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第6回 環境系団体によるグリホサート誤情報記事を検証【アメリカ産小麦は安全か】
アメリカ産プレハーベスト小麦健康悪影響説の火元は、第2回で紹介したサラ・ポープ氏の記事である。誤情報は同記事の引用だけでなく、筆者や内容を変えながら拡散されていった。その一例が、今回紹介するような環境系団体のWebサイトで2016年に公開された記事である。そのまま紹介すると誤情報の拡散につながる怖れがあるため、間違いが明白な部分にはAGRI FACTの検証記事を添えておく。前回までの本特集、さらに次回以降5回シリーズで掲載する全米小麦生産者協会の検証記事も参照されたい。
グリホサートのIARC分類
モンサント(現バイエル)社の除草剤ラウンドアップの有効成分グリホサートは、世界で最も広く使われている除草剤として認識されています。
グリホサートについては、2015年に、世界保健機関(WHO)の傘下にある国際がん研究機関(IARC)が、グリホサートをグループ2A「おそらく発がん性がある」に分類しました。カリフォルニア州でも、この除草剤を発がん性の疑いのある物質として分類する動きがあります。
グリホサートは内分泌撹乱物質であり、有益な腸内細菌を殺し、ヒトの胚、胎盤、臍帯細胞のDNAを損傷し、実験動物の先天性欠損症や生殖障害に関連するという健康への懸念を示す研究結果が増えています。
最近、発表された論文によると、グリホサートの使用量は増加の一途をたどっています。1974年に導入されて以来、全世界で189億ポンドが使用され、化学農業の歴史の中で最も広く、大量に使用された除草剤となっています。興味深いことに、1970年代半ば以降に作物に散布されたグリホサートの74%は、遺伝子組み換え(GM)作物のトウモロコシや大豆の栽培が米国および世界的に拡大したこの10年間に散布されたものです。
小麦の収穫を早めるために使われたグリホサート
グリホサートの使用量増加に関する論文を発表したベンブルック博士によると、収穫前の小麦にグリホサートを散布する「デシケーティング」という習慣は、1980年代にスコットランドで始まったという。
「スコットランドの農家では、小麦や大麦を均一に乾燥させて収穫を開始するのに苦労することが多かったそうです。そこで彼らは、収穫の1〜2週間前に(グリホサートで)作物を枯らし、穀物の乾燥を促進することを思いついたのです」と語っています。
収穫前にグリホサートを使用すると、通常よりも2週間も早く収穫できるため、北方の寒い地域では有利になる。この方法は、アメリカ中西部やカナダのサスカチュワン州、マニトバ州など、北米の小麦栽培地域に広がっていきました。
ノースダコタ州立大学の農学者であるランサム氏は、「乾燥処理は主に雨が多く、作物の乾燥が遅れている年に行われます」と述べています。
「乾燥を促進し、穀類の雑草や脱穀作業を遅らせる物質を抑制してくれます」と彼は言います。「雨の多い地域では重要な役割を担っています」とも。
ランサム氏によると、米国の主要な小麦生産州であるノースダコタ州では、過去15年間の湿潤な気候により、この作業が増加しています。水分の多い中西部上層部の州では一般的ですが、カンザス州、オクラホマ州、ワシントン州、オレゴン州の乾燥した小麦栽培地域では、乾燥処理はあまり行われていません。
農家と実業家と企業の声
サスカチュワン州のある小麦農家によると、彼の地域ではグリホサートで小麦を乾燥させることが当たり前になっているそうです。「サスカチュワン州のオーガニックでない農家は、毎年ほとんどの小麦畑でグリホサートを使用していると思います」と匿名で語りました。
匿名を条件にしているが、彼はこの慣行に懸念を抱いている。「私たちが使っている化学物質はすべて、ある程度、悪いものだということを農家は認識する必要があると思います」と彼は言う。
