。
実際には不正の証拠は何一つ認定されていないにもかかわらず、です。
山田氏の著書からひとつ似た例を挙げるとすれば、「第五章 日本のタネを守ろう」が該当します。
2020年に国会提出された種苗法改正案に対し、当時激しい反対運動を展開した山田氏は改正法の施行後も独自の解釈を重ねて、あたかも「私たちの懸念したことが今まさに現実化しつつある」かのような主張を続けています。
しかしその内容が意図的なミスリードに満ちていることはすでに詳細に検証されています。(※4)
それでも「▽絶対に非を認め」ずに、ほらみろ俺たちの言った通りじゃないかと「▽勝利を主張し続け」ることが、彼らにとっては決定的に重要なのでしょう。
トランプ氏の言動があまりに過激かつ甚大な影響を及ぼしているため、一見すると山田氏とは距離があるようにも感じられますが、その手法や振る舞いには多くの重なる部分があることをこれまでの例からも感じていただけると思います。
トランプも山田正彦もRFKJrを重用する
立場こそ違えど、両者にはもう一つ共通項があります。
反ワクチン活動家として知られるロバート・F・ケネディ・Jr氏を支持し、重用していることです。
ケネディ氏がトランプ政権入りし、米国の公衆衛生に深刻な混乱をもたらしていることは現在の報道で知られる通りですが、山田氏も以前よりケネディ氏への支持を表明し、自身の映画に出演させるなど親交があります。
もちろん『子どもを壊す食の闇』にも第一章から登場します。
山田氏自身が国内で反ワクチン集会や財務省解体を主張する陰謀論デモなどに度々参加していることから、農業以外でも思想的にケネディ氏と共鳴する部分が多くあるのでしょう。
日本でも7月の参院選に向けて、オーガニックや食をめぐる誤情報を政治利用する動きはますます過激化する危険性があります。
ちょうど本稿を作成している時点(2025年5月)でも、国民民主党が反ワクチン・オーガニック推進などで知られる須藤元気氏を公認候補として擁立し、問題になっています。
ワクチンのように即座に人命に関わり得る問題ではないにせよ、私たちはオーガニック問題を「たかが食の話」と侮ることなく、公正な社会を守るための抵抗の一角として対峙していく必要があります。
次回はさらに、トランプ氏やケネディ氏らに親和性の高い発言をおこなっているオーガニック・インフルエンサーたちを取り上げていきたいと思います。
※1 水稲新品種「あきたこまちR」を紹介します!【 秋田県からのお願い 】
※2 一例としてAGRI FACT内だけでも下記のような検証記事が掲載されている。
【誤り】検証内容「米国では(ラウンドアップの主成分グリホサートは)発達障害の原因のひとつ」山田正彦氏(元農水大臣)
【誤り】検証内容「数人の母親の母乳から最大で166マイクログラムのグリホサート(ラウンドアップの主成分)が検出された。体内に残留しないというモンサントの説明に疑義が生じた」山田正彦氏(元農水大臣)
※3 第39回 山田正彦『子どもを壊す食の闇』の闇
※4
第43回 種苗法改正反対の現在地
第44回 種苗法改正反対の現在地②
第45回 種苗法改正反対の現在地③
筆者熊宮渉(ダイアログファーム代表) |