カナダで3番目に大きな小麦生産州であるマニトバ州でも、大多数の農家が小麦にグリホサートを使用していると、農家であり農業コンサルタントでもあるウィービー氏は言う。「マニトバ州の小麦面積の90〜95%は、収穫前にグリホサートを散布していると思います」
ミネソタ州のAlbert Lea Seeds社の共同経営者であるエールハルト氏によると、収穫前にグリホサートで乾燥させていない穀物を調達するのは難しいとのことです。
「従来型の穀物を生産している製粉業者と話をしましたが、収穫前にグリホサートを散布していないオート麦、小麦、亜麻、ライ小麦を調達するのは非常に難しいという点で一致しています」と彼は言います。業界では聞かず、言わずのポリシーなのです」
米国とカナダに穀物加工施設を持つGrain Millers社は、2015年、グリホサートで乾燥させたカナダ産のオート麦を購入しないと発表しました。同社のカナダ調達マネージャーであるタイソン氏は、Western Producer社に対し、グリホサートは自然な熟成プロセスとデンプンの発達を阻害し、結果としてフレークや小麦粉の品質を低下させると語った。今回の決定は、健康や安全性の問題とは関係ないという。
残留グリホサートが検出されるパン
サスカチュワン州の農家の方は、「これら(グリホサートの残留物)は問題にならないほど小さいと言われていますが、それを信じていいのでしょうか」と尋ねました。「グリホサートを使い、愛用している農家であっても、グリホサートが入ったパンは食べたくないと誰もが思うのではないでしょうか。」と。
小麦へのグリホサートの使用は、セリアック病の増加に関係しているのではないかとウィービーは考えている。「グルテン不耐症が爆発的に増加しています 」と彼は言います。
ウィービー氏も同様の懸念を抱いています。「消費者は、小麦粉やクッキー、パンなどの小麦製品を買うときに、それらの製品にグリホサートが残留していることに気づいていません」と彼は言う。「収穫の数日前に食品にグリホサートを入れるなんて、野蛮なことです」。
「製造されるわずか数週間前のチェリオに入っているオーツ麦にグリホサートが散布されていると知ったら、一般の人々の反応を想像できますか?」とエールハルトは問いかけた。
小麦粉からもグリホサートの残留が確認されている。2015年、ランサムはアメリカ小麦品質評議会に、アメリカとカナダの小麦粉サンプルを検査した結果、すべての小麦粉にグリホサートの痕跡があったと報告した。しかし、ランサム氏によれば、これらは小麦へのグリホサートの残留基準値30ppm(編集部註 日米などほぼ世界共通の値)を大きく下回っていた。
グリホサートの使用量の増加に対する懸念の高まりを受けて、米国食品医薬品局は最近、食品のグリホサート残留物の検査を開始すると発表しました。
フードシステムへの影響
小麦やオート麦の他にも、レンズ豆、エンドウ豆、非遺伝子組み換え大豆、トウモロコシ、亜麻、ライ麦、ライ小麦、ソバ、キビ、キャノーラ、テンサイ、ジャガイモなど、さまざまな作物の乾燥にグリホサートが使用されています。
ランサム氏によると、グリホサートで乾燥処理されている小麦やその他の作物の生産面積(エーカー数)については、統計がとられていないそうです。
グリホサートの収穫前使用は、除草剤全体の使用量に占める割合は少ないかもしれませんが、それでも大きな影響があるとベンブルック氏は言います。「農業での使用量は2%かもしれませんが、食事での暴露量は50%をはるかに超えています」と。
さらに、彼は言う。「モンサント社と食品業界がなぜ自主的にこのような行為をやめないのか理解できません。それが(グリホサートの)高い食事暴露の原因になっていることを知っているからです」。
ウィービー氏は「最も悲劇的なのは、産業界が小麦へのグリホサートの使用を奨励し、農家がそれを使用し、消費者がそれに気づかず、フードシステムに強力な影響を与えていることです」と語っています。
この記事は、アメリカ環境系団体のWebサイトに掲載された「なぜ収穫直前の作物にグリホサートが散布されるのか?」by ケン・ローズボロ2016年03月05日公開の翻訳をもとに編集した